THE Lucifer GAME〜下心のために契約を結んでしまった俺は死なないために頭を使ってデスゲームを生き残ります!〜

アンジェロ岩井

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第三部『終焉と破滅と』

最上真紀子の場合ーその16

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クソッタレ、あいつ絶対にぶっ殺す。最上真紀子は大量の買い物袋を両手に下げながら東京の高級デパートで買い物を続ける希空を睨みながらそう考えていた。すると、隣で同じ様に荷物を持っていた美憂がふらつき、真紀子の肩に当たった事に気が付く。もし今ゲームが開かれたら、間違いなく真紀子は美憂を攻撃したに違いない。美憂は一応の謝罪の言葉を述べていたが、真紀子からすれば腹立たしい事この上なかった。
こんなにイライラさせられるのは久し振りだ。真紀子は大量の荷物を抱えながら希空の後を必死でついていく。
まるで、必死に親鳥の後を追う小鳥の様である。
非常に不本意ながら真紀子はその例えが的確であると悟り、悔しくなった。
美憂も常に荷物持ちを続けているのは苦しいのか、足元がふらついていた。
真紀子が更なる憎悪を募らせていた時だ。不意に希空が振り返って言った。

「ここで、靴も買うからね。二人ともちゃんとついてきてよー」

二人は疲れ切った顔で肯定の言葉を述べた。
そんな形で買い物が終わって二人は宿にしている短期賃貸のデイリーマンションに戻ったのであった。
真紀子は黒色のスーツを脱ぎながら美憂に突っ掛かっていく。

「姫川、お前、昼間あたしにわざと肩をぶつけたろ?」

「あっ?何を言っているんだ?」

「惚けてんじゃねーよ!あの時に肩があたってすげーイライラしたんだぞッ!」

「疲れてるのはお前だけじゃあないぞ、天才ならそんな事くらい想像しろ」

「抜かしやがったな」

一触即発の状態にあった二人を救ったのは腹の虫である。真紀子は舌を打った後に黙って賃貸マンションに備え付けられている台所へと向かったのである。
近頃宿泊先として利用される事が多いデイリーマンションにおいては流しやコンロ、道具などが置かれている事が多い。
真紀子はそれを応用して海鮮パスタを作り上げたのである。ムール貝に海老を入れたシンプルなパスタだ。真紀子はそれを美憂に渡すと相変わらずの粗雑な調子で言った。

「食うか?」

その一言に美憂の怒りも解けたのか、海鮮パスタを貪り食っていく。
美憂は一通りパスタを食い終えた後に両手を合わせていった。

「ご馳走様でした」

「今どき、そんな事する奴、志恩以外で初めて見たぜ」

「……となると、弟の志恩はできて、お前はできていないという事になるけど、その認識で構わないか?」

「……折角人が矛を収めてやったっていうのに、いいぜ、まだやるか?」

またしても一触即発の事態になった時だ。玄関のチャイムの音を鳴らす音が聞こえた。真紀子が面倒臭そうに立ち上がって応対に行くと、そこにはただ一人でここに来た希空の姿が見えた。

「の、希空様!?どうして我々の宿舎などにわざわざ足をお運びに!?」

「決まってるじゃん。今夜お父様にあんたたち二人を紹介するためよ」

その言葉を聞いて二人は顔を見合わせると、すぐに与えられたスーツを羽織って靴を履き、希空の後を追い掛けていく。
すると、自分たちが泊まるマンションの側に一台の立派な車が泊まっている事に気がつく。
二人は後部座席へと押し込められ、そのまま都心の中を進んでいく。車の窓からは大東京の下で生活を営む車や人々の姿が見えた。
そんな人々の姿をくぐり抜け、車は今の天堂グループの総帥天堂門首郎が住う屋敷へと到着したのであった。
東京都内とは思えない規模の巨大な屋敷が聳え立っていた。
問題なのは巨大な日本家屋が真紀子が過ごしてきた様な田舎ではなく、都心のど真ん中にあるというのが天堂一族の力を表していたのだ。

真紀子が思わず生唾を飲む込んでいると、希空に背中を押されて、屋敷の中へと連れ込まれていく。
巨大な門をくぐり、二人が見たのは景色である。それは京都の寺や神社を思わせる様な和風の庭である。おまけにそれかつての真紀子の家にあった様な小規模なものではなく、本当に観光スポットの庭を持ってきたかの様な庭であったのだ。
松林に小規模の枯山水、それから巨大な池。かつての真紀子の家にあったものよりも数倍も大きい。
美憂と真紀子がその庭園の規模に圧倒されていると、中央に巨大な日本屋敷が立っていた。巨大な土間をくぐり、屋敷の使用人と思われる和服姿の女性に案内されるまま二人は屋敷の中へと案内されていく。二人が通されたのは屋敷の中でも中央に位置する部屋。即ち天堂グループの総帥にして日本の実質的な国王天堂門首郎の部屋であったのだ。
そこでは王女といえども例外ではないらしい。希空が居住まいを正しながら部屋の中へと入っていき、上座の上で胡座をかく実父に対して深々と頭を下げていく。
その背後で二人も共に頭を下げた。逆らえる状況にはないし、逆らう気力も出てこない。
その三人を見下ろしていた老人は低い声で言った。

「頭を上げていいぞ」

「はい、お父様」

その言葉に従って一同が頭を上げていく。真紀子は希空の背後から天堂門首郎を見つめていた。
天堂門首郎は老人であった。だが、その瞳は老いたりといえども、戦後最大の大財閥を築き上げたという事はあり、未だに衰えが見えない。
着ている和服というのも呉服屋などを通さずに専用の職人を雇って生成したものであるに違いない。絹を惜しげもなく茶色の紋付袴に使っている。
老人は娘の背後に控える新たなボディガードを見遣ると厳かな声で言った。
「お前たちか、希空に雇われた新たなボディガードというのは?」

「ええ、希空様に新たに雇われました最上真紀子と申します」

「……そうか」

老人は世間一般において恐れられている「最上真紀子」という名前を用いているのにも関わらず、動じようとはしない。
改めて、その奸物っぷりを真紀子は思い知らされた。

「時に、最上とやら、お主はどうして希空に雇われた。その経緯を教えてもらいたい」

「……私自身に特殊な力が備わっていたからでございます。希空様は私や隣に控えております姫川美憂を護衛として雇われになられました」

「……なれば、どうして希空の個人的な用事にまで付き合った?護衛であるのならば余計な真似をしなくては済むはずであるが」

「恐れながら、お父様。それは私がこの二人を侍女として雇ったからでもあります。最近になって、また私の侍女がミスをして、私を怒らせたましたのはお父様も記憶に新しいはずでございましょう?故に今の私には侍女がおりません。だから兼ね役として使わせていただきました」

理には適っている。上座の上の国王がどう出るかが問題なのだ。真紀子はこの時に背後から希空が滅多に見せない冷や汗を見せていた事に気が付く。
どうやらお姫様といえども国王には逆らえないらしい。いかに好き勝手に振る舞っているといえども不興を買えばその権威と権勢には終わりが来るのだろう。
真紀子がそんな事を考えていると、上座の上の国王が少しの間を置いた後に厳かな声で言った。

「……そうか、だがすぐに殺すなよ。お前はすぐに殺してしまうからな。最低でも一ヶ月は置いておけ」

「わかってます。お父様、今度は致しますから」

希空は無邪気な笑顔を浮かべて答えた。
美憂が寿司屋の時と同じような不快感に見舞われた。やはり、天堂希空は人を人とは思っていない。奢れる大貴族であるのだ。
美憂が不快感に包み込まれ、顔を覆っているのとは対照的にデイリーマンションへと戻っていた時の真紀子の顔は実に爽やかであった。
彼女が希空や門首郎に対して思っている事は怒りの感情ともう一つ、逆転された時の二人の顔である。
天堂グループにとって代わってこの日本を治めた時にあの父娘はどんな表情を見せてくれるのだろうか。
泣き叫ぶのだろうか。それとも命乞いをするのだろうか。それはわからない。
だが、いずれにしろそれは楽しみでしかなかった。
真紀子はかつて始皇帝の巡行を眺めた項羽の心境であったのだ。
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