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納得がいかぬ連中がどうなるか

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「何ィ!?公爵家の奴らがシャーリーを渡す事を了承するだと!?」

「あぁ間違いありやせんぜ。ちゃーんとあっしが公爵家に行ってこの両目と耳で確かめたんですからね。今から二日後の深夜にシャーリーを旦那の花嫁としてお渡しするという事でした」

その言葉を聞いて、半人半獣の盗賊団の首領を務める人間の上半身と牛の下半身を持つ怪物、ミノスは心が躍った。
途方もない嬉しさが彼の心の中を包んでいく。話でしか聞けなかったシャーリーと会えるのだ。これが喜ばずにいられようか。
しかもただ会えるというのではない。自らの嫁にする事が約束されており、会う時には花嫁衣装を身に付けて現れるのだ。

「ハハッ、やったぞ!楽しみだ。おい、お前、その日の晩はシャーリーとオレの結婚式だぞ、準備をぬかるなよ」

「へへっ」

親分の元に報告に訪れていた頭と上半身
とが鹿である部下は恭しく頭を下げて、その場から嬉しそうに去るのだった。
盗賊団の本拠地である山の上の廃屋敷の一室。恐らく、昔は書斎であったと思われる部屋の中にあった所々の色が剥げた黒塗りの机の上を彼は人差し指でコツコツと叩いていく。
ミノスがシャーリーと自分との結婚式の様子を頭の中で作り上げて、心地の良い箱庭の中で幸福に浸っていた時だ。

不意に扉を叩く音が聞こえた。この音によって文字心地の良い箱庭から叩き出されたものの、あの報告のために上機嫌であったので穏やかな声で入室を許可した。
扉を開けてそこに立っていたのは自分の部下ではなく、少し前に自分たちと同盟を組んだオークの軍団のリーダーと副リーダーであるライアンとミカエルの姿。
ミノスは二人を自身の座る机の近くにまで招くと上機嫌で自分の計画を話していく。

「それで、結婚の暁にはあんた方にもスピーチをお願いしたいんだ!なぁ、いいだろう?」

ミノスの予想外の懇願を聞いて二人は思わずに顔を見合わせた。
その理由はここ最近の公爵家の動きにある。あまりにも不自然であり怪しすぎるというのにミノスやその部下は疑いを持たないのだろうか。
そんな思いが二人の中を支配していた。
二人は今すぐに口に出したかった。ストレイジ公爵家の中にシャーリーという姫がいるのにも関わらず、時折街に姿を見せる最年少の四男は別として妹が得体の知れない怪物の花嫁に行くというに兄弟の誰もが悲観した表情や何処か曇った表情を見せる事がないという事実に。

またこうも主張したかった。もうすぐ幼い妹が得体の知れない怪物に連れ去られるというのにあまりにも普段と同じような態度を取り、堂々と街の中を歩いているのはどういう事か、と。
だがそれを言う事はできなかった。浮かれ上がったミノスには全くと言っていいほどに届かないだろうし、何より浮かれ上がった彼に言えば何をされるかわかったものではない。

だがアイリーン・カンタベルト抹殺のためには少しでも罠の可能性を消しておきたい。
そのため勇気を出して二人の胸中を訴えたのだがミノスは聞く耳を持たない。
それどころか二人を心配症だと笑い飛ばす始末である。

「まぁまぁ公爵家のバカ息子どもは悲しげな表情を自分たちの領民の前では見せたくないだけであろう!お主たちがそのような心配をする必要はあるまい」

ガハガハという大きくて下品な笑い声が二人の神経を逆撫でさせた。
本来であるのならば、二人はもっと強くミノスを警告して然るべきであろう。
だが、この不愉快さを前にそんな思いも遥か彼方へと消え去っていく。

二人は小さく溜息を吐いた後で部屋を後にした。
一方でミノスはといえばこの申し出を気に留める事もせず、またなぜ二人が出ていったのかという理由さえ考える事なく廃屋敷のカバーが破れて中からクッションがはみ出していた背もたれの付いた肘掛け椅子に深く腰を掛けて満足そうに一人で笑う。











アイリーンはその日の修行を終え、部屋に戻って休む事を許された。
いよいよ決行の日は翌日の夜。ここまでの動作は完璧であったといえるだろう。
敢えて決行の日までシャルロッテと顔を合わせないというのはリアムの計画であった。

リアムによればシャルロッテと毎日、顔を合わせていれば、シャルロッテが本番でも甘えかねないという事であるらしい。
そうなると疑問が生まれる。毎日、顔を合わせて演技した方が良いのではないのかというもっともなものだ。
だがこれにはリアムのもっともらしい反証が飛ぶ。

「敢えてお二人が離れておられる事によって、シャルロッテも本番の際に甘えたりはしないでしょう。この事により万が一の時に疑われる可能性を少しでも減らせますよ」

何処か強引な主張のような気がしてならないが、少なくとも少し離れたくらいで一蓮托生、共に修羅の道を歩む母娘の関係が薄れる事はないから大丈夫だろう。
それにアイリーンの中で一つだけ思う節もありリアムのこの提案を受け入れたのであった。
それは一度シャルロッテが自分の元から離れて暮らすというものだ。

魔獣討伐師を継ぐ者は寂しさも一度は体験した方がいい。
自分は幼い時分に父からそう習ったのだが、どうもシャルロッテの愛おしい姿を見ていると自分が父から受けた教育が実践に移せなかったのだ。
もっともリアムの提案は自分が父から受けたものとは随分と形が異なる上に本当に正しいのかは疑問に思うものであるが……。

アイリーンが用意された部屋は狭いものの、一応は客室という扱いになっている。
さらにはリアムの好意のため客室の小さな机の上には赤いワインとワイングラスが置いてある。
なぜか今日は酒に酔いたい。酔って現実を忘れたい。
そんな気分であったのだ。

酒に溺れようと考えるのはあの選択が正しいのかと自問したためだろうか。
彼女の手がワイングラスへと伸びた時だ。扉を叩く音が聞こえた。
日頃の習慣からか念のために剣を持ち、飛びから少しばかり距離を取った後に入室を許可する。
部屋に現れたのはどうやら若いメイド。
アイリーンは剣を仕舞うのと同時に、溜息を吐いて要件を尋ねる。

「こんな時間に何用でしょうか?」

「その、申し上げにくいのですが……リアム様がお呼びでして」

「リアム様が?」

「ええ、あなた様にお話があるとかで……」

何処か不穏な予感がする。だが、一応とはいえ公爵の息子が呼び出しているのだから、行かねばならないだろう。
アイリーンは支度をすると称し、メイドを下がらせて侍女としての衣装から、いつもの男装へと服を変えていく。
そして、敢えて服の中に剣を隠し持って、その呼び出し手に応じる。

呼び出しに現れた若いメイドの顔がどこか優れない事も関係しているのだろうか。
訝しげな顔のまま先導されてついて行くと、そこは物置小屋であった。

「……これはどういう事か?いかなる理由があって私をこんなところに連れてきたのか?」

「それは、その……」

メイドが口籠った時である。急にリアムの兄二人が背後より現れて、アイリーンに剣先を突き付ける。

「こういう事だ」

「我々はお主が気に食わぬ。娘と共に早急にこの屋敷から去ってもらおうか」

「できませんと言ったら、どうなるのか?」

「悪いが、少しだけ痛い目に遭ってもらうぞ」

二人の兄は指を鳴らし、背後から恐ろしい植物を召喚する。
それは土の上から丸い球体が生えているというものであったが、恐ろしいのはその球体が植物であるのに、肉食獣のような鋭い牙を覗かせている事だろう。

「これが我ら二人の眷属である『ブラッドサッカー』よ。フフ、こいつの特性は噛んだ相手を吸血し、その血液を奪い取る事にあるからな。手加減せよと命令するつもりだが、我らの命令を拒み続ければどうなるかな……」

アイリーンは奥歯を噛み締めつつも、剣を握り締める。
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