THE Lucifer GAME〜下心のために契約を結んでしまった俺は死なないために頭を使ってデスゲームを生き残ります!〜

アンジェロ岩井

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第一部『悪魔と人』

姫川美憂の場合ーその②

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美憂がヒュドラの契約してからかなりの時間が経っていた。
暫くは戦いなど起きなかったのだが、最近になってやたら戦いが増えたのはどういう事なのだろうか。
戦いと仕事の両方で疲れ果てた美憂は正直に言えばそのまま眠りこけたかったのだが、休めば学校の授業に遅れるという事を考慮し、眠い目を擦りながらベッドの上から起き上がっていく。
二階の自分の部屋を降り、家族の食卓の上で食事を摂っていく。
食パンに目玉焼きにハム。グリーンサラダにコーヒーという定番のメニューを食べていると、朝のニュースで気になる報道が飛び込む。

『えー、たった今ですね、警視庁は桂川商事の元事務員雛瀬梨奈ひなせりな容疑者を全国指名手配とし、その行方を追っています。雛瀬容疑者は女性一人の他に昨年の十月にも男性一人を殺害している事が警視庁の調べにより明らかになっており、警察は各家庭に警戒する様に呼び掛けています』

雛瀬梨奈。間違いない。昨晩美憂が対峙したのはこの女である。
逃亡の最中に彼女は“サタンの息子”として契約したのだろう。
だがその正体はわからない。メイスを操るという点がわかったからなんだというのか。

したがって彼女がどんな悪魔と契約しているのかを考えるには何か別の方法で考えなくてはいけなくてはならないだろう。
美憂は懸命に頭を絞って考えてみたが、それでも答えというのは導き出せなかった。
学校というのは退屈なところである。だが、同時に見ていて面白いものもある。
美憂は常々そう思っていた。

その中でも一番面白いのは学園内での勢力図が一変する事である。
かくいうこの学校でも世間一般で呼称されるいじめの類が見られるようになった事である。
彼女の机の上には汚らしい言葉が落書きとして書き散らされている他に机の中央には丁寧に花瓶に中に入った花が置かれていた。
どうやらクラスの女子の共通の敵が春から夏という僅かな移行の期間で、『最上真紀子』から『姫川美憂』へと変わったのが要因であったらしい。

その理由は美憂の深夜のアルバイトにあった。何処から情報が漏れたのか美憂が彼女の倍以上年が離れた男性とホテル街を歩いたところを目撃されたのが事の発端であった。
翌日にクラスに行くと女子全員から汚らしいものでも見るかのような視線で一斉に見られた事を思い出す。
その日以来美憂は村八分の状態にある。机は無論、ロッカーやげた箱も荒らされ、持ち物や弁当は例外なくゴミ箱行きとなった。
トイレに行けば、真上から水をかけられるし、着替えを隠され体操服やら制服やらをズタズタに引き裂かれたりした事もある。

金を奪われる事もしばしば。どうやら真紀子という敵を見失って瓦解しそうな女子グループの団結を高めるための生贄にされてしまったらしい。美憂は自分の運のなさを悔いたのだった。
彼女が収監される前は教室の中で時代小説をよく読んでいたのだが、今はそんなものを読む状況にない事はわかる。
女子からの陰湿ないじめもそうだが、彼女の一日のスケジュールが多忙であったのも大きかった。昼間の学業ばかりではなく、夕方と夜には正規のアルバイトが待っているし、深夜には深い理由のあるアルバイトがある。帰れば寝る僅かな時間の前に予習と復習がある。それに加えて時折悪魔たちが主催する殺し合いのゲームがあるのだ。とてもないだが読書などする暇などない。

ヒュドラ曰く悪魔同士の殺し合いのゲームに乗っかっているのは十三人という事になるらしい。
つまり美憂が契約した2011年の四月の時点では誰も脱落していない事となる。
もっとも自身の知らないところで他の参加者たちが殺し合っているという例があるとするのならば、もう少しその数は減っているかもしれない。
美憂がゲームの事を考えているとあっという間に時間が過ぎてしまう。
『光陰矢のごとし』という諺がピッタリと用いられる。

夢想を終えた美憂が無事な荷物を自身の学生鞄へと突っ込み、帰ろうとした時だ。背後から突然、声をかけられた。
声を掛けたのはクラスの中心人物である長い茶髪に着崩した制服を着用した柄の悪そうな少女である。

「姫川、あんたこのまま帰るつもりなの?」

彼女は腕を組みながら私を見下ろすような尊大な口調で問い掛ける。

「そうだが、なにか問題でもあるのか?」

美憂は心底鬱陶しいと言わんばかりの表情と態度を露わにしながら答えた。

「おいおい、ふざけんなよ。あんたには掃除があるだろ?」

「……今日の掃除当番はあたしじゃあないだろ?表が正しければあんたの筈だ」

「はっ?あんたみたいな女があたしたちのために役に立てる事といえば掃除くらいだろ?」

「……何か勘違いしているみたいだから言っておくぞ。別にあたしがどんな仕事をしていようが、あんたには関係がない筈だろ?それにあんたは『職業に貴賤はなし』という言葉を知らないのか?ふっ、まぁあんたの事だから知らんだろうな」

美憂が小馬鹿にしたように笑うと向こうの印象が更に悪化したらしい。
眉間に皺を寄せながら美憂の元へと詰め寄ってきた。

「いいから、さっさとやれ!」

彼女は手に持っていた箒を乱暴に差し出しながら言った。

「……人がどんなアルバイトをしようが勝手だろ?それに託けて自分の掃除はサボろうとなんてムシがいいと思うんだがな、あんたはどうだ?」

「んだとッ!」

ギャルが激昂し、美憂の元へと迫っていく。そして、そのまま美憂の胸ぐらを掴み上げる。

「テメェ!ざけんなよ!」

そのまま殴ろうとしたのだが、美憂は頭を動かして、彼女の拳を回避し、そのまま彼女の拳を自身の手で受け止めると、そのまま力を入れていく。
同時に、彼女の顔が苦痛に苛まれていくではないか。
ギャルは悲鳴を上げていく。美憂はそのまま手を離し、彼女を解放してやる。

何か言おうとするギャルやその取り巻きを放置し、美憂は夕方に入っている正規のバイトへと向かう。
夜とは別の意味で体を使う辛い時間だが、家族のためなら頑張れる。
夕方と夜のバイトを済ませば、私は家に帰り、その日の復習を済ませて一日を終えられるのだ。父が動けなくなり会社が倒産してから体に何度鞭を振っただろうか。
美憂がこれまで学習塾に頼る事なくそれなりの成績を維持できたのは夜の復習のお陰である。
最近になり発明された文明の利器。小型の電子辞書を用いて、調べ物ができるようになった事も大きい。
この日も平穏無事に一日を終えられる筈だった。あの独特の金属と金属とがぶつかる不協和音が聞こえさえしなければ……。

美憂がヒュドラの力を借り、ゲームの会場へと参加すると、そこには昨晩戦った能面のように正気のない兜と不気味な鎧を纏った『サタンの息子』と兜に灰色のスカート状の軍服という格好をした『サタンの息子』が激闘を繰り広げていた。

「くそッ!これで一人減ったかと思ったのにッ!」

能面のような兜を纏った方が乱暴な口調を使いながら手元のメイスをもう片方へと振り回していく。
余裕なく突っ込む能面の兜をした『サタンの息子』とは異なり、もう片方の軍服の方は余裕を見せながらメイスを交わしていく。

「ハハッ!鬼さんこーちら!」

「ちくしょう!ちょこまかとッ!」

そう叫んで能面の鎧の方が一度止まったかと思うと今度は両手にメイスを持ちながら軍服の方へと攻撃を繰り出す。
だが軍服は今度も飄々とした形で回避するだけである。むしろ、余裕のなさそうな能面の兜をした方をおちょくって遊んでいるようにも見えた。

「く、くそッ!」

「おっと、足元がお留守だぜ」

そう言うと彼女は手に持っていた輪胴の太い旧式の自動拳銃の引き金を引き、足元に向かって攻撃を繰り出していく。
能面の兜をした方は攻撃を繰り出されるたびに悲鳴を上げていた。
だが、彼女も負けてはいない。メイスを至近距離で投げ飛ばす事により、彼女の意表を突く事に成功したのである。

激昂した彼女はそれまでの態度を改めて今度は真剣勝負で挑むつもりらしい。
両手に丸い弾倉の付いた自動機関銃を構えながら言った。

「……よくもあたしを追い詰めてくれやがったな。こいつでテメェの脳天をぶち抜いてやるよ」

「それはこっちのセリフだッ!」

能面の兜を被った方はといえば大量のメイスを作り出し、それをお手玉のように頭上へと放り投げていくではないか。
そして、それを軍服の方へとぶん投げていく。
メイスが地面へと直撃するたびにアスファルトにヒビが入っていくのが見えた。
どうやら、彼女の使うメイスにはそれ相応の力が込められているらしい。
メイスが投げられ、それに応えるかのように機関銃の引き金が引かれていく。

しばらくの間、挟み込む余地のない激闘が繰り広げられていたが勝利の女神が微笑んだのは軍服を着た方の『サタンの息子』であったらしい。
両手に握っていた丸い弾倉の付いた機関銃の銃尻で彼女の兜を粉々に砕いていく。
それと同時に彼女の武装そのものが解錠されてしまいその姿が露わになる。
間違いないその姿は昨晩戦った女の正体そのものであるのと同時に今朝のニュースで指名手配が確認されていたOL雛瀬梨奈である。
彼女は大きな衝撃を受けたのか地面の上をカエルのように転がっていく。

「ハァハァ、バカな……あたしは絶対に生き延びて……」

雛瀬は地面の上で腹を抑えながら弱々しい声で言った。

「これで一人脱落ってところか?ハハッ、初陣にしちゃあ中々の成果じゃあねぇか」

「ざけんなよ!クソガキがッ!」

雛瀬は怒りという名の麻薬により、この時だけ激痛を忘れさせたのだろう。落ちていたメイスを拾い上げると、そのまま軍服を着た『サタンの息子』へとそれを振り上げていく。
だが、彼女の必死の抵抗も虚しく彼女が構えていた機関銃によって体のあちこちを撃ち抜かれて死亡してしまう。
銃声が鳴り止んだ時、雛瀬梨奈の息は既になかった。

既に勝敗は決した。雛瀬梨奈は脱落し、物言わぬ死体となったのだ。
既に参加者を葬り去った彼女が引き続きこの場に居合わせたもう一人の参加者に狙いを定めるのは勉強や仕事などで行き詰まった時に苛立ちを感じて地面の上をやたらにドタドタと踏み鳴らすの同じくらいに当然と言えただろう。
彼女はその銃口を私に向けながら問い掛けた。

「……テメェは確か、昨日の晩にこの雛瀬と戦って奴だよな?テメェは一体何者だ?」

「そうだ。そういうあんたこそ何者だ?少し前までは見かけなかったが」

「質問に答えろよ。あたしはテメェが何者かって聞いてんだよ」

ここで答える事は容易い。だが人をいきなり襲撃するような無礼な人間に誰が名前を教えてやるものか。
私は返答の代わりに沈黙で返した。すると、彼女は威圧の目的もあり頭上に向かって無作為に銃弾をぶち撒けていく。
かと思えば今度は美憂の足元を撃ち抜いていくのだった。

「こいつでも動じねぇとはな」

兜を被っているので表情は見えないが声色から彼女が少しばかりたじろいでいるのが感じられた。

「……そんな子供騙しに引っ掛かるとでも?」

「ハッ、違いねぇや」

軍服の女は私の皮肉を一笑に付した。
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