子連れの元悪役令嬢ですが、自分を捨てた王太子への復讐のために魔獣討伐師を目指します!

アンジェロ岩井

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ヒロインと悪役令嬢の筈だったが……

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「まさか、いきなり、光の魔法を放つとは……本当にお前はおれを守るためなら、なんでもしてくれるんだな」

ルシアは地面の上に倒れようとしていたアイリーンの背中を抱き抱えながら言った。
彼女の背中と地面とはルシアの働きにより密着してはいない。光に視界を奪われて意識を失ってしまったのだが、不幸中の幸いというべきか、シャルロッテはエリスの両腕の中に抱かれて眠っている。
その様子を見てルシアは感心した。
というのも、自分とは無関係の子供であり、自分が今両手で抱えている女がどこかの知らない男と付き合ってできたとされる子供というのにエリスはまるでその子供を実の子供のように抱いていたからだ。

古の絵画に記された聖母というのはあのような姿を指して言うのかもしれない。
ルシアはそう思い感心するのと同時に今自分が抱き抱えている男装の女性が途方もない悪女に思えて仕方がなかった。
彼女が悪女であるというのは先程のあの行動が証明している。

大体、各地で魔物の被害に苦しむ人たちから金貨五百枚という膨大な金額をむしり取っているのも気に食わない。
ルシアはそんな彼女の処分をエリスに尋ねたのだが、エリスはいつもの聖女のような笑みを浮かべながら言った。

「ここはシャルロッテはこちらでお預かりして、その女は地下の牢獄に閉じ込めるというのはどうでしょう?処分が決まり次第、本人に伝えるというのは」

「なんという寛大さ……それはいいッ!妙案だ!流石はエリス!我が聖女だ!」

ルシアはアイリーンを地面の上に寝かせると、そのままエリスの頬に優しい口付けを与える。
その後に指を鳴らし、扉の外に控えていた兵士たちを呼び出すと、そのまま彼らに倒れている男装の剣士を運ばせていく。
エリスは意識を失って眠っているアイリーンを見て密かに笑いを溢す。
勿論、それは途方もない優越感から出た笑みであった。

エリスは自分とアイリーンの魔法とを比較すると自分の方が有利になっている様に思えて仕方がない。
というのも、自身の光魔法は発動時に対象の相手を絞りその視界と意識を自在に奪う事ができるからだ。
自分の定めた相手以外には自分の光は効果がない。
ヒロインための魔法としてはこれ以上に相応しい魔法はないだろう。今は兵士たちの手で地下牢に運ばれている女の魔物を狩るためだけのような光魔法とは対照的だ。

同じ光魔法でもここまで異なるのは面白かった。
せいぜい、今はその力を有効に利用させてもらおう。この時、エリスの頭の中でその考えとアイリーンの魔法を有効利用する方法として結び付いたのは前世の歴史の授業で習った古代の大帝国の殺し合いの試合の事だった。
彼女の光魔法と他の強力な魔物とが結び付いたらどうなるのだろう。
想像した瞬間にエリスは玉座の間の中で笑みをこぼしていく。


「面白い見せ物になりそう。フフフフ」











アイリーンは独房の寝台の上で両手両足を鎖で繋がれた状態で目を覚ます。服を兵士たちに勝手に替えられていなかった事だけはよしとするべき事だろうか。
ただし、その代償か懐の中に潜ませていた『竜の息吹』が入った瓶だけは消失している。

(やはり、捕まったか……それよりも気になるのはシャルロッテの行方……)

アイリーンは引き離された我が子の身を案じたのだが、この状況ではなにもできまい。
アイリーンが下唇を噛み締めていると、不意に独房の扉の前が騒いでいる事に気が付く。
一体なにがあったのだろうか。だが、その騒動の意思が判明した時、そう呑気に構えていた自身を殴りたかった。

というのも、エリス・フローレンスが寝台の上で縄で縛られている自分を嘲笑いに来ていたのだから。

「気分はどう?悪女さん?」

「……最悪に決まっております。それよりも、私を嘲笑いにきたのでございますか?聖女様も中々に性格がお悪いようで」

「フフフ、稀代の悪女ほどじゃあないけどね」

二人の皮肉は中々に効いていた。お互いにその怒りが募ったのだろう。
エリスの眉間には微かに皺が寄っていたし、アイリーンですら僅かに片眉が上がっていた。
暫くの間、互いが互いに睨み続けていたのだが、やがて、埒が明かないと判断したが、エリスの方が先に用件を切り出していく。

「あんたは知ってたか、知らないけれど、この城の地下には少し前の国王の趣味でね、色々と凶悪な怪物が飼われているんだよ。あんた、ここに来る前までは魔獣狩人だっけ?それとも魔物狩人だっけ、はたまた魔獣討伐師だっけ?まぁ、そんな事は知らないけど、魔物と戦ってたんだろ?なら、その様を王都のみんなに見せてみろよ」

「断ったのなら私や娘をどうなされるおつもりか?」

「そうだねぇ、あんたの娘を嬲り殺しにして、その死体を他の人たちの前で晒してやろうかなぁ~」

「……聖女様とは思えぬ行動ですね。いくら、稀代の悪女の子供だからと言って、左様な真似をなされば、あなた様の評判こそただ下がりになるのは目に見えてお分かりかとお思いですが……」

「確かにね。悪女を殺すのはともかく、その子供まで殺すのはやりすぎか……でも、事故に見せかけて殺すくらいはできるかもね」

「……成る程、手前は古来よりの手法を取られるおつもりでございましたか……それで私の方はどうなされるおつもりで?」

「あんたがその古めかしくて気持ちの悪い言葉が二度と言えなくなる程に口を縫い付けてから、この世に生まれてきたのを後悔するくらいに酷い目に遭わせてやるよ」

「……別に悪い口調だとは思いませぬが、それよりも危惧なさるのはそちらの方でございましょう?」

「あたしが?なにを?」

「……報復にありましょう。今でこそ私は獣の様に牢に繋がれて、囚われておる身なれども、いずれはここを抜け出し、あなたに私が受けた屈辱よりも更に酷い侮辱を受けさせてやろうと思いましてね!」

「ッ、こいつ……ッ!」

この一言で彼女の中の堪忍袋の尾が切れたらしい。
それまで溜め込んでいたモノを彼女にぶち撒けていく。

「いい加減にしろよ!テメェ!ゲームには存在しないバグのくせにッ!バグの悪女のくせにッ!ヒロイン主人公の邪魔をするんじゃねぇよ!」

「げー?ば?仰っておられる事の一部が理解できませぬが、あなた様が何かに囚われている事だけは理解できました」

「黙れよッ!大体、あんたなんか、元はあたしより地位と腕力以外で勝っていなかったくせにッ!あたしはあんたなんかよりずっと賢いし、あんたなんかより可愛いし、あんたなんかよりずっと可愛い!わかった?ルシアの隣はあたしの方が似つかわしいんだよッ!」

「……それが、私を追い出した理由か?たかだか、お手前のくだらぬ優越感のために、私の家族や一族は酷い目にあわねばならなかったのか?シャルロッテが私と共に修羅の道を歩まねばならなかったのかッ!」

「うるさーー」

「返せッ!私の家族を返せッ!娘の人生をーー」

アイリーンの台詞は強制的に寝かされている寝台を強く蹴られた事によって強制的に遮られてしまう。
エリスは先程の台詞に怒りが増幅されたらしい。
寝台にて、小さな悲鳴を上げるアイリーンの胸ぐらを掴んでその顔を近付けて迫っていく。

「うるせぇよ。あんたがなんて言おうとも、あたしはルシアも今の暮らしも手離すつもりはねぇからな!」

「……よーく、理解致しました。あなた様の性格が根から腐っているという事が……必ずやその唾棄すべき邪悪な精神を叩きのめし、私と同じ目か、それ以上の報復を味合わせる事をここに宣言しようッ!……その事をゆめゆめお忘れなきように」

アイリーンが最後に宣戦布告の宣言を吐き捨てると、それが合図とばかりに二人は再度、視線を合わせて睨み合う。
宿命の子と評するにはあまりにも二人の姿や応酬はかけ離れていた。
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