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親子共犯の代名詞を背負おうとも、我ら父娘は冥府魔道を生きる者故に
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「かんぱ~い!」
乾杯を叫ぶ声が同音一同に酒場から聞こえた。
それも、その筈。酒場ではラクタを倒した事に対する多額の賞金を得て、家賃その他諸々を払った高岩一家が祝杯を挙げていたのだから。
「いやぁ、大変だったなぁ」
高岩はしみじみとした調子で言った。
「あぁ、今回の敵はマジでヤバかったな。親父も後一歩で殺されるかと思ったぜ」
「本当、あたし、お父さんが殺されたら生きていけなかったかも」
菜穂子は戦闘中の記憶を思い出したのか、瞳から一筋の涙を流していく。
自分のためにどこまでも泣いてくれる娘を更に愛おしく感じたのか、高岩は無言で席から立ち上がると、菜穂子を背後から優しく抱き締めた。
「ありがとう。菜穂子……お前が支えてくれなければ、おれは前世でも今世でもとっくの昔に倒れていたかもしれん」
菜穂子はそんな父に抱き締められ、微かに頬を赤く染め上げていく。
事実、前世での菜穂子の役割は匿名掲示板の上で債権者や父のアンチと戦う事になったのだ。
あまりにも執拗に父親を庇うので、前世でも今世と同じく性悪王女の代名詞であるマインというあだ名を付けられて、ネット民のおもちゃにされていた事を思い出す。
それでも、彼女は頑張れた。そう、自分と同じ家に父親がいたから。
前世での父は一日中、自分が出演していたヒーロー番組のDVDを観ているか、はたまた、自身の演じていた役を改めて主人公にした漫画を読んでいるか、そうでなければ、無心メールの内容を考えているのか三択であったのだが、そんな父でも家に居てくれるだけで嬉しかったのだ。
少なくとも、自分と兄を捨てた母親よりはずっと好きだった。
母親は自分が小学生、兄の義喜が中学生の頃に家を出たのである。
それ以来、自分達の元には帰ってこない。菜穂子の心の中にわだかまりが残ったのも無理はない。
また、今世でも父は自分を可愛がってくれたが、母は自分を厳しくし、頭のいい妹ばかりを可愛がっていた事を覚えている。
前世でも、今世でも自分は母親という存在には恵まれないらしい。
そんな菜穂子だから、父親が今こうして、自分を頼ってくれる事が嬉しかった。
「お父さん、大好き」
菜穂子はそのまま父親の頬に口を付けた。
そんな娘に金の心を持つ男もデレデレである。
高岩はそんな娘の耳元で優しい声で囁いていく。
「菜穂子、おれはな、お前のためならば、一億でも一兆でも借りられる自信があるよ」
この男の頭の辞書には真っ当に金を稼ぐという言葉は存在しないらしい。
高岩は高岩で、前世でその菜穂子を使ってファンや関係者から無心した事も多々あった。
男子中学生の義喜よりも女子小学生の菜穂子の方がより一層の同情を買ってもらえると思った事もあったのだろう。
可愛がられていた事もあり、菜穂子はそんな父の無心の演技に嬉々として付き合っていた。
つまり、父娘は幼い頃から共犯の関係にあったといってもいい。
そのため、同じ高岩の子供であっても、前世の匿名掲示板においては義喜の叩かれる割合が四割であったのに対し、菜穂子は父親に次いで叩かれていた。マインというあだ名もこの罪の比重からきていたのかもしれない。
そんな父娘の中つむまじいやり取りの最中に血相を変えた街の冒険者が酒場の中に飛び込む。
「た、大変だ!高岩さん!あなたは男の娘が好きか、それとも、単に女装させた男の子が好きか、答えてください!」
「ハァ?」
乾杯の音頭を取った時と同様に同音一同の疑問が投げ掛けられた。
果たして、この冒険者はなぜ、このような淫語を口に出してしまったのだろうか。
この淫語がきっかけに何が起きるのだろうか。それはわからない。
ともかく、我らが借金ヒーローは家族と共に冒険者を放置し、酒を飲み直す事にした。
取るに足らないと放置したためである。
だが、この時に彼らは知らなかった。この選択が大きな後悔に繋がるのだと。
乾杯を叫ぶ声が同音一同に酒場から聞こえた。
それも、その筈。酒場ではラクタを倒した事に対する多額の賞金を得て、家賃その他諸々を払った高岩一家が祝杯を挙げていたのだから。
「いやぁ、大変だったなぁ」
高岩はしみじみとした調子で言った。
「あぁ、今回の敵はマジでヤバかったな。親父も後一歩で殺されるかと思ったぜ」
「本当、あたし、お父さんが殺されたら生きていけなかったかも」
菜穂子は戦闘中の記憶を思い出したのか、瞳から一筋の涙を流していく。
自分のためにどこまでも泣いてくれる娘を更に愛おしく感じたのか、高岩は無言で席から立ち上がると、菜穂子を背後から優しく抱き締めた。
「ありがとう。菜穂子……お前が支えてくれなければ、おれは前世でも今世でもとっくの昔に倒れていたかもしれん」
菜穂子はそんな父に抱き締められ、微かに頬を赤く染め上げていく。
事実、前世での菜穂子の役割は匿名掲示板の上で債権者や父のアンチと戦う事になったのだ。
あまりにも執拗に父親を庇うので、前世でも今世と同じく性悪王女の代名詞であるマインというあだ名を付けられて、ネット民のおもちゃにされていた事を思い出す。
それでも、彼女は頑張れた。そう、自分と同じ家に父親がいたから。
前世での父は一日中、自分が出演していたヒーロー番組のDVDを観ているか、はたまた、自身の演じていた役を改めて主人公にした漫画を読んでいるか、そうでなければ、無心メールの内容を考えているのか三択であったのだが、そんな父でも家に居てくれるだけで嬉しかったのだ。
少なくとも、自分と兄を捨てた母親よりはずっと好きだった。
母親は自分が小学生、兄の義喜が中学生の頃に家を出たのである。
それ以来、自分達の元には帰ってこない。菜穂子の心の中にわだかまりが残ったのも無理はない。
また、今世でも父は自分を可愛がってくれたが、母は自分を厳しくし、頭のいい妹ばかりを可愛がっていた事を覚えている。
前世でも、今世でも自分は母親という存在には恵まれないらしい。
そんな菜穂子だから、父親が今こうして、自分を頼ってくれる事が嬉しかった。
「お父さん、大好き」
菜穂子はそのまま父親の頬に口を付けた。
そんな娘に金の心を持つ男もデレデレである。
高岩はそんな娘の耳元で優しい声で囁いていく。
「菜穂子、おれはな、お前のためならば、一億でも一兆でも借りられる自信があるよ」
この男の頭の辞書には真っ当に金を稼ぐという言葉は存在しないらしい。
高岩は高岩で、前世でその菜穂子を使ってファンや関係者から無心した事も多々あった。
男子中学生の義喜よりも女子小学生の菜穂子の方がより一層の同情を買ってもらえると思った事もあったのだろう。
可愛がられていた事もあり、菜穂子はそんな父の無心の演技に嬉々として付き合っていた。
つまり、父娘は幼い頃から共犯の関係にあったといってもいい。
そのため、同じ高岩の子供であっても、前世の匿名掲示板においては義喜の叩かれる割合が四割であったのに対し、菜穂子は父親に次いで叩かれていた。マインというあだ名もこの罪の比重からきていたのかもしれない。
そんな父娘の中つむまじいやり取りの最中に血相を変えた街の冒険者が酒場の中に飛び込む。
「た、大変だ!高岩さん!あなたは男の娘が好きか、それとも、単に女装させた男の子が好きか、答えてください!」
「ハァ?」
乾杯の音頭を取った時と同様に同音一同の疑問が投げ掛けられた。
果たして、この冒険者はなぜ、このような淫語を口に出してしまったのだろうか。
この淫語がきっかけに何が起きるのだろうか。それはわからない。
ともかく、我らが借金ヒーローは家族と共に冒険者を放置し、酒を飲み直す事にした。
取るに足らないと放置したためである。
だが、この時に彼らは知らなかった。この選択が大きな後悔に繋がるのだと。
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