子連れの元悪役令嬢ですが、自分を捨てた王太子への復讐のために魔獣討伐師を目指します!

アンジェロ岩井

文字の大きさ
上 下
17 / 80

エリス・フローレンスの野望

しおりを挟む
「殿下!お願いがございます!」

私、エリス・フローレンスはお茶の席で自身の婚約者である王太子に真剣な顔で迫っていく。
最初はただならぬ様子に肩をすかしていた王太子であったが、すぐにいつも通りの笑顔を浮かべて、優しい声で答えてくれた。

「私、不憫でなりませんの。すぐに助けてあげてくださいませ」

「不憫とはなんだ?キミは優しいからなぁ。なんでも言ってみなさい」

そう言って、私の最愛の人は笑う。惚けた表情を浮かべながらルシアは人差し指を掲げながらこれまでの私の功績を誉めそやしていく。

「あの時のキミには驚いたよ。まさか軍事の事業を削って、その金を王国の都の人たちに配ろうなんて、我々では思い付かないよ。全く、あの悪女にキミの爪の垢でも飲ませてやりたいな」

ルシアが口元を歪めながら思い出しているのはあの時の事であるらしい。
そう、私がアイリーンを追い出した直後にその例の事業を提案した時の出来事であった。
流石に反対の意見が宮廷内から挙がったものだが、私がこれまでに得た本の力を武器に反対する貴族たちをねじ伏せたのだ。

私には知恵がある。そう、剣を振るうしかない脳のないあの女とは違って、本の力……すなわち知恵に頼る私が持て囃されるのは当たり前の話だろう。
そればかりではない。運の力もある。ちょうど国王が狩猟が終わった後の猟犬の処分に困っていた最中であったのだ。
国王は私が挙げたアイリーンの暴挙をカンタベルト家を潰す絶好の機会と捉えたに違いない。

私は兵法でいうところの水の流れを汲んでいるといえるだろう。
そして、王太子にこうして、優しさをアピールする事により、その地位を確固たるものとしているのである。
そのために、アイリーンの娘であるシャルロッテも利用させてもらったのだ。

正直にいえば、あんな子供などどうでもいいが、利用できるのにしない手はない。
思えば、私は前世でも利用できるものはなんでも利用して生きてきた。
SNSもそうだが、人間関係、そして、そのステータス。前世における美貌。

どれも、自分が優位に生きるために、そして、そのライバルを蹴落とすために利用していたもの。
今更、あんな脳筋如きに負けるわけがない。
あの女のステータスなど武芸に秀でている事以外は地位くらいしかないではないか。

年齢も頭脳も顔も私が勝っている。
もし、アイリーンがこの場にいたのならば、言ってやりたい。
どうだ、ザマァみろ、と。
私のウサギのように可愛らしい顔で慈悲を乞われれば、流石の王太子も認めざるを得ないだろう。

予想通り、少しの間苦しい顔を見せた後に私のいう事を聞いてくれた。
彼は私のいう事を聞き入れ、王国内にて所持していた先の大陸戦争に使用していたオーク兵たちをアイリーン母娘の追討に遣わせる事を約束してくれたのだ。
彼はオークの兵士たちに厳命した。その条件は二人を拿捕する事。もしくはアイリーンのみを倒した際にシャルロッテを連れ帰る事が追討部隊に課すというもの。

野蛮なオークという存在は気に入らないが、役に立つのならば大歓迎。
私は城の塔の部分からオークを鼓舞するルシアを見ながら、ほくそ笑む。












「この馬鹿者がッ!」

私は宿屋の部屋の中で兄から酷く怒られてしまった。いや、今の兄の表情から察するに折檻されてもおかしくはない。
今の兄にはそれ程の勢いがあった。兄は思えば、母親違いの姉が大好きだ。
私もどちらかといえば彼女が嫌いではない。それに、彼女の娘であるシャルロッテは私も大好きな姪。

だからこそ、その姪をあのような生活から抜け出させたい。
その一心であの時は動いたのだった。
それに、姪を道具か何かのように思っていたあの商人への義憤の感情も手伝ったのだろうか。
だが、私の行動は全て裏目に出てしまった。姪はあの商人の子供を庇い私に敵対するような行動をしてしまう。

それがショックだった。あの後に街の外れで私を待ち構えていた兄と合流し、隣街の宿屋へと向かったのだが、案の定怒られてしまった。

「折角、姉上がご自身の半身ともいえるシャルロッテをなんのために貸し出したのか、お前にはわからぬのか!?」 

「わかりたくもないよ!」

これは私の心からの叫びである。前世が普通の庶民だった私はやはり、腹違いの姉や兄から発せられる古臭い言葉はどうも口にする気になれない。
一応、会話のキャッチボールを上手く弾ませるために、それらしい事を言う事は言える。
それだけだ。言葉の例からわかるようにこの古臭い価値観。彼らのいう貴族観やらとは元から性が合わないのだ。

どうすればいいのだろうか。私が思案していた時だ。私と、それから兄の耳に一大ニュースが飛び込む。
始め、そのニュースを持ち込んだのは旅装束をした若い男。
男は片手に一枚の羊皮紙を持ちながら叫び続けていく。

「おおい!号外だァ!号外だァ!とうとう、王太子妃が心を痛められ、アイリーンの逮捕とシャルロッテの保護のために国のオーク軍団を遣わす事が決まったぞォ!」

その言葉を聞いて私は兄と顔を見合わせた。オーク軍団は確か、前の大陸戦争の時に現国王であるヘンリーがその配下として使役していた強者の亜人たちの軍団ではないだろうか。
そんなものが異母姉や姪を襲うとなれば、私たちも放ってはおけない。
宿屋の客に紛れ、より一層の詳しい情報を収集した後に私と兄は異母姉の情報を集め、異母姉と姪が前線侯と呼ばれる、ドナルド・ギャビンの土地へと誘われた事を知った。

私たち兄妹は姉と姪の姿を見かけると、そのままギルドの宿泊スペースへと向かい、待ち伏せを図ったのだ。
姉が泊まるとすれば、侯爵の屋敷以外にはここしかないであろうから。
私は姉と姪の姿を確認すると、すぐにその事を告げた。

前世、一人っ子であった私からすれば、兄の存在や母親違いであるとはいえ姉の存在がある事を嬉しく思っているのだ。
それに、前世ではとうとう巡り合うことがなかった姪まで。
思えば、今私がこんなにも執着しているのも寂しい前世のためであったのかもしれない。

前世の私は病弱な女の子。病弱だったから、病院のベッドの上で行うゲームだけが心の頼りであった。
その乙女ゲームの世界がここで、しかも、兄がその攻略対象の一人であるのだ。
そのため、この姉と姪の存在はイレギュラーともいえた。

本来だったのならば、母親違いの姉もその娘も存在しないのだから。
だが、今世ではキチリと息をしているし動いている。
何より、王太子の婚約が決まってからは跡取りとして兄と共に引き取られて一緒に暮らしていたのだから、偽物などという言葉では片付けられない。

それに元のゲームは単なる恋愛ゲームだ。他のゲームのように魔物が蔓延りそれを狩るというゲームではなかったため今の状況には疑問がないわけではない。
だが、今は自身のくだらない思いを胸に抱いている場合ではない。
姉と姪とを助けなくてはならないのだ。
今世では密接に関わる私の家族を。

大事に思う証拠として、彼女からは他の人たちと共に殺されたと思われていたらしいが、再会を喜んでくれたのがその大きな証拠である。
兄と自分とはアイリーンが王都を出立したと際に顔を合わせ、再会を喜び合った。
あの日の出来事は今でも忘れられるものではない。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

7回目の婚約破棄を成し遂げたい悪女殿下は、天才公爵令息に溺愛されるとは思わない

結田龍
恋愛
「君との婚約を破棄する!」と六人目の婚約者に言われた瞬間、クリスティーナは婚約破棄の成就に思わず笑みが零れそうになった。 ヴィクトール帝国の皇女クリスティーナは、皇太子派の大きな秘密である自身の記憶喪失を隠すために、これまで国外の王族と婚約してきたが、六回婚約して六回婚約破棄をしてきた。 悪女の評判が立っていたが、戦空艇団の第三師団師団長の肩書のある彼女は生涯結婚する気はない。 それなのに兄であり皇太子のレオンハルトによって、七回目の婚約を帝国の公爵令息と結ばされてしまう。 公爵令息は世界で初めて戦空艇を開発した天才機械士シキ・ザートツェントル。けれど彼は腹黒で厄介で、さらには第三師団の副官に着任してきた。 結婚する気がないクリスティーナは七回目の婚約破棄を目指すのだが、なぜか甘い態度で接してくる上、どうやら過去の記憶にも関わっているようで……。 毎日更新、ハッピーエンドです。完結まで執筆済み。 恋愛小説大賞にエントリーしました。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

処理中です...