THE Lucifer GAME〜下心のために契約を結んでしまった俺は死なないために頭を使ってデスゲームを生き残ります!〜

アンジェロ岩井

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エピローグ『悪魔の使者たちは黄昏時に天国の夢を見るか?』

神通恭介の場合ーその16

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どうすればいいのだろう。神通恭介は高校の帰り道を陰鬱な顔を浮かべながら歩いていた。彼は背中を丸めて視線を地面の下に向けながら自身のこれまでの人生を振り返っていたのだ。
自分はサタンの息子として懸命に戦ってきたが、その動機は全て姫川美憂のためであった。
恭介にとってクラスの姫である美憂は彼の人生において全てであった。
いや、今ですらそうだった。恋というのは男を盲目にする。その最たる例が恭介であったのだ。
だが、そんな恭介でも最近の美憂には付いていけないと思う事が多々あった。
それがニヶ月前のブカバクという悪魔と契約していたサタンの息子を倒した時の美憂の態度である。これまでは敵を倒した事などなかった彼女が初めて敵を倒したのである。その時の姿といい台詞といい美憂はもう以前の美憂ではないというのが恭介には実感させられた様で悲しかった。

そして一ヶ月前。美憂は真紀子と手を組んで真行寺美咲を葬り去ったのである。
あの時の様子は今でも鮮明に思い出せる。彼女は真紀子と共に美咲を挟み撃ちという形で葬り去ったのである。
いつも通りに招集が行われ、激しい戦闘が繰り広げられていた。今回は先に真紀子が先手を打ち、志恩を襲撃したためか志恩の能力によって動きが封じられるという事はなかった。
そのため真紀子は進化前と後の武装を巧みに使い分けて、志恩を追い込んでいたのである。一方で美憂と恭介は美咲を相手にしていた。あらゆる方向から鞭の様に飛んでくる鎖を剣で弾き飛ばし、美咲の元へと近付いていく。
美咲は真上から剣を振り上げて迫ってくる恭介を鎖で捕らえて地面の上へと放り投げていく。恭介はその衝撃に思わず悶絶してしまう。
だが、美咲は容赦しない。美咲は鎖を引っ張って恭介を引っ張っていく。綱引きの縄の心境に近かった。
この時に美咲は戦いに夢中になり忘れていたのだ。姫川美憂の存在を。
美憂はそんな美咲の背後を取ると真後ろから上一直線に向かって剣を振り下ろしていく。美咲の背中から大きな火花が迸っていく。咄嗟の事に美咲は慌てた表情を浮かべたが美憂はそのまま立て続けに剣を振って美咲を圧倒していく。

「ハッ、やるじゃあねぇか!姫川の奴ッ!」

第二の武装に身を包んだ真紀子は歓喜に満ちた声を出した後に志恩に向かって剣を真上一直線に振り下ろして大きなダメージを与えた後で勢いを付けて蹴り飛ばし、美咲の元へと向かっていく。
真紀子は美咲の正面に向かって迫ったかと思うと、そのまま美咲の目の前から剣を大きく振っていく。美咲は真後と正面から多大なるダメージを受けた事になった。
壮絶な悲鳴を恭介と志恩は聞く事になった。

「ひ、酷いッ!なんて事を……」

志恩はその容赦のない攻撃に思わず苦言を呈してしまうのだが、真紀子はそんな弟を嘲笑していく。

「何を言っているんだ志恩?こいつはゲームなんだぜ。ルール無用のな」

「で、でもこんなのあんまりだよ……」

「あんまり?蜷川は蜂の巣にされてたが」

「文室の奴もな。お前忘れたのか?」

二人の馬鹿にする様な声が響いていく。その様に思わず兜の下で顔を引き攣らせたのは志恩ではなく恭介であった。
前後から繰り出す二人の容赦のない攻撃に恭介は引いていたのだ。
まるで、契約した悪魔が二人に乗り移っているかの様な錯覚に陥ってしまったのだ。
それを見ているうちに恭介は無意識のうちに恐怖の感情を芽生えさせた。
同時に自分が湧いていた疑問に確信を持てた様な気がした。本当に自分の立ち位置は正しいのかという思いに対する明確な答えが二人から下された様な気がしたのだ。
このまま二人についていってもいいのだろうか。自分は本当は志恩と共に手を組むべきではないのだろうか。
そんな悶々とした思いを一ヶ月もの間抱えていたのだ。恭介は学校に行くたびに或いはゲームに出るたびにその事を考えていた。
いや、隙間の時間さえあれば今後の自分の立ち位置というものを考えていた。
なにせ残った時間はもう一ヶ月程しかないのだから。
鞄を下げながら道を歩いていくと、不意にルシファーが彼の頭の中に声をかけたのである。

(どうしたんだい?神通恭介)

「なんでもねーよ。それよりも、だ。ここ最近起きている世界各地の異常現象はお前らの仕業か?」

(うん、そうだよ)

恭介の問い掛けにルシファーは悪びれる様子も見せずに即答した。
恭介はそんなルシファーの回答を聞くたびに陰鬱な思いを抱えてしまう。
世界各地で発生している異常現象は真行寺美咲の脱落と同時に発生したのである。
ここ最近世界では極端なまでの寒冬が続き、アフリカですら大寒波に襲われているらしい。加えて日照不足でアフリカの人口は極端なまでの減少を始めているらしい。
加えて世界各地を幾度も大雨が襲いアメリカや中国、ヨーロッパなどを襲っているという。
とりわけ被害が深刻であるのはアメリカや中国といった大国であり、そこでは大雨や洪水更には相次ぐ風害。加えて風害や洪水によって引き起こされる凶作による食糧不足という危機に襲われているという。

日本でも風害が発生し、多くの人々が日本では発生しないと思われた巨大なトルネードによって死んでいる。
食料不足は日本でも発生し、スーパーの食品の恐ろしい値上げが始まり、貧困家庭が更に苦しむ様になってから一部の人たちはこれまでの歴史上の飢饉になぞらえて2012年に発生した食料不足を『平成の大飢饉』と呼んでいた。
加えて浅間山や富士山といった火山が噴火し、その火山灰が撒き散らされ、一時的とはいえ周りを夜の様に黒くしていったのである。無論東京も例外ではない。
大噴煙に見舞われ、一時的とはいえ国際都市の趣きは既に失われていた。
ようやく回復したのが先週の事であった。

「どうしてこんな酷い事をするんだよ。人間がお前たちに何をしたっていうんだ?」

恭介の純粋な問い掛けにルシファーは嬉々とした声で答えた。

(決まってるだろ?ボクら悪魔の進出をより円滑にするためさ。キミは古代中国の秦がどうして中国を統一できたか知っているかい?)

ルシファーの言葉によると、秦が有利に立てたのは隣国の『趙』や『韓』といったいった国が虫害の被害を受け飢饉に喘ぐ中で『秦』のみが無事であったのでその隙に生じて周りの国に戦争を仕掛けられたからであったという。

(悪魔が人間の歴史を踏襲するというのも変だけどね。使うものは使わないと)

「ふざけやがって……」

(ふざける?とんでもないぼくらは大真面目さ)

恭介は歯を軋ませながらルシファーに対する嫌悪の感情を強めていく。ルシファーというのは人の命というものをなんだったと思っているのだろう。
恭介の中で負の思いというものが渦巻いていく。そんな中ルシファーは恭介に向かって微笑み掛けた。

(キミが志恩と共に戦いを止めるという選択肢を取りたいのならばそれはキミの自由だよ。けど……それがどういう結果をもたらすかは保証しかねるな)

ルシファーの曖昧な態度にはうんざりしてしまう。
恭介が煮え切らない思いを抱えて扉を開くと、そこにはある少年の姿が見えた。

「……神通恭介さん。お話があります」

それは先程までルシファーが出していた非戦派の派閥主にして最後の非戦派である最上志恩の姿であった。
志恩は恭介の母親が出したと思われるお茶に手も付けずに待っていた事から少年の律儀な面が伺える。
少年は恭介が着替えてくるのを待ち恭介が席の上に座るのと同時に深刻な顔を浮かべて言った。

「どうか、ぼくと共に戦いをやめさせてください」

志恩は両手を合わせて懇願していく。
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