クズ家族、異世界に転移、転生する〜代わりに、借金五千万円返済できなかったら、地獄行きとかマジですか！？〜

借金野郎を許すな！立ち上がれ、真の勇者よ！

「殺してやるッ！殺してやるぞ！高岩直人！赤豚！」

尚弥が盾を構えると、あまりの剣幕に高岩もたじろいでしまう。
菜穂子などは恐怖で腰を抜かしているではないか。義喜も恐怖でバイオリンを弾く事もできない。
高岩一家はこのまま地獄送りにされるかと思われたのだが、これを阻んだ人間がいる。

そう、前世の叔父にして、今世では領主を務める木田亮一である。
亮一は声を高くして笑いながら、尚弥とその一行に向かって叫ぶ。

「ハッハッ、盾の悪魔め！弟たちは囮さ！お前の相手はこいつらが務める！」

亮一の背後からは大量の武装した冒険者たちの姿。恐らく、その数は小国の一個中隊にも匹敵するだろう。

「ハッハッ、お前は前世でも子供番組や漫画番組専門のお馬鹿ちゃんだったんだろうな。いやぁ、字幕も読めないから洋画も見れない生活を送ってた子だったんだろうねぇ。そんな、おばかちゃんたちはおれの肩書きを忘れていたのかな？」

亮一はおおよそ、主人公側の味方キャラが吐くような台詞ではないような台詞を尚弥に向かって吐いた後になって弟に向かって、親指を立てる。

「安心しろ！亮二！来るのが遅れたのはこういう理由だったんだッ！やれ、お前たちッ！」

もう完全に悪の組織の幹部の台詞である。だが、彼が有利である事には間違いあるまい。
盾の人こと尚弥の元に大量の冒険者たちが剣を振り上げながら降りてきた。
その代表格と思われる五人の冒険者たちが頭を下げて、それぞれの自己紹介を始めていく。

「麺の太田に」

「具の高浜」

「スープの横木。うっす、よろしく」

「ちょっと待て、完全に某有名グルメ漫画のあの有名三銃士じゃねーか！」

義喜の突っ込みを他所に、背後からは続々と何処かで見たような冒険者たちが姿を表していく。

「もうね、領主様に呼ばれた時、あたし、嬉しくってねぇ、もう頭がパーンとなりそうです」

「おれはね、嬉しくなるとつい殺っちゃうんだ。みんなも一緒にやってみようよ」

完全に某笑顔動画をきっかけにようつべを通じ、有名な教祖と某ビデオで有名なあの方である。ビデオで有名な方というのは察しがいい方ならばわかるだろう。

「おいおい、このネタはまずいんじゃねーのか、というか、色々とやべーだろ」

「盾の話を丸々使っておいて、何を今更って話だけどね」

義喜と菜穂子の漫才を他所に、冒険者たちは盾の人の一向へと襲い掛かっていく。
一歩的なリンチ。おおよそ、主人公側の人間がやっていい所業ではない。
だが、高岩とその兄は腕を組みながら、大量の冒険者に襲われる月尚弥の一行を眺めていた。

「やったぞ！盾の悪魔の最期だッ！この数ではどうしようもないだろう？このチキンハート野郎。この大軍を相手にまだイキられるのならば、言うだけバカのクズだぜ！ハッハッ！」

「流石はおれの兄貴だッ！いいぞ！おれとおれの娘をバカにした報いを受けやがれ！」

二人の指示の下に、集まった冒険者たちは盾の人とその奴隷の亜人の少女に向かって執拗な攻撃を仕掛けていく。

「クソ、こいつら……」

「尚弥様！ここは引いた方がいいでしょう！……時間は私が稼ぎます」

亜人の少女は盾の人を背後にやると、両手を震わせながらも、両手で剣を握り、目の前から迫る大軍を睨む。

「無茶をするな。マフテリア……デーロとあの子を連れて逃げろ」

「できません！尚弥様を見捨てるなんて！」

「いいから行くんだッ！おれの代わりに赤豚とあの金無心野郎を殺せるのはお前しかないんだッ！」

「尚弥様！」

月尚弥はマフテリアを突き飛ばし、自分に襲い掛かってくる冒険者たちを鋭い瞳で睨む。
多勢に無勢。勝てない状況であるのにも関わらず、大事な人を守るために挑もうとする姿勢はまさに勇者。
彼こそが真の勇者だろう。