クズ家族、異世界に転移、転生する〜代わりに、借金五千万円返済できなかったら、地獄行きとかマジですか！？〜

返済せよ！木田一家！引きこもっている場合じゃあないぞ！

『木田一家』が勢揃いし、三人は前世と同じ様に転移先の街の集合住宅で暮らしていた。
基本的に彼らの生活費はギルドから出される依頼の依頼金で賄われているのだが、当然、やる気が出ない時もある。
なにせ、報奨金の五割を神により、前世の借金返済に充てられるのだから。

それでも、彼らは集合住宅の中でも、高価な風呂トイレ付き、三部屋付きの部屋に住んでいたので、出費は自然と嵩む。だが、そんな危機的な状況であるのにも関わらず、木田一家とりわけ、亮二と菜穂子は引きこもり気質であり、滅多な事では家を出て、依頼を受けようとはしない。
亮二は一日中、神から与えられた五つの手袋を月日が経つうちに気に入ったのか、それを眺めながら、妄想の世界に浸っているし、菜穂子は一日家に篭り、眠っているか、街の本屋から買ってきた娯楽雑誌を読み、ケタケタと笑っている。

では、この中で義喜だけが懸命に依頼を受けているのかと言われればそんな事はない。
彼は今世の楽器工房で作ったバイオリンを片手に街の噴水の前で音楽活動を行なっていた。
だが、投げ掛けられる金は銅貨二枚程度。前世では一日の収入は六百円程度であったが、それよりも低い。

義喜はやっとの思いで、近所の商店街からコロッケを購入し、それを齧り、重い足取りで自宅へと戻っていく。
扉を開けると、そこには満面の笑みを浮かべた父と妹の姿。

「お、どうしたんだ？」

「聞くんだ。義喜、今度な、この街に魔王軍の幹部が攻めてくるらしくてな。その報奨金が手に入るかもしれないんだ」

「それは草、いや、大草原だぜ」

「でしょ！これならば、ブドウ入りのパンが食べられるわ」

菜穂子は赤くて綺麗な舌を出し、唇の周りを舐め回す。
義喜はその言葉を聞いて思い出す。この世界ではブドウ入りのパンがやけに高い事を。王族や貴族ならばいざ知らず、簡単に庶民は口にできない。
コロッケは食べられるのにおかしな世界である。

「菜穂子はブドウパンか、なら、おれは新しいバイオリンが欲しいなぁ」

「何を言う！この報奨金はお父さんがいただくぞ！」

「いいや、いくら親父でもこればかりは譲れんね！バイオリンが欲しいのは勿論だが、他にも、酒場で売られてる新しいビールを飲みたいんだッ！ほら、おれってビール好きな人だからッ！」

義喜は元来の酒好き、居酒屋好きである。前世では金がないのにも関わらず、居酒屋に行き、ピンチになり、よく音楽仲間に無心した事を覚えている。
やはり、義喜は高岩直人本名、木田亮二の血を引く男である。
この三人の親子が報奨金の使い道で揉めていると、突然、頭上から声が聞こえた。

「お前たち、本来の目的を忘れとるじゃろ！今世で死ぬまでに借金を返せなかったら、地獄行きじゃぞ！それでもよいのか！？」

その神の言葉に木田一家の誰もが顔を青くした。

「不味い。こんな事をしている場合じゃあなかった」

深刻な顔で呟くのは義喜。彼は唸りながら、決意を新たにしていた。

「そうだよ！あたしだって地獄に落ちるのは嫌だもん！さっさと魔王軍の幹部を倒して金を返しましょう！」

「そうだな。で、義喜。その魔王軍の幹部というのはどんな奴なんだ？」

義喜の話によれば、その魔王軍幹部は人間の形をしたゴーレムだという。
元々は大昔、太古の時代に使役用のゴーレムとして魔法使いに呼び出されたものが、自我に目覚め、やがては魔法使いの元を飛び出したのだという。
ここまでくれば、テンプレ的な怪物だろうが、厄介なのはこの先である。

ゴーレムはなんと、俳優や歌手に憧れ、地方の劇場などに飛び入り参加し、歌などを披露したのだという。
だが、その歌唱レベルは素人のカラオケレベル。
単にがなってるだけのもの。歌ですらない。

当時の文献にはそう記されているとされる。
それに怒ったゴーレムは周りに当たり散らし、劇場を粉塵へと変えたのだという。
そこを魔王に目をかけられ、魔王軍へと迎えられたのだという。

この時に高岩の脳裏に浮かんだのは前世で相対した迷惑なファンの存在である。
そのゴーレムとその迷惑なファンが重なったのだ。

「……まさかな」

高岩は腕を組みながらそのファンが自分と同じように転生し、そのゴーレムに憑依したのだと考え、そう呟いたのだが、不可能だと考えてその考えを頭の中から振り落としていく。
神妙な顔をした父を見て、二人は咄嗟に声を掛けようとしたが、父は「なんでもない」と言い張り、その日の会話を打ち切った。