クズ家族、異世界に転移、転生する〜代わりに、借金五千万円返済できなかったら、地獄行きとかマジですか！？〜

詐欺師の元ヒーロー対自称俳優、歌手のゴーレムとの芸能歴比べ

「おれの歌を聴けー！」

「いいや、そっちこそ俺の歌を聴けー！」

どうしてこうなったのだろう。義喜と菜穂子はいいや、魔王軍の幹部の討伐に街の外へと訪れた街の冒険者たちはそう思わざるを得ない。
多くの人々が混乱する中で、義喜は頭を抱えながら、必死にこれまでの経緯を思い出す。
事の発端は魔王軍幹部討伐のために街の外へと訪れた父と魔王軍の軍団を引き連れて街へと攻め寄せた泥のゴーレムが互いを挑発し始めた事である。

「おい！五つの腕を持つ勇者とやら、お前、そのダサいヘアースタイル似合ってると思ってるのか！？」

「ダサいヘアースタイルだと？この私の髪がダサいだと……失敬なッ！言葉に気を付けてもらいたいッ！」

高岩によれば、彼が行っている髪型はヒーローを演じていた頃の自分に寄せたものであり、それを馬鹿にするというのはヒーローである自分を否定する事に他ならないのだという。
義喜も菜穂子も父の気持ちは痛い程にわかった。子供の頃から、昔、ヒーローを演じていたというだけで鼻が高かったし、後に映像で観たのと同じ髪をしている父を見ただけで誇らしく思えたものだ。
それでも、あんな見えすいた挑発に乗るのは大人気ないとは思っていた。

高岩は自身の髪を貶された事を気に、攻めてきたゴーレムの歌と身長を攻撃し、それに気を悪くしたゴーレムが更に高岩の容姿を中傷していく。
お互いに悪口の言い合いである。こうなってしまえば、お互いに息が切れるまで言葉は止まない。
そして、最終的に最初のように歌で決着を決める事になったのだ。

魔王軍の幹部のゴーレムことルビスの歌唱が始まっていく。
それと同時に高岩も掌の中に架空のマイクを持ち、彼の持ち歌であるヒーロー番組のOP曲を熱唱していく。
その間、誰もが耳を防いでいた。高岩の歌はともかく、ルビスの曲はがなっているだけで聴けるものではなかったからだ。

お互いの歌が終わり、互いに息を整え終わると、高岩は容赦のない批評を行う。

「素人のカラオケレベルだ」

「な、なんだと！貴様、この俳優で歌手のルビス様になんて事をッ！」

「なにがルビスだ。お前なんぞに、歌や芝居を語って欲しくないね」

「黙れ！黙れ！よくも、そんな事を！」

ルビスは激怒した。かの邪智暴虐な高岩直人なる冒険者を排除せねば、と。
だが、高岩直人には神から授けられた五つの腕がある。
とりわけ、強力なのは前世での無心をする際に用いていたメールの内容を頭の中へと流し込み、相手をおかしくさせるメールハンドである。

高岩は躊躇もなくメールハンドを利用し、無心の内容をルビスの頭の中へと送り込む。
案の定、ルビスは予想通りに頭を抱えて倒れ込む。

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ～！！わかった！わかった！金なら貸すから、一万円ッ！一万円やるから、もう関わらないでくれぇぇぇぇ～！！！」

完全にメールハンドの内容に頭を支配されてしまったらしい。
それはそうだろう。前世で無心に使用していたメールの内容が一気に頭の中へと流れ込んでいくのだから。
冒険者たちは思わずルビスの表情を見て、同情してしまう。

だが、勿論、カネの心を持つ男はそんな姿を見ても容赦をする事はない。
大きな声でナイフハンドの名前を叫び、ルビスに向かってナイフを発射していく。
ルビスはナイフが飛んでいく音で、ようやく正気を取り戻したらしい。
慌てて、体を転がし、ナイフを避けていく。

「ハァハァ、危なかった。恐ろしく素早い攻撃、オレでなかったら、見極められずに死んでたね」

「お兄ちゃん！あいつ、どっかの有名手刀をぎりぎりで交わしたけど、その直後にやられた某ハンター漫画の敵キャラみたいな事を言ってるよ！」

冒険者たちの背後に剣を下げて武装していた菜穂子の指摘に、同じく冒険者の服にギターを背負った義喜は躊躇う事なく首を縦に動かす。

「だが、あんながなったカラオケしかできないと言っても、あいつも一応は幹部……親父、油断するなッ！」

義喜の声が高岩にも届いたのか、彼は黙って首を振る。