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第二部『箱舟』
ウォルター・ビーデカーの場合ーその②
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その報告が入ってきた時美憂は俄には信じられなかった。というのも、貝塚友紀ことリヴァイアサンはゲームでの戦いで死ぬものだとばかり思い込んでいたからである。だが、現実は思った様に上手くはいかないのだ。美憂は改めてそれを実感させられた。
「その報告に間違いはないのか?」
美憂の問い掛けに報告に訪れた男は黙って首を縦に動かす。
「じゃあ、テメェは婚約者が死んだっていうのにむざむざと逃げ出してきやがったのか!?」
秀明が男に向かって掴み掛かっていく。
「だ、だって仕方がないだろ?レミトン社製のハンディショットガンだぞッ!お、オレにどうしろというんだ!?」
「レミトン社だかハミントン社だかしらねぇが、自分の大切な人ならばその手で守るのが筋ってもんだろうがッ!」
秀明が拳を突き上げようとしたので、恭介と志恩が慌てて止めに入ったのである。
男は涙を流しながら謝罪の言葉を述べていく。
「だって……だって怖かったんだッ!い、いきなり友紀の体が吹き飛ばされて……」
男の言葉は嘘であった。牙塚がハンディショットガンを取り返した時彼が真っ先に狙ったのは男であったのだ。男はこのまま殺されるかと思っていたのだが、咄嗟に友紀が自分を庇ったのである。
目の前でバラバラになった死体を見て彼は泣き叫んだ。そしてそのまま逃げ帰ったのである。幸か不幸か彼はそのまま背後から銃撃を受けずに済んだのである。
だから彼は教祖への報告を終えた後にホテルに居座っている四人にその事を伝える事ができたのである。
だが、誰もがその男に対しては冷ややかな視線を向けていた。彼はかつて友紀を虐げたばかりか、それを助けようともしなかったからだ。
秀明に至っては汚物を見るかの様な目で男を見つめていた。
「それで、その牙塚って奴は今何をしてるんだ?」
「そ、それは……」
男が口籠るのと同時に扉が勢いよく砕かれた。五人が慌て視線を向けると、そこにはハンディショットガンを構えた牙塚の姿が見えた。
「教えてやろうか、ガキども。お前たちを始末するために動いていたのさ」
「な、なぜだ!?なぜオレたちを殺そうとする!?」
恭介の問い掛けに牙塚は淡々とした様子で答えた。
「オレたちを殺そうとするかだと?そんなの邪魔に決まってるからだろ」
「……真紀子を勝たせるためか?」
美憂の問い掛けに牙塚は口元を三日月の型に歪ませて答えた。
「その通り、ゲームを有利に進めるためには一人でもサタンの息子を消しておいた方がいいからね。心配するな、お前たちは教団が始末しておいたという事にしておくから」
「……どこまで腐ってんだ。この悪徳刑事が」
秀明が悔し紛れに吐き捨てたが、牙塚は激昂する事もなく、ただ黙ってその銃口を秀明に向けた。
「フッ、言葉には気をつけた方がいいぞ。そうでないとただでさえ少ない寿命を更に短く少なくする事になる」
「黙れ、この野郎」
「減らず口を……だが、まぁいい。今殺したいのはお前らではなく、こいつだからなッ!」
牙塚は銃口を秀明から床の上で怯えてしまっている男に向き替えた。
「お前を見てると怒りが湧いてくるんだ。何かはわからないが、腹の底から燃える様な怒りがな……」
「や、やめてくれ!」
男は懇願したが、牙塚は容赦しようとしない。そのまま容赦なくショットガンの引き金を引こうとした時だ。不意に彼の体が地面の上へと倒れてしまった。
慌てて四人が足を下げると、部屋の中に武装を纏わせたウォルターの姿が見えた。
ウォルターは男の背中に突き刺さっていたカトラスを引き抜くと、そのままその剣先を突き付けて言った。
「さぁ、サタンの息子たちよ。私と戦え……現れた警察官はみんなこの私が始末したが、政府というのは暴れ狂った象の様なもの……相手が倒れるまでその動きを止めようとはせんのだ。じきにその本体が我々の追求に全力を挙げてこよう」
「……だろうな。あんたと同じだ。政府というのは暴れ回る手負の像の様なものだ。一度危害を加えれば相手が絶命するまで暴れ続ける」
美憂の言葉にウォルターが同意した。
「その通りだ。だからその前にあたしたちとの決着を付けたいという事だな?」
「あぁ、その代わりといってはなんだが、私も全力でいかせてもらうぞ」
ウォルターはカトラスを構えたかと思うと、そのまま四人に向かって突っ込んでいったのである。それを全員が武装して迎え撃つ。
初めにウォルターのカトラスを迎え撃ったのは恭介の剣であった。恭介の剣がウォルターのカトラスを防ぎ、彼の最初の進撃を押し留めたのである。
ウォルターはカトラスに力を込めて恭介の剣を弾き出そうとしたのだが、その前に美憂がレイピアを真横から放ってウォルターの脇に強烈な一撃を喰らわせたのである。
ウォルターは耐えきれなくなったのか、ホテルの部屋をそのまま突っ切って、窓を破り、自ら外へと身を投げ出したのである。
四人もそれを追って慌ててウォルターの元へと向かう。
意外にも窓の外に投げ出されたウォルターに最初に迫ったのは志恩であった。
彼は槍を構えながらウォルターに問い掛けた。
「ねぇ、ウォルターさん!こんな戦いやめましょう!意味なんてないよ!」
「……悪いが、坊や。それはできん。私にはある使命があるのだッ!」
ウォルターはそう叫んで志恩の頭上に大きく剣を振り上げたのである。志恩は槍を盾にしてウォルターのカトラスを防ぎ、そのまま弾き飛ばしたかと思うと、彼の脇を目がけて槍を叩いていく。
槍の直撃は防がれたものの、その穂先は掠めてしまったらしい。ウォルターは兜の下で苦痛に顔を歪ませていた。
志恩は続いてもう一撃を喰らわせようと試みた。そうする事によって老人が大人しくなるのだと思い込んだのである。
だが、老人はおとなしくなるどころかここから発想を転換させて勝機を見出したらしい。武器を捨てて志恩の槍の穂先を掴んだのである。
「そ、そんな……」
「悪いが、坊や……私にも意地というものがある。それに残りの七割を叶えるためだッ!今更躊躇などしておられんッ!」
ウォルターは志恩の槍を取って放り捨てたかと思うと、そのまま志恩に向かって蹴りを喰らわせたのであった。
志恩は悲鳴を上げて地面の上を転がっていく。
「すまないな。坊主……これもゲームだ。生き残るためには仕方がないのだ」
ウォルターがカトラスをそのまま志恩に向かって突き刺そうとした時だ。
その前にレイピアがカトラスの前に割って入り、そのままカトラスを弾いたのである。
レイピアの主である美憂は相変わらず鞭の様にしなる剣先を突き付けてウォルターに向かって言った。
「志恩を虐めるなよ。ここから先はあたしがあんたの相手をするよ」
「いいだろう。掛かってくるがいい」
ウォルターは両手でカトラスを構えながら言った。
「ただし、条件が一つある。あんたの願いについてあたしは知りたい。それさえ教えてくれればいい」
「私の願いだと?」
「あぁ、地位も金も名誉も何もかも持っていたあんたの様な人間がどうしてこんなゲームに参加したのか気になったんだ。それだけ教えてもらってスッキリした状態であたしは戦いたいんだ」
「いいだろう。私の願いはある人を生き返らせる。それだけだ」
「実に単純で、それでいて納得ができる願いだ。教えていただき誠にありがとう。お陰で」
美憂はレイピアを構えて飛び上がると、その剣をウォルターに向かって放ちながら続きの言葉を叫んだのである。
「心置きなく戦えるよッ!」
「それは願ったり叶ったりだッ!」
ウォルターはそのまま飛び掛かってきた美憂を強烈な力を用いて弾いていくのであった。
「その報告に間違いはないのか?」
美憂の問い掛けに報告に訪れた男は黙って首を縦に動かす。
「じゃあ、テメェは婚約者が死んだっていうのにむざむざと逃げ出してきやがったのか!?」
秀明が男に向かって掴み掛かっていく。
「だ、だって仕方がないだろ?レミトン社製のハンディショットガンだぞッ!お、オレにどうしろというんだ!?」
「レミトン社だかハミントン社だかしらねぇが、自分の大切な人ならばその手で守るのが筋ってもんだろうがッ!」
秀明が拳を突き上げようとしたので、恭介と志恩が慌てて止めに入ったのである。
男は涙を流しながら謝罪の言葉を述べていく。
「だって……だって怖かったんだッ!い、いきなり友紀の体が吹き飛ばされて……」
男の言葉は嘘であった。牙塚がハンディショットガンを取り返した時彼が真っ先に狙ったのは男であったのだ。男はこのまま殺されるかと思っていたのだが、咄嗟に友紀が自分を庇ったのである。
目の前でバラバラになった死体を見て彼は泣き叫んだ。そしてそのまま逃げ帰ったのである。幸か不幸か彼はそのまま背後から銃撃を受けずに済んだのである。
だから彼は教祖への報告を終えた後にホテルに居座っている四人にその事を伝える事ができたのである。
だが、誰もがその男に対しては冷ややかな視線を向けていた。彼はかつて友紀を虐げたばかりか、それを助けようともしなかったからだ。
秀明に至っては汚物を見るかの様な目で男を見つめていた。
「それで、その牙塚って奴は今何をしてるんだ?」
「そ、それは……」
男が口籠るのと同時に扉が勢いよく砕かれた。五人が慌て視線を向けると、そこにはハンディショットガンを構えた牙塚の姿が見えた。
「教えてやろうか、ガキども。お前たちを始末するために動いていたのさ」
「な、なぜだ!?なぜオレたちを殺そうとする!?」
恭介の問い掛けに牙塚は淡々とした様子で答えた。
「オレたちを殺そうとするかだと?そんなの邪魔に決まってるからだろ」
「……真紀子を勝たせるためか?」
美憂の問い掛けに牙塚は口元を三日月の型に歪ませて答えた。
「その通り、ゲームを有利に進めるためには一人でもサタンの息子を消しておいた方がいいからね。心配するな、お前たちは教団が始末しておいたという事にしておくから」
「……どこまで腐ってんだ。この悪徳刑事が」
秀明が悔し紛れに吐き捨てたが、牙塚は激昂する事もなく、ただ黙ってその銃口を秀明に向けた。
「フッ、言葉には気をつけた方がいいぞ。そうでないとただでさえ少ない寿命を更に短く少なくする事になる」
「黙れ、この野郎」
「減らず口を……だが、まぁいい。今殺したいのはお前らではなく、こいつだからなッ!」
牙塚は銃口を秀明から床の上で怯えてしまっている男に向き替えた。
「お前を見てると怒りが湧いてくるんだ。何かはわからないが、腹の底から燃える様な怒りがな……」
「や、やめてくれ!」
男は懇願したが、牙塚は容赦しようとしない。そのまま容赦なくショットガンの引き金を引こうとした時だ。不意に彼の体が地面の上へと倒れてしまった。
慌てて四人が足を下げると、部屋の中に武装を纏わせたウォルターの姿が見えた。
ウォルターは男の背中に突き刺さっていたカトラスを引き抜くと、そのままその剣先を突き付けて言った。
「さぁ、サタンの息子たちよ。私と戦え……現れた警察官はみんなこの私が始末したが、政府というのは暴れ狂った象の様なもの……相手が倒れるまでその動きを止めようとはせんのだ。じきにその本体が我々の追求に全力を挙げてこよう」
「……だろうな。あんたと同じだ。政府というのは暴れ回る手負の像の様なものだ。一度危害を加えれば相手が絶命するまで暴れ続ける」
美憂の言葉にウォルターが同意した。
「その通りだ。だからその前にあたしたちとの決着を付けたいという事だな?」
「あぁ、その代わりといってはなんだが、私も全力でいかせてもらうぞ」
ウォルターはカトラスを構えたかと思うと、そのまま四人に向かって突っ込んでいったのである。それを全員が武装して迎え撃つ。
初めにウォルターのカトラスを迎え撃ったのは恭介の剣であった。恭介の剣がウォルターのカトラスを防ぎ、彼の最初の進撃を押し留めたのである。
ウォルターはカトラスに力を込めて恭介の剣を弾き出そうとしたのだが、その前に美憂がレイピアを真横から放ってウォルターの脇に強烈な一撃を喰らわせたのである。
ウォルターは耐えきれなくなったのか、ホテルの部屋をそのまま突っ切って、窓を破り、自ら外へと身を投げ出したのである。
四人もそれを追って慌ててウォルターの元へと向かう。
意外にも窓の外に投げ出されたウォルターに最初に迫ったのは志恩であった。
彼は槍を構えながらウォルターに問い掛けた。
「ねぇ、ウォルターさん!こんな戦いやめましょう!意味なんてないよ!」
「……悪いが、坊や。それはできん。私にはある使命があるのだッ!」
ウォルターはそう叫んで志恩の頭上に大きく剣を振り上げたのである。志恩は槍を盾にしてウォルターのカトラスを防ぎ、そのまま弾き飛ばしたかと思うと、彼の脇を目がけて槍を叩いていく。
槍の直撃は防がれたものの、その穂先は掠めてしまったらしい。ウォルターは兜の下で苦痛に顔を歪ませていた。
志恩は続いてもう一撃を喰らわせようと試みた。そうする事によって老人が大人しくなるのだと思い込んだのである。
だが、老人はおとなしくなるどころかここから発想を転換させて勝機を見出したらしい。武器を捨てて志恩の槍の穂先を掴んだのである。
「そ、そんな……」
「悪いが、坊や……私にも意地というものがある。それに残りの七割を叶えるためだッ!今更躊躇などしておられんッ!」
ウォルターは志恩の槍を取って放り捨てたかと思うと、そのまま志恩に向かって蹴りを喰らわせたのであった。
志恩は悲鳴を上げて地面の上を転がっていく。
「すまないな。坊主……これもゲームだ。生き残るためには仕方がないのだ」
ウォルターがカトラスをそのまま志恩に向かって突き刺そうとした時だ。
その前にレイピアがカトラスの前に割って入り、そのままカトラスを弾いたのである。
レイピアの主である美憂は相変わらず鞭の様にしなる剣先を突き付けてウォルターに向かって言った。
「志恩を虐めるなよ。ここから先はあたしがあんたの相手をするよ」
「いいだろう。掛かってくるがいい」
ウォルターは両手でカトラスを構えながら言った。
「ただし、条件が一つある。あんたの願いについてあたしは知りたい。それさえ教えてくれればいい」
「私の願いだと?」
「あぁ、地位も金も名誉も何もかも持っていたあんたの様な人間がどうしてこんなゲームに参加したのか気になったんだ。それだけ教えてもらってスッキリした状態であたしは戦いたいんだ」
「いいだろう。私の願いはある人を生き返らせる。それだけだ」
「実に単純で、それでいて納得ができる願いだ。教えていただき誠にありがとう。お陰で」
美憂はレイピアを構えて飛び上がると、その剣をウォルターに向かって放ちながら続きの言葉を叫んだのである。
「心置きなく戦えるよッ!」
「それは願ったり叶ったりだッ!」
ウォルターはそのまま飛び掛かってきた美憂を強烈な力を用いて弾いていくのであった。
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