クズ家族、異世界に転移、転生する〜代わりに、借金五千万円返済できなかったら、地獄行きとかマジですか!?〜

アンジェロ岩井

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異世界への旅立ち

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「謝ってくださいよ!まずは!詐欺行為を認めて謝ってください!」

黒いコートを着た中年の女性がそう叫びながら、ベンチの上で項垂れる壮年の男性の元へと詰め寄っていく。
男性は詰め寄れられた際に気まずくなったのか、咄嗟に顔を俯かせたものの、女性は容赦なく追求を続けていく。

高岩たかいわさん。口あるじゃないですか、私たちを騙してきた口が」

「……騙してない」

「ハッ、騙してない?よく言えますね!ファン私たちから五千万円も借りておいてッ!」

この中年の女性が憤るのも無理はないだろう。このベンチの上で項垂れている男は元ヒーロー俳優という肩書きを利用して、その作品や主人公が好きなファンたちから五千万もの借金を重ねていたのだ。
しかも、ただ借りるのというのではない。口では必ず返すと言っておきながら、一切の返済を行わなかったのだ。
それに憤りを感じたファンたちは今月の初めに民事裁判を起こし、出廷を拒否する高岩の住所を聞き出し、金を返せと詰め寄ったのである。

ここに断言しておこう。元ヒーロー俳優である高岩直人たかいわなおとは根っからのクズである。
彼にとっての「必ずお返しします」というのは社交辞令。実態はくれたという認識に近い。
今年で、彼は70になるのだが、その年齢になるまで重ねてきたのが今の状況なのである。

高岩はなおも、都合が好転する事を願いながら、ベンチから集まったファンたちを見つめていたが、彼らの表情や態度からそうした状況に好転する事はまずないだろう。
諦め掛け、空な目でファンたちを眺めていたが、ファンたちは高岩の表情になど配慮する事なく、容赦ない要求を続けていく。

「返すあてもないのに借りるっていうのは詐欺行為ですよッ!あなた、わかってるんですか!?」

「……詐欺じゃないです」

「詐欺じゃない?舐めてるんですか!?詐欺じゃないというのなら、今すぐに私たちが貸した金を返してくださいよッ!」

彼女の背後に控えていたと思われる眼鏡をかけた緑色のコートを羽織った男性ファンが高岩の元へと詰め寄り、彼の胸ぐらを掴み上げながら叫ぶ。
あまりの剣幕に高岩は何も言えずにただ目を背けていた。
男性ファンは高岩をベンチの上に放り投げると、つとめて穏やかな口調で尋ねた。

「じゃあ、高岩さん。オレたちが貸した金を何に使ったんですか?お子さんの進学費用ですか?それとも、家族の海外旅行代ですか?はたまた、お子さんのエレキギター代ですか?」

高岩は何も言わない。沈黙を肯定と取ったのか、集まったファンたちが一同に溜息を吐き、両肩を落とす。

「高岩さん。あなたなりに家族を養おとしたのはわかりますよ。でも、それと詐欺行為を肯定するのとは別です。お子さんも十分に大きくなったでしょう?なら、もう必要ないじゃあないですか。使った分は返してくださいよ」

高岩はこれが機会と思ったのだろう。不意にベンチから立ち上がると、勢いよく公園の土の上に跪き、両手を前に置き、その上に頭を擦り付けながら叫ぶ。

「この度は本当に申し訳ありませんでした!」

彼が取ったのは土下座という方法である。あまりにも惨めで、情けない方法ではあるが、一時でもその場を凌げるのならば安いものである。
高岩が内心、債権者たちを嘲笑っていると、不意に周りの景色が歪んでいく事に気が付く。
今、自分は地上に手を付けているのだが、酷く回転し、地球の回転が何倍にもなったような、不思議な感触を彼は味わった。

回転が収まり、高岩が恐る恐る地面の上から顔を上げると、そこには公園の遊具も、詰め寄っていた債権者たちの姿もなく、中世ヨーロッパ風の街並みが広がっているではないか。

「どういう事だ?これは?」

恐る恐る高岩が辺りを見渡すと、そこには普通の人ばかりではなく、耳が尖ったエルフと称される種族の人々や動物のような耳や尻尾を生やした人々がいるではないか。
しかも、その全員が自分を意味深に見つめている。ある者は奇異の目で、ある者は好奇の目という風に。

「こ、こんな景色は見た事がないぞ!ま、まるで、まるでこれはーー」

高岩は咄嗟に口から出そうになった言葉を飲み込む。
というのも、自分が考えた仮説はあまりにも突拍子がないからだ。
いくらなんでも、引きこもりでゲーム好きの長女である菜穂子なおこが好む様な異世界へと来たなど到底信じられなかったからだ。

恐らく、これはかつて自分が参加していた特撮ヒーロー番組の撮影か何かなのだろう。
あの時に、自分は無意識のうちに公園から債権者たちから逃げ、特撮の撮影現場にでも潜り込んでしまったのだろう。
高岩はそう自分を納得させていた。

自身を安心させた事により、満面の笑みを浮かべて腕を組む高岩とは対照的に周りにいた人々の好奇心は高まるばかりである。
そこに、ある犬の耳に尻尾を持った若い買い物袋を下げた女性が高岩の元に心配そうな表情をしながら向かっていく。

「あの、大丈夫ですか?」

すると、彼は不意にそれまでの笑みを引っ込め、調子の悪そうな顔を浮かべると、両手を合わせながら言った。

「お恥ずかしい話なのですが、先ほど、逃げる際に腰を折ったらしく、とてもではございませんが、働ける状況にはありません。よろしければ、余力の分だけでもお貸し願えないでしょうか?」
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