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エピローグ『悪魔の使者たちは黄昏時に天国の夢を見るか?』
神通恭介の場合ーその21
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「……キミもしつこいなぁ。そろそろ元気になりたまえよ」
恭介はルシファーに連れて来られてもなお不満であったらしい。六階建ての廃ビルの一室で彼は塞ぎ続けていた。何も言わない。
ひたすらにビルの部屋の中にあったバネの見えたマットレスが載ったボロボロのベッドの上で体育座りをして部屋の隅を見つめていた。
「そんな顔をしないでくれたまえよ。これからキミに最高の景色を見せてやろうというのに」
ルシファーは満面の笑みを覗かせて言った。
その言葉に恭介は耐え切れなくなったのか、ようやく立ち上がりルシファーの首根っこを強い力で掴み上げていく。
「ふざけるなッ!おれたちを戦いに巻き込んだ挙句にこんな目に遭わせやがってッ!こうなったのも全部お前のせいじゃあないかッ!」
「……そんな事はないよ。核で殺し合ったのは言うまでもなくキミたち人類じゃあないか?ぼくはそのささやかなお手伝いをしたに過ぎない」
「……悪魔を攻め寄せたのはお前らの責任だろ?あんなものさえなければおれたちはまだ平穏に暮らせていた……」
「それはゲームを投げ出したキミたちの責任じゃあないかな?もっともどのみちぼくらはこれを最終ゲームにする予定だったから一概にキミたちの責任だとは言えないけどね」
「……やっぱり今年で人類そのものを滅亡させるつもりだったんだな」
ルシファーはそれに関しては答えようとはしない。既に恭介が似た様な質問を投げ掛けたために答える必要はないと判断したのだろう。
代わりにルシファー口元を弧の形に歪めて恭介を見つめていた。
膝を抱えて意気消沈するかつての契約者の姿が見ていて面白かったに違いない。
恭介が地面の下を見つめてひたすらにかつての恋人の名前を呟いていた時だ。不意に空の上の紋様が開いて悪魔たちが姿を表したではないか。
どうやら侵攻は着実に進んでいるらしい。ルシファーの話によれば大国同士は国同士の争いで滅び、そうでない国は次々と悪魔たちの手に落ちているという。恭介が自身の住う日本の事について尋ねると、
「そろそろ総理大臣が降伏書類にサインする頃じゃあないかな?」
と、なんでもない風に言ってのけた。ルシファーは廃ビルの一室で塞ぎ込む恭介の元に稀に食料や水と共にいかにして人類が滅んでいくのかという過程を嬉々として語っていく。
恭介はルシファーの言葉を黙って聞いていた。
やがて、2012年が混乱と悲鳴の中に過ぎ去り、2013年が幕を開けた時には既に世界は悪魔の手によって落ちてしまったらしい。
「残った人類の処遇は現地にいる悪魔たちに任せてるんだけど……キミもよかったら見てみるかい?」
「……いや、いい」
恭介は小さく首を横に振ってルシファーの提案を否定した。ルシファーはそのまま何も言わずに恭介の住う廃ビルから飛び立った。
恭介は廃ビルの一室の中にあるベッドの上に横たわった。バネが露わになってしまったベッドである。
当然背中は痛んだが恭介はそれを自身の戒めとして受け取っているため痛くても口には出さなかった。
恭介に殺された青年団の人たちはもっと痛かったはずだ。未だに幽霊になって恭介を呪い殺そうとしているに違いない。
恭介が改めて自身に戒めの事を誓っていると、その周りの幽霊とも言える人々が自身の寝台の周りを囲んでいる事に気が付く。
恭介は両目から涙を零し、両手を合わせて青年団の人たちに懺悔の言葉を叫んでいく。
「ごめんなさいッ!あの時は身の危険を感じて……それでも許される事じゃあないですよね!?でも、お願いですッ!許してくださいッ!謝りますッ!一生を懸けて償いますッ!」
だが、青年団の人々は容赦なく恭介の元へと近寄っていく。
その表情は誰もが怒りに満ち溢れ、憎悪の炎を瞳に宿していた。
それを見た瞬間に恭介は悟った。彼らが自分を許すという道理など存在しないという事を。
殺される!恭介が思わず両目を閉じた時だ。
「何をしているんだい?神通恭介?」
いつの間にかルシファーが恭介の顔を覗き込んでいた事に気が付く。
その瞬間に恭介の周りを囲んでいた幽霊たちが消えていた事に気がつく。
流石の亡霊も悪魔の前には叶わなかったという事だろうか。
だが、感謝などしない。恭介は突然現れたルシファーを強く睨み付けながら尋ねた。
「何の用だ?」
「クックク、随分と嫌われたもんだねぇ」
「当たり前だろうが……人間の中でお前が好きな奴なんているかよ」
恭介は自身が抱えていた思いを感情のままに吐き出していく。
それでもルシファーは顔に笑顔を浮かべていた。恭介の罵声など子供の戯言だとでも思っているのだろう。
「……さっきあの人たちの亡霊を見て思ったんだ。おれはもう生きていてはいけないんだって……」
「成る程…‥キミはこれから死ぬというのかい?それはいい事だ。地球最後の人間には相応しい幕切れだ」
「……待てよ、それって」
「うん、キミがその廃ビルの中で呑気に塞ぎ込んでいる間にぼくらが人類を抹殺していたんだよ」
ルシファーは平然と言ってのけた。まるで子供がお気に入りの蟻の巣を潰した事を友達や先生に報告するかの様な気楽さであった。
だが、今の恭介は怒る気にもなれなかった。自らの両親も殺されたというのにだ。今の彼の中に残るのは虚しさだけであった。
その言葉を聞くと彼は部屋の扉を開けて廃ビルの屋上に向かっていく。
六階建てのビルである事から飛び降りる距離としては最適だろう。
通常であるのならば飛び降り自殺というのは迷惑が掛かる。ビルの責任者はそのビルを事故物件として抱え込まなくてはならなくなるし、万が一飛び降りている最中に人とぶつかってしまえばその人の命を奪う事になってしまいかねない。
だが、人類が滅亡してしまった今となってはそんな事を気にする必要もなかった。
恭介は流されるままに飛び降りた。自身の体が地球の重力に引っ張られて地面へと叩き付けられる瞬間に恭介は自身が鳥の様になった様な気がした。
だが、地面が間近に迫るにつれ、そんな快感に近い思いは立ち消え、代わりに彼の脳裏には走馬灯の様にこれまでの記憶が浮かんでは消えていく。
恭介の頭の中に浮かんできたのは幸福だった幼少期の頃の記憶。
話の内容などわからないというのに大人ぶって難しい神々との戦いを描いた特撮ヒーロー作品を両親や幼稚園の先生、周りの友達などに語っていた事を思い出す。
次は小学生の頃の記憶。この頃になると彼は多くの作品に触れる様になって特撮作品ばかりではなくアニメやゲームなども嗜む様になっていた。
中でも父親に開いてもらうパソコンを用いてのゲームは幼い日の恭介にとって最高の娯楽の時間であったと評してもいいだろう。
やがて彼は幸せな小学生時代を終えると、彼にとって最後の幸福な時代であったとともされる中学生時代を迎えた。
中学生の頃、恭介は部活動に打ち込んでいた。恭介が入っていたのはバトミントン部である。
熱心にラケットを使って球を相手のコートに向かって打ち込む。
これだけのスポーツに恭介はひどく熱中し、夕方まで帰らないという事も多かった。
恭介は中学3年生の引退の時期までスポーツに夢中になっており、両親にその事をよく咎められたものである。
やがて、府内の大きな高校に進学し彼はそこで運命の恋人である姫川美憂と出会ったのである。
高校一年生の前半まで彼は穏やかなであった。姫川美憂に恋慕しつつも普通の高校生として暮らしていた。
だが、ルシファーと出会ってゲームに参加してからが彼の波瀾万丈の人生の幕開けとなった。
落ちていく中で彼はあの時の事を思い出しながら後悔の念というものを抱いていく。
というのも、もし自分がゲームに参加していなければこんな惨めな思いをしないで済んだであろうから……。
両目を瞑りながらその事を考えていた。
恭介はルシファーに連れて来られてもなお不満であったらしい。六階建ての廃ビルの一室で彼は塞ぎ続けていた。何も言わない。
ひたすらにビルの部屋の中にあったバネの見えたマットレスが載ったボロボロのベッドの上で体育座りをして部屋の隅を見つめていた。
「そんな顔をしないでくれたまえよ。これからキミに最高の景色を見せてやろうというのに」
ルシファーは満面の笑みを覗かせて言った。
その言葉に恭介は耐え切れなくなったのか、ようやく立ち上がりルシファーの首根っこを強い力で掴み上げていく。
「ふざけるなッ!おれたちを戦いに巻き込んだ挙句にこんな目に遭わせやがってッ!こうなったのも全部お前のせいじゃあないかッ!」
「……そんな事はないよ。核で殺し合ったのは言うまでもなくキミたち人類じゃあないか?ぼくはそのささやかなお手伝いをしたに過ぎない」
「……悪魔を攻め寄せたのはお前らの責任だろ?あんなものさえなければおれたちはまだ平穏に暮らせていた……」
「それはゲームを投げ出したキミたちの責任じゃあないかな?もっともどのみちぼくらはこれを最終ゲームにする予定だったから一概にキミたちの責任だとは言えないけどね」
「……やっぱり今年で人類そのものを滅亡させるつもりだったんだな」
ルシファーはそれに関しては答えようとはしない。既に恭介が似た様な質問を投げ掛けたために答える必要はないと判断したのだろう。
代わりにルシファー口元を弧の形に歪めて恭介を見つめていた。
膝を抱えて意気消沈するかつての契約者の姿が見ていて面白かったに違いない。
恭介が地面の下を見つめてひたすらにかつての恋人の名前を呟いていた時だ。不意に空の上の紋様が開いて悪魔たちが姿を表したではないか。
どうやら侵攻は着実に進んでいるらしい。ルシファーの話によれば大国同士は国同士の争いで滅び、そうでない国は次々と悪魔たちの手に落ちているという。恭介が自身の住う日本の事について尋ねると、
「そろそろ総理大臣が降伏書類にサインする頃じゃあないかな?」
と、なんでもない風に言ってのけた。ルシファーは廃ビルの一室で塞ぎ込む恭介の元に稀に食料や水と共にいかにして人類が滅んでいくのかという過程を嬉々として語っていく。
恭介はルシファーの言葉を黙って聞いていた。
やがて、2012年が混乱と悲鳴の中に過ぎ去り、2013年が幕を開けた時には既に世界は悪魔の手によって落ちてしまったらしい。
「残った人類の処遇は現地にいる悪魔たちに任せてるんだけど……キミもよかったら見てみるかい?」
「……いや、いい」
恭介は小さく首を横に振ってルシファーの提案を否定した。ルシファーはそのまま何も言わずに恭介の住う廃ビルから飛び立った。
恭介は廃ビルの一室の中にあるベッドの上に横たわった。バネが露わになってしまったベッドである。
当然背中は痛んだが恭介はそれを自身の戒めとして受け取っているため痛くても口には出さなかった。
恭介に殺された青年団の人たちはもっと痛かったはずだ。未だに幽霊になって恭介を呪い殺そうとしているに違いない。
恭介が改めて自身に戒めの事を誓っていると、その周りの幽霊とも言える人々が自身の寝台の周りを囲んでいる事に気が付く。
恭介は両目から涙を零し、両手を合わせて青年団の人たちに懺悔の言葉を叫んでいく。
「ごめんなさいッ!あの時は身の危険を感じて……それでも許される事じゃあないですよね!?でも、お願いですッ!許してくださいッ!謝りますッ!一生を懸けて償いますッ!」
だが、青年団の人々は容赦なく恭介の元へと近寄っていく。
その表情は誰もが怒りに満ち溢れ、憎悪の炎を瞳に宿していた。
それを見た瞬間に恭介は悟った。彼らが自分を許すという道理など存在しないという事を。
殺される!恭介が思わず両目を閉じた時だ。
「何をしているんだい?神通恭介?」
いつの間にかルシファーが恭介の顔を覗き込んでいた事に気が付く。
その瞬間に恭介の周りを囲んでいた幽霊たちが消えていた事に気がつく。
流石の亡霊も悪魔の前には叶わなかったという事だろうか。
だが、感謝などしない。恭介は突然現れたルシファーを強く睨み付けながら尋ねた。
「何の用だ?」
「クックク、随分と嫌われたもんだねぇ」
「当たり前だろうが……人間の中でお前が好きな奴なんているかよ」
恭介は自身が抱えていた思いを感情のままに吐き出していく。
それでもルシファーは顔に笑顔を浮かべていた。恭介の罵声など子供の戯言だとでも思っているのだろう。
「……さっきあの人たちの亡霊を見て思ったんだ。おれはもう生きていてはいけないんだって……」
「成る程…‥キミはこれから死ぬというのかい?それはいい事だ。地球最後の人間には相応しい幕切れだ」
「……待てよ、それって」
「うん、キミがその廃ビルの中で呑気に塞ぎ込んでいる間にぼくらが人類を抹殺していたんだよ」
ルシファーは平然と言ってのけた。まるで子供がお気に入りの蟻の巣を潰した事を友達や先生に報告するかの様な気楽さであった。
だが、今の恭介は怒る気にもなれなかった。自らの両親も殺されたというのにだ。今の彼の中に残るのは虚しさだけであった。
その言葉を聞くと彼は部屋の扉を開けて廃ビルの屋上に向かっていく。
六階建てのビルである事から飛び降りる距離としては最適だろう。
通常であるのならば飛び降り自殺というのは迷惑が掛かる。ビルの責任者はそのビルを事故物件として抱え込まなくてはならなくなるし、万が一飛び降りている最中に人とぶつかってしまえばその人の命を奪う事になってしまいかねない。
だが、人類が滅亡してしまった今となってはそんな事を気にする必要もなかった。
恭介は流されるままに飛び降りた。自身の体が地球の重力に引っ張られて地面へと叩き付けられる瞬間に恭介は自身が鳥の様になった様な気がした。
だが、地面が間近に迫るにつれ、そんな快感に近い思いは立ち消え、代わりに彼の脳裏には走馬灯の様にこれまでの記憶が浮かんでは消えていく。
恭介の頭の中に浮かんできたのは幸福だった幼少期の頃の記憶。
話の内容などわからないというのに大人ぶって難しい神々との戦いを描いた特撮ヒーロー作品を両親や幼稚園の先生、周りの友達などに語っていた事を思い出す。
次は小学生の頃の記憶。この頃になると彼は多くの作品に触れる様になって特撮作品ばかりではなくアニメやゲームなども嗜む様になっていた。
中でも父親に開いてもらうパソコンを用いてのゲームは幼い日の恭介にとって最高の娯楽の時間であったと評してもいいだろう。
やがて彼は幸せな小学生時代を終えると、彼にとって最後の幸福な時代であったとともされる中学生時代を迎えた。
中学生の頃、恭介は部活動に打ち込んでいた。恭介が入っていたのはバトミントン部である。
熱心にラケットを使って球を相手のコートに向かって打ち込む。
これだけのスポーツに恭介はひどく熱中し、夕方まで帰らないという事も多かった。
恭介は中学3年生の引退の時期までスポーツに夢中になっており、両親にその事をよく咎められたものである。
やがて、府内の大きな高校に進学し彼はそこで運命の恋人である姫川美憂と出会ったのである。
高校一年生の前半まで彼は穏やかなであった。姫川美憂に恋慕しつつも普通の高校生として暮らしていた。
だが、ルシファーと出会ってゲームに参加してからが彼の波瀾万丈の人生の幕開けとなった。
落ちていく中で彼はあの時の事を思い出しながら後悔の念というものを抱いていく。
というのも、もし自分がゲームに参加していなければこんな惨めな思いをしないで済んだであろうから……。
両目を瞑りながらその事を考えていた。
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