THE Lucifer GAME〜下心のために契約を結んでしまった俺は死なないために頭を使ってデスゲームを生き残ります!〜

アンジェロ岩井

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第二部『箱舟』

貝塚友紀の場合ーその⑤

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謎の男と三叉の槍と打ち合って既に何合に至るだろうか。友紀は夢中になって振るっていた剣を離し、その場からの退却を試みた。三叉の槍を持った羽毛の鎧の男は友紀を呼び止めていたが、こうなってしまっては戦いどころではない。
サタンの息子は招集がかけられればどこにいようとも戦わなくてはならない義務がある。にも関わらず、最上姉弟の姿だけが見えない。
どこに行ったのだろう。友紀が心配になっていた時だ。既に武装を解いた美憂が追いかけてきて言った。

「あんた、今日の戦いには身が入らなかったみたいだが、どうしたんだ?あんたらしくもないな」

「……心配になったんだ。行方不明になった志恩がな……」

「確かに、志恩の姿が見えないのは不思議だ。あの女がずっと監禁してるという事も考えられるが、それならばあの女がゲームに姿を見せないのはおかしい」

「キミの言うとおりだ。真紀子がゲームに参加しないのは理屈が通らない」

「お二人さんの言うとおりだ」

背後から秀明が追いかけてきて言った。

「だが、心配するな。あの女と共に志恩がどこへ行ったのかなんだがな、大方の推測はつくぞ……」

「本当か?」

「あぁ、これはあくまでも推測に過ぎないが、オレは最近オレたちをつけ狙っている教団の奴らが二人を監禁したんだと思う」

秀明の推測は真紀子は昨日のゲームの際に志恩を攫ったものの、それはあくまでも一晩のみの誘拐であり、朝か、遅くとも翌日には解放するつもりであったというものである。
だが、そこでもっと凶悪な誘拐犯すなわち教団によって拉致されて二人の消息が不明になったのだという。

「……二人は教団の支部にいるという事かな?」

友紀の問い掛けに対し秀明は「恐らく」と前置きしつつも肯定したのであった。

「ならば、奪還に向かうぞ……あんな女なんぞどうでもいいが……志恩だけは別だ」

その言葉に二人が同意する。躊躇う事なく首を縦に動く。

「……今から準備して教団の支部に向かうというのはどうだ?善は急げというだろう?」

友紀の言葉を聞いて両者が共に首を縦に動かす。

「……明日は元々完全オフの日だからオレはOKだ」

「……学校とバイト先には連絡を入れておく。仕事や家族も大切だが、かと言って志恩を見過ごす事もできないからな」

「……ありがとう」

友紀の計画に一堂が同意し、その後は各自宅に帰ってからの行動となった。
待ち合わせの際秀明はブルゾンのジャケットにジーンズにシャツ。美憂は青色のスカートに白色のブラウスというシンプルな格好であったが、友紀だけはなぜか仕事の時に使う赤いジャケットに白色のシャツに茶色のスラックスというスタイルであった。

「この服の方がやる気が出るんだ」

友紀は自らのジャケットを触りながら得意そうな顔を浮かべて言った。
そして、それから順番に秀明が用意した車の中へと乗り込む。
車という手段をとったのは今回のゲームが終了する時間が深夜に近い時間であったからだ。
なので、自然と移動手段が車に限られてしまうのだ。二人が車に揺られて数時間。着いた先は山々に囲まれた県境の場所であった。
そこに存在する箱舟会の支部は一つの宗教団体の支部というよりはどこかの小さな村といった方が適切であった。
というのも、支部には一つの町が再現されていたからである。
その町の中にあるものは家といいガソリンスタンドといった施設といい、全て古い映画などで目にする古き良きものであった。
教団の異質な特性はインターネットを通じて予習をしていた筈であるのだが、それでも自分たちがタイムスリップしてしまったかの様な妙な感覚に陥ってしまうのだ。

「ケッ、いつまで古き良き時代ってのを引き摺ってるんだよ。時代は21世紀だぜ」

全員の中でも常に前を向いて生きている秀明からすれば古き良き時代に縋り付く感覚が全く理解できなかったのである。
「まぁ、そういうなよ。そういうのが好きな人だっているんだ」

美憂は自分が時代劇という古いものが好きである事から古き良き時代に縋り付く気持ちも理解できた。
だが、それを差し引いたとしてもこの教団施設の中は異常であった。誰もがヴィンテージのスーツやワンピースを着用していたし、子供ですらヴィンテージの子供服を身に付けているではないか。更に恐ろしいのはカレンダーにまで1950年代の日付を記載している事だろう。
幾ら古い時代が懐かしいと言っても、ここまで再現する事はないだろう。
秀明が嫌悪感に眉を顰めていると、目の前から中年の小太り体型の老人が汗をかきながら現れた。他の男性と比べても上等のスーツを着用していたので、恐らくこの男が支部長だと思われた。

「ウェルカム!ようこそ!私がこの町の町長のジョージ・ウィルソンと申します!お会いできて光栄です」

男はジョージなどという西洋風の名前を呼称していたが、見た目も動作も日本人であり、本来は別の名前があるのだろう。
秀明が事前に調べた情報が正しければ、これは教祖が幹部に地位や権限と共に与える称号の様なものであった。
なので、欧米風の名前が与えられるというのは一種のステータスであるとされたのだ。

「それで、そちらの皆様は何の御用我が町に?観光ですかな?」

「えぇ、そんなところです」

三人を代表して秀明が代わりに答えた。

「そうですか!それは光栄です!どうぞ古き良き時代を楽しんでくださいね!」

ジョージが握手の手を差し伸べる。秀明は差し出されたその手をゆっくりと握り返し、二人で固い握手を交わしていく。
その後は町長自らによる案内が行われ、二人は大阪と奈良の県境に再現された古き良き町を堪能する事になった。
特に何も起こらずに町長が三人をホテルへと案内した時だ。
突然町長の元に現れたかと思うと、密かに耳打ちした。

「なんだと!?バカもんがッ!どうしてもっと厳重に閉じ込めておかなかったッ!」

「申し訳ありません!縄抜けの術を使ったのだと思われ……私としても完全に予想外でした……」

「言い訳はいいッ!もしこの事がコクスンに知られれば、私たちはお仕舞いだぞ!」

「どうかしましたか?」

秀明がニヤつく気持ちを抑えて、町長に尋ねると、町長は明らかな作り笑顔を浮かべながら答えた。

「な、何もありませんぞ……落ち着いてくだされ……」

「いえいえ、こんなに素晴らしい体験をさせてもらった身ですので、我々としても何かお手伝いしたいなと思いまして……」

「なんの、礼には及びません。食糧庫が荒らされたという小さなニュースですよ。大方子供がやったんでしょう。悪戯なんです。コクスンは子供に甘いので、各支部でもこういった事を許す事が多々ありましてーー」

その時だ。勢いよく扉が開き町長の言葉は遮られてしまう。全員が扉が開いた方向を見つめると、そこにはソーセージを咥えた最上真紀子が立っていた。
真紀子はゲームの時と同様に両手に丸い弾倉の付いた機関銃を構えていた。

「ったく、いい加減にしやがれ……何が子供の仕業だ、このボケナスどもが」

「も、最上真紀子……」

町長が言葉を失う。

「どうした?町長さんよぉ、言葉がでねーみたいだな。そうだろう。クソッタレ……」

「ま、待て!あれをやったのはアルベルトだ。私じゃあない!」

「黙れ、よくもあたしを一日中軟禁してくれやがったな。それだけじゃあねぇや、その煮え切らない態度……本当にイライラさせやがるぜ」

真紀子がその引き金を引こうとした時だ。その前に秀明が飛び掛かり、町長に銃口が浴びせられるのを防いだのである。

「テメェ、いい加減にしやがれッ!」

「……邪魔をするなよッ!バカ兄貴がッ!」

真紀子は苛立ち紛れに自分の攻撃を防いだ異母兄を容赦なく蹴り飛ばした。







 





先程、友人より貝塚友紀の挿絵をいただきました。ありがとうございます。


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