THE Lucifer GAME〜下心のために契約を結んでしまった俺は死なないために頭を使ってデスゲームを生き残ります!〜

アンジェロ岩井

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エピローグ『悪魔の使者たちは黄昏時に天国の夢を見るか?』

最上真紀子の場合ーその23

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「お前はずるい……」

「黙りやがれッ!」

「なんでのうのうと眠れるの?なんでのうのうと街を歩けるの?なんでそんな温かそうなベッドで眠れるの?あたしたちは冷たい墓の下にいるのに」

「やかましいよッ!亡霊の分際で夢の中にまで現れやがってッ!」

真紀子は今自分が夢の中にいるという事を自覚していた。その上で目の前に現れる無数の亡霊たちに向かって口汚く煽っていたのである。

「あたしまだやる事があったのに……その上お姉ちゃんまで……絶対に許さない殺してやる」

「ハッ、一度死んでるやつがどうやって殺すというんだい!?馬鹿も休み言いやがれってんだッ!」

真紀子がそんな罵声を飛ばした時だ。不意に自分の首が何者かの手によって強く締められていく事に気が付く。
真紀子が恐る恐る背後を振り返ると、そこには恐ろしい形相で自分を睨み付ける文室千凛の姿。

「こんな風にだよ。このまま首の骨を折ればいくら貴様でも死ぬだろう!?」

「て、テメェ……」

千凛の言葉は本当であった。真紀子の首を凄まじい力が締め付けていったのである。まるで万力か何かで首元を挟まれているかの様である。
真紀子の口からか細い悲鳴が迸っていく。いやそれは声ですらない。サバンナか何かにいる野獣が上げる様な呻めき声に近かった。

「死ね、最上真紀子」

真紀子が耐え切れずに助けを求めた時だ。自身の体が強く揺さぶれていく事に気が付いた。
そこには心配そうな表情で真紀子を見つめるメイドたちの姿。

「あの、お嬢様……どこか具合でも?」

「なんでもねぇよ、それより今何時だ?」

メイドたちの言葉によると起床時間はとっくの昔に過ぎていたらしい。電話会談まであと少ししかないのだという。真紀子は舌を打つと、メイドに身支度を急がせたのであった。
アンドルー・ロックブリッジとの話し合いを終え、真紀子はそのまま車に乗り込み元天堂家現自身が所有者となっている東京の大きなビルの中へと乗り込む。
会社の中で今後の日本の指針を熱弁し、円滑に進めるためのプランを語っていく。真紀子は天才である。それ故に彼女の考案したプランは難なく受け入れられるかの様に思われた。
だが、それでは既存の利益を得られない実業家たちが反発を始めたのである。
しかも、表向きはみんなのためだというのだから性質が悪い。
お陰で真紀子はその説得のための時間を割けなければならなかった。

真紀子はバブル崩壊後の指針を立てられずに企業が新分野を開拓できなかったのはああいう連中のせいだという事を実感させられた。或いはこれまでの天堂グループの保守的な性質が発展を拒ませていたのかもしれない。
折角天才の自分が『平成の大飢饉』から日本を救おうとしているというのに他の大企業の社長たちが足を引っ張るのだ。
またしても真紀子は苛立ちを覚えさせられた。
その次が総理大臣との会食である。これについても真紀子は苛立ちを感じさせられた。なんにせよ行動が遅いのだ。
顔色ばかり伺っていては何もできないではないか。
全くつまらない奴だ。真紀子は辟易させられた。
その後も順調に予定をこなしてはいたが、中々うまくはいかないものだ。真紀子は溜息を吐いた。
一日の予定を終え、屋敷の自室の中で秘書の美憂に予定を確認したところ美憂は一通りメモ帳を確認した後に首を横に振る。
真紀子はそれに安堵してそのまま風呂へと向かう。
大きな浴室の中でシャワーを浴びていると、外で美憂が深刻な声で言った。

「そういえば明日に善家泰文が訪れるって話があったぞ」

「善家の奴が?世界の滅亡が近付いて不安になったのか?」

「かもな?早くあんたと式の話をしたいのかもしれない」

「クックッ、いいぜ。最後にあいつにいい夢くらいは見させてやるさ」

「わかった。あたしの方から許可があったと伝えておくぞ」

「あぁ」

真紀子は長くて綺麗な黒髪を優しく洗いながら答えた。
この絹の様に艶やかな黒髪は幼い頃からの自慢であった。思えば幼い頃から多くの異性が自分の黒髪に夢中になったものだ。真紀子が髪を撫でながらかつての記憶の事を思い起こしていると、不意にドタバタと足音を立てる音が聞こえた。
真紀子は思わず眉間に皺を寄せた。自分が折角物思いにふけていたというのに一体誰がその邪魔をしたのだろう。
真紀子が手早くバスローブに着替えて風呂から出ると、階下には美憂やメイドたちと言い争う善家康文の姿が見えた。
彼は気弱な声を精一杯に震わせながら言った。

「あ、あの人にあ、会わせてくれ……ぼ、ぼくという婚約者が現れたんだってなッ!」

「だから今は風呂だと言っているでしょう?もうすぐであの方は現れますからしばしお待ちをーー」

「私に何か御用ですか?」

止めようとする美憂の言葉に被せる様に真紀子が階上から泰文に向かって問い掛けた。

「あぁ、キミか……よ、よかった……そ、その……ぼくらの結婚の事について話がしたかったんだ。き、キミに似合うウェンディングドレスを見つけてさ」

「善家さん。今のお時間をわかっていらっしゃいますか?深夜ですよ。秘書やメイドがいたからいいものを……そんな時間に女性の家を訪ねてくるなんて非常識だとは思いませんか?」

真紀子は舌鋒鋭く泰文の行動を批判した。その目に浮かんでいるのは非難の色である。泰文はその目を恐れて慌てて謝罪の言葉を述べた後に部屋を立ち去っていく。
それから真紀子は美憂に目を向けると言った。

「さっきも言ったけど、もうそろそろ遅い時間だ。姫川……お前もそろそろ帰んな」

「まだ書類があってだなーー」

「家でやれ」

雇い主から厳命を下されては美憂としても帰らざるを得ない。美憂はとばっちりを喰らったなと苦笑を浮かべながら帰り支度を整えて、駅の方向に向かって歩き出していく。
美憂を送り出した後でメイドの一人が真紀子に耳打ちした。

「お嬢様、あの姫川という方ですが、どうしてあのお方を登用なさられておられるのですか?」

「決まってんだろ。あいつが秘書として優秀だからだよ」

「ですが、あの口調にあの態度……とてもお嬢様にお仕えするべき秘書の態度とは思えませんわ」

メイドの一人が憤るのとは対照的に真紀子は口元を弧の形に歪めて笑っていた。

「心配するなよ。このあたしが許してんだからよぉ、姫川にはお前らみたいに敬語なんて使ってもらってほしくねーんだよ。敬語使う姫川なんて気持ち悪いからな」

真紀子は上機嫌のまま自室に篭り、自身のスキンケアを終えると、部屋に置いてある水差しを片手に読書に耽けっていた。
本の題名は『人類の敵、神』というなんとも過激な題名の付いた本である。
元はアメリカのSF作家であるトマス・K・ホロラゥによって執筆された哲学書で、これまでの人類の歴史の中で神と悪魔のどちらが人を殺してきたかを記した本であり、そこには神こそが人類にとっての最大の敵であるという過激な内容が書き連ねていた。
2009年にこの本が発表された当初は多くの論争を引き起こし、翌週のベストラーセラーで一位を獲得したとされる。
とうとう論争はバチカン市国が介入するまでに発展し、当時のバチカン枢軸卿を始めとする法王庁の幹部とホロラゥ並びにホロラゥの信奉者たちによる討論が行われ、そこで決着が付けられる事になった。

38時間にも及ぶ討論は時に双方の参加者が激昂するなどのトラブルがあったものの、無事に終了し、結果としては本の中にある『神こそ人類の敵』という箇所を論破して一部を修正させる事には成功した。
だが、本の差し止めや発禁には至らず結果として今の時代まで発刊が続けられる事になった。
真紀子はその出来事を頭の片隅に置き、悪魔と契約し、その悪魔の計画を知っている自分からすればその本が悪魔の事などを知らない人物の戯言に過ぎないという事が知れただけであった。
真紀子が一人部屋の中で笑っていると、不意にスマートフォンのバイブ音が鳴り響いていく事に気が付いた。
電話の相手は真紀子の苦手な養父であった。真紀子が舌を打った後に電話を手に取ると電話口の向こうから低くそれでいて真剣な声が聞こえた。

『なぁ、真紀子……キミや志恩は一体どんな事に首を突っ込んでいるんだい?』

「何を言っているんだよ?」

真紀子は自分の声が無意識のうちに震えている事に気が付いた。慌てて声を平常にしようとしたが、それは既に発せられた後であったので真紀子は戻す事が不可能であると思い知らされた。

『惚けないでくれよ。お前たちがやってる殺し合いのゲームの事だよ』

「……なんでその事を知ってやがる」

真紀子の背筋が凍った。同時にこのゲームの事が自分を知る人間に知られたという恐怖が真紀子の全身を包み込む。
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