クズ家族、異世界に転移、転生する〜代わりに、借金五千万円返済できなかったら、地獄行きとかマジですか！？〜

おいコラ、高岩よ、ラクタに無心するな！

ラクタにとって我慢がならないことがあった。
それは先程、自分の頭の中へと流れ込んできた無心メールの他に金を貢ぐ事を断られる事である。
長年、付き従ってきたホーミをあっさりと切り捨てたのも最近、彼女から渡される金貨の量が少なくなっていたからだ。

ラクタの一番はホーミでも、インシアに誘った冒険者でもない。
金である。金貨だけが彼の心を満たしてくれるのである。
そして、何よりも嫌なのが金を渡す事である。彼にとって、自分の金が他人の手に渡される事ほど、嫌な事はない。
あの男は先程、それを自分に仕掛けてきたのだ。

許される事ではない。彼は兜の下で歯を剥き出しにし、白眼を剥きながら自身の金貨投げの要求などを完全に棚に上げて、大きな声で叫ぶ。

「この無心野郎がッ！そんな聖子ちゃんカットが似合っているとでも思っているのか！？許さん！」

彼は光の剣を振り回しながら、高岩の元へと向かっていく。
この時になり、高岩一家の言い争いもようやく中断を迎える事になったのだった。
高岩は借り物ハンドを利用して、ラクタの手から光の剣を奪う事に成功したのだが、流石は太陽の子。

光の剣を新たに生成し、それで高岩に向かって襲い掛かっていく。
光の剣と光の剣とが互いに輝きを放ちながら、ぶつかり合う様はどこぞの世界的有名SF映画を思い起こさせた。
だが、まともに打ち合ったのは最初の数度ばかり。後はラクタが一方的に押すという状況になったのだ。

そして、ラクタは高岩の剣を弾き飛ばし、その高岩の喉元に光の剣の剣先を突き付ける。

「ば、バカな！おれは昔、ヒーローを演じていた時にアクターさんたちから殺陣たても学んだ筈なのに……」

「殺陣？なんの事を言っているのかは知らないが、剣技ならば騎士のおれの方が上だッ！わかるか？」

まるで、盗賊が旅人を脅す時のような威圧的な口調だ。ラクタにはもはやヒーローとしてのプライドもかなぐり捨ててしまったのだろうか。
困ったのは高岩である。彼の武器である自己都合屁理屈も彼には通用しない。

慌てたのは長女、菜穂子。

「大変だ！お父さんが！」

菜穂子は剣を抜き、慌てて爆発の魔法を詠唱しようと試む。
それを慌てて阻止する義喜。それを見た時に高岩の頭の中に素晴らしい脅し文句が生まれた。

「……ラクタくん。本当に私を殺す気かな？」

「その通りだ。それがどうかしたのか？」

「いいのかい？私を殺せば、菜穂子が黙っていないぞ」

その言葉を聞いて、ラクタは慌てて振り返る。そこには兄に抑えられていなければ、今にも自分に襲い掛かりそうな菜穂子の姿。
彼女の実力は先程の戦いでラクタ本人が一番よく知っていた。
今、高岩を殺して、菜穂子の機嫌を損ねるのは不味い。

ラクタは舌を打ち、慌てて光の剣の剣先を下げたのである。
高岩はその隙を逃す事なく、起き上がるのと同時に、ラクタの顎を思いっきり蹴り上げた。

「うわっ、くそ」

「見たかッ！これが、おれの奥義だッ！自衛隊で習った最強の技だ！」

「やりやがったな。だが、覚えておけ、お前は宝くじでいうところの一等を引いたって事を」

「どういう意味だ！？」

「つまり、お前はオレを完全に怒らせたって事さッ！おれのイライラは宝くじの一等に匹敵するッ！こうなれば、見せてやろう！おれの第二の姿をッ！」

彼のその言葉は嘘ではなかった。みるみるうちに彼の体が真っ白な光に包まれていくではないか。
彼の恐るべき第二の姿とは一体なのだろうか。そして、我らが借金ヒーロー、高岩直人は第二の姿を相手にどう戦うのだろうか。
高岩直人の受難は続く。