THE Lucifer GAME〜下心のために契約を結んでしまった俺は死なないために頭を使ってデスゲームを生き残ります!〜

アンジェロ岩井

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エピローグ『悪魔の使者たちは黄昏時に天国の夢を見るか?』

最上真紀子の場合ーその22

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「お嬢様を離せッ!」

百合絵が叫ぶ。美咲は自身と目と鼻の先に迫ってくる百合絵の処理に困ってしまったのだろう。
捕らえていた真紀子を百合絵に向かって突き飛ばし、そのまま背を向けて走り去っていく。
そのため真紀子と百合絵は出会い頭にぶつかってしまい、真紀子は疲労のためかそのまま地面の上に倒れ込む。
そんな真紀子を心配して駆け寄ってくる百合絵に対して掛けた言葉は追跡を意味する言葉であったのだ。
それを聞いた百合絵は腰に下げていた大きなナイフを持って美咲を追い掛けていくが、美咲の姿は既に消えてなくなってしまっていた。

代わりに武装した志恩との戦闘が開始された。志恩は腰に下げていた剣を抜いて、百合絵と対峙していく。
剣とナイフとの打ち合いが続いた後に恭介と美憂は二人の戦いを見守っていたのだが、やがて百合絵の剣が弾き飛ばされる姿を見て志恩の強さを改めて実感させられたのである。
志恩はその百合絵に向かって剣先を突き付けながら言った。

「……ぼくからすれば降参した方が得策だと思います。今からでも遅くありません。人々を守るためにぼくらで手を取り合って戦いませんか?」

「……誰が……私はお嬢様を裏切るつもり事などないッ!」

「……お願いです。考えを変えていただけませんか?」

「……その剣で刺せばいいでしょう?意気地のない子供ね……」

「そんな事を言わないでーー」

「私から見たらあなたなんて意気地のない子供よッ!」

百合絵は大きな声で志恩を詰っていく。その剣幕に驚いたのか志恩が両肩をすくめた。
その隙を狙って百合絵が起き上がる。百合絵は立ち上がると同時に横一閃からの攻撃を仕掛けて志恩を地面の上に倒していく。それから倒れる志恩の胸部に向かって自身のブーツを強く下げていく。
その度に志恩が悲鳴を上げていくので、恭介と美憂が兜の下で冷や汗を垂らしていた時だ。不意に百合絵の背後から不機嫌そうな声が聞こえた。

「おい、そろそろやめな」

「で、ですが、お嬢様……」

「やめなって言ったのが聞こえなかったのか?」

真紀子の声が低くなる。不機嫌になったという印だ。百合絵は慌てて志恩の元から下がっていく。
真紀子はそれを見て兜の下で満足そうな表情を浮かべて笑う。
真紀子は自分以外の人間が弟の志恩を倒すという事を認めようとはしなかったのである。
故にあれ程までに有利な状況で戦いが進んでいたのにも関わらず解放するという指示を出したのである。
かくして解放された志恩はその事に恩を感じたのか、その日はそれ以上は戦おうとはせずにその場から去っていく。
それを見届けた三人もそのまま解散となった。真紀子は百合絵に近付くなり、最初に罵声を浴びせ、その次に感謝の言葉を送ったのであった。

「志恩はあたしの獲物なんだよ。助けてくれた事には感謝するがあれはやり過ぎだぜ」

「も、申し訳ありません」

頭を下げる百合絵。二人は深夜の郊外の公園からの帰り道でこんなやり取りを交わしながら歩いていたのである。

「まぁ、いいや。あたしも怒りすぎた……ンで、今夜は帰ったら風呂に入る。お前はその後だ」

「よろしいのですか?私が……」

「助けてくれた礼だよ。特別だかんな」

真紀子はぶっきらぼうに言った。屋敷に戻った頃は本当に時間が過ぎており、日付は完全に変わっていた。
真紀子は宣言通りに入浴して汗を落とし、その後はバスローブに着替えて自室へと戻っていく。
それから暇潰しのための本を開こうとした時だ。不意に電話が鳴り響く。
電話の主は『神通恭介』となっていた。『姫川美憂』となっていてもおかしくはなかったのだが、なぜか彼の名前が掛かってきたのである。
真紀子は不機嫌そうな声をあげて恭介からの電話に答えた。

「どうした?」

『その、おれなんだけどさ……今少し話できるか?』

思ったよりも深刻な口調である。しかもその後は口籠ってしまった。なんとなく嫌な予感はする。
真紀子が意を決して質問の意味を尋ねると、彼は申し訳なさそうな口調で言った。

『おれ、やっぱり志恩の側につこうかなって思い始めてさ』

「姫川の奴が今更になって考えを変えたのか?それともあんたが誰かから妙なアドバイスでも受けたのかい?」

『違うよ!おれの意志だ!』

電話の向こうからは切羽詰まった声が聞こえる。
真紀子はそれを聞いても怒りの感情は湧いてこなかった。むしろ少しばかり早く恭介と刃をができるかもしれないという喜びの感情さえ溢れ出てきたのである。
だが一応は止めておいた方がいい。志恩や美咲と息の合った連帯などを披露されたのならば楽しい事は楽しいのだが、それで戦いが長引いてベリアルから叱られでもしたらそれはそれで迷惑なのである。

「成る程、だが、神通……テメェまでもそんな大それた意思を持っていたとは思わなかったな。人類のためか?はたまた世界平和のためか?わざわざゲームを止めようとする理由を教えてみな」

『そっ、それは……』

恭介の言葉が詰まる。やはり大それた事などは考えてはいなかったのだろう。
なんとなくで動いた結果が自分への電話なのだろう。美憂ではなく自分を選ぶあたりも彼の中にある優柔不断さというのが見えた。

「ほら、答えられねぇんだろ?どうせあやふやな考えで動こうとしたんだろうが」

「そ、そんなッ!おれはッ!」

「……いいか、あたしは疲れてんだ。これに懲りて二度とくだらねー用事で電話を掛けてくんじゃあねぇぞッ!」

真紀子は苛立ち紛れにスマートフォンの液晶画面を少しばかり荒っぽく動かして、電源を切っていく。

「クソッタレ、あいつなんのつもりなんだ」

真紀子はそのまま寝る前に読もうとしていた本へと目を通していく。
実にくだらない用事だ。真紀子が苛立つ気持ちを抑えながらページを読み進めていく。その日の晩は真紀子にとってなんとも気分の悪い夜となってしまった。
だが、翌日となって更に最悪の一報が屋敷の電話へと鳴り響く。
電話の主はアメリカ財界の大物アンドルー・ロックブリッジ。
彼の声はいつもよりも切羽詰まっており、その声から余裕がない事が理解できた。

『ミス・最上!我々の国に謎の紋様が映し出されている!?あれはどういう事かね!?』

「あれって?」

『決まっているじゃあないか!各州の主要都市の上に貼っている謎の紋様の事だッ!』

真紀子が慌てて検索アプリを開いてアンドルーの言っていたニュースの事を調べると、確かにその紋様の事が載っていた。その様子を見て唖然とする真紀子に対し、電話口の向こうの相手は抗議の言葉を飛ばしていく。

『これはどういう事だね!?悪魔たちの殺し合いのゲームが終わるまでは地獄への入り口インフェルノとやらは開かれないんじゃあないのかね!?』

「わ、私に言われましても……」

「代わりに我が説明しよう」

困惑する真紀子に代わって答えたのは真紀子の契約した悪魔であるベリアル。
彼は流暢な英語を用いながら地獄への入り口インフェルノが現れた理由を説明していく。

「つまるところ、あれは準備なのだよ。我々がこの世界に侵攻するためのね」

『じゅ、準備だと……?』

「その通り、今までは悪魔の顕微鏡などの専門の道具でしか見られなかった地獄への入り口インフェルノがこうして人間の肉眼でも見られるまでに成長していっているという事だよ」

『や、やはり我々の社会に悪魔が攻め入る事は確定なのか?』

世界有数の大富豪であるアンドルーの声が激しく震えていた。
後にも先にもこの様な声を出すのはこれだけだろう。真紀子は真剣な顔を浮かべて聞いていた。
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