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真の勇者に悲しき過去!全ては無心野郎のせいッ!復讐の宴は今、始まる!
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尚弥は高岩を目にして、暫くの間は睨み合いを続けていたのだが、外野。とりわけ、モアイ像のような顔をしたバイオリンを持った男がやけに騒がしい事に気が付く。
尚弥は気になり、そのモアイ像のような顔をした男に尋ねた。
「おい、妖怪モアイ。お前、さっきから何を叫んでる」
「よ、妖怪モアイって失敬な!」
「じゃあ、クズ」
「もっと酷いぞ!第一、おれは親父や菜穂子とは違って、ミュージシャンとして金を稼いでるんだッ!もっと尊厳を持った言い方で呼んでもらいたいね」
「……もういい。で、お前、さっきから何を叫んでるんだ」
「決まってるだろ、お前といいそこの……マフテリアちゃんといい。色々と版権的にやべーんだよ!」
「版権?何を言ってるのかわからんが、マフテリアというのは彼女の親が付けた名前だし、おれの尚弥って名前もおれの親が……といっても、泡沫タレントに金を貢いで、おれのお祝い金まで取った最低の女が付けた名前だがな」
尚弥の話によれば、彼女の母親はその泡沫タレントのファンクラブの会長であり、休みの日には幼い自分や弟を連れて、そのファンクラブの会合へと参加していたのだという。
ファンクラブの会長である母はその泡沫タレントに二千万円以上の金を貢いだのだという。
「何が会長だ。何がファンだ。そんなものがおれや弟よりも大切だったのかよ」
尚弥から憎々しげな言葉が漏れていく。
その様子に堪らずに義喜が悲しげな微笑みを浮かべていると、不意に尚弥と対峙していた父が声を張りながら、尚弥に向かって問い掛ける。
「まさか、あんたのお母さんって、月綾音。本名、月紀子じゃあないのか?」
「あんた、どうして、お袋の名前ファンクラブの会長としての名前と本名を……そうか、思い出したぞ!」
そう叫ぶのと同時に尚弥の顔が憎悪によって彩られていく。
「貴様、高岩直人か……」
高岩直人。それは、尚弥にとっての生涯の敵の名前である。
この元ヒーローを名乗る男のために前世における自分と弟の人生は滅茶苦茶にされたのだ。
祖父祖母がくれたお小遣いもお祝い金も母親に取り上げられ、月々の小遣いなどは支給されたことがない。
それどころか、母親は家庭の金を全て高岩や高岩に関する活動に注ぎ込むために、自分達はまともな食事すら与えられた事がなかった。被服代すらも高岩のために注ぎ込まれ、一年に一着買ってもらえるのかの状態が続いた。
高岩は母親がビデオカメラに収めたカラオケボックスで歌う高岩の顔を見るたびに激しい怒りに囚われたものだ。
だが、忘れもしないのは幼い頃に他の会合と同様に強制的に参加させられた高岩のバースデーパーティー。
母が主催者となって開かれたこの会合には自分と弟も呼ばれた。
そして、金をもたされて高岩の誕生日プレゼントを買わされた。
幼い頃の尚弥は自分のおもちゃは買った事。もしくは買ってもらった事はなかったのだが、興味のない高岩のバースデープレゼントは買う羽目になったのだ。
幼き日の尚弥は恩着せがましく檀の上で歌う高岩にプレゼントを手渡したのだが、彼はそこで嫌味を言ったのだ。
「ふーん。どうでもいいけど、これ、すごい安そうだね」
殺してやりたい。幼い日の尚弥はそんな憎悪をひた隠しにしながら、高岩にプレゼントを渡したのだった。
十度以上も参加したバースデーパーティーであったが、尚弥が中学生になる頃に高岩の借金トラブルがテレビで報道され、ファンクラブは解散となり、ようやく尚弥も小遣いが入るようになり、食卓にもまともな料理が出るようになった。
自分の好きな物をようやく買えるようになったのだが、自分の幼少期を奪った高岩への憎悪はますます強くなっていった。
土下座謝罪の時に突然、消え失せた高岩にいつか復讐してやろう。
そう考えていたら、大学生の時に本を伝って、この世界に召喚され、今度は高岩の娘に人生を滅茶苦茶にされたのだ。
尚弥はこの時、絶好の機会を得たというべきだろう。
前の世界の敵とこの世界における敵とを一同に屠るという機会が今の彼にはあった。
尚弥は気になり、そのモアイ像のような顔をした男に尋ねた。
「おい、妖怪モアイ。お前、さっきから何を叫んでる」
「よ、妖怪モアイって失敬な!」
「じゃあ、クズ」
「もっと酷いぞ!第一、おれは親父や菜穂子とは違って、ミュージシャンとして金を稼いでるんだッ!もっと尊厳を持った言い方で呼んでもらいたいね」
「……もういい。で、お前、さっきから何を叫んでるんだ」
「決まってるだろ、お前といいそこの……マフテリアちゃんといい。色々と版権的にやべーんだよ!」
「版権?何を言ってるのかわからんが、マフテリアというのは彼女の親が付けた名前だし、おれの尚弥って名前もおれの親が……といっても、泡沫タレントに金を貢いで、おれのお祝い金まで取った最低の女が付けた名前だがな」
尚弥の話によれば、彼女の母親はその泡沫タレントのファンクラブの会長であり、休みの日には幼い自分や弟を連れて、そのファンクラブの会合へと参加していたのだという。
ファンクラブの会長である母はその泡沫タレントに二千万円以上の金を貢いだのだという。
「何が会長だ。何がファンだ。そんなものがおれや弟よりも大切だったのかよ」
尚弥から憎々しげな言葉が漏れていく。
その様子に堪らずに義喜が悲しげな微笑みを浮かべていると、不意に尚弥と対峙していた父が声を張りながら、尚弥に向かって問い掛ける。
「まさか、あんたのお母さんって、月綾音。本名、月紀子じゃあないのか?」
「あんた、どうして、お袋の名前ファンクラブの会長としての名前と本名を……そうか、思い出したぞ!」
そう叫ぶのと同時に尚弥の顔が憎悪によって彩られていく。
「貴様、高岩直人か……」
高岩直人。それは、尚弥にとっての生涯の敵の名前である。
この元ヒーローを名乗る男のために前世における自分と弟の人生は滅茶苦茶にされたのだ。
祖父祖母がくれたお小遣いもお祝い金も母親に取り上げられ、月々の小遣いなどは支給されたことがない。
それどころか、母親は家庭の金を全て高岩や高岩に関する活動に注ぎ込むために、自分達はまともな食事すら与えられた事がなかった。被服代すらも高岩のために注ぎ込まれ、一年に一着買ってもらえるのかの状態が続いた。
高岩は母親がビデオカメラに収めたカラオケボックスで歌う高岩の顔を見るたびに激しい怒りに囚われたものだ。
だが、忘れもしないのは幼い頃に他の会合と同様に強制的に参加させられた高岩のバースデーパーティー。
母が主催者となって開かれたこの会合には自分と弟も呼ばれた。
そして、金をもたされて高岩の誕生日プレゼントを買わされた。
幼い頃の尚弥は自分のおもちゃは買った事。もしくは買ってもらった事はなかったのだが、興味のない高岩のバースデープレゼントは買う羽目になったのだ。
幼き日の尚弥は恩着せがましく檀の上で歌う高岩にプレゼントを手渡したのだが、彼はそこで嫌味を言ったのだ。
「ふーん。どうでもいいけど、これ、すごい安そうだね」
殺してやりたい。幼い日の尚弥はそんな憎悪をひた隠しにしながら、高岩にプレゼントを渡したのだった。
十度以上も参加したバースデーパーティーであったが、尚弥が中学生になる頃に高岩の借金トラブルがテレビで報道され、ファンクラブは解散となり、ようやく尚弥も小遣いが入るようになり、食卓にもまともな料理が出るようになった。
自分の好きな物をようやく買えるようになったのだが、自分の幼少期を奪った高岩への憎悪はますます強くなっていった。
土下座謝罪の時に突然、消え失せた高岩にいつか復讐してやろう。
そう考えていたら、大学生の時に本を伝って、この世界に召喚され、今度は高岩の娘に人生を滅茶苦茶にされたのだ。
尚弥はこの時、絶好の機会を得たというべきだろう。
前の世界の敵とこの世界における敵とを一同に屠るという機会が今の彼にはあった。
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