上 下
103 / 135
新しい時代の守護者編

騎士団団長は何を語るか

しおりを挟む
天道騎士団団長並びに闇祓い課の課長である宝生蘭子は馬上の上から、自分たちの逮捕を妨害するこの青年とその相棒と思われる女性を睨む。
「キミたちは何者だ?なぜ、我々の捜査の妨害を行う?」
「それはこっちの台詞です。簡単に任意同行、任意同行と口で触れまいていますが、結局のところは手を掴んで彼女を警察署まで連行しようとしていませよね。これって誘拐そっくりなんですけれど、大丈夫なんでしょうか?」
綺蝶の問い掛けに馬上の女騎士はフンと鼻を鳴らして、
「妙な言い掛かりを付けるのはやめて貰いたいな。誘拐だと?我々は警察官だぞ、いいか、これは合法的にやっている事でーー」
「その合法的にやっている事で何人の人生をめちゃくちゃにしたんだ。貴様らは?」
菊園寺和巳が二人の会話に割って入り、急いで身に付けた法律の知識を盾に今回の騎士団の違法性を説いていく。
二人は懸命に反論したが、中々に会話が噛み合わない。
やむを得ずに、騎士団は暴挙に打って出た。
宝生蘭子と矢那内涼介の両名が剣を振って彼らを黙らせようとしたのだが、風太郎が刀の塚に手をかけるのと同時に、彼の体全体から冷気と風とが漂い、二人を凍りつかせていく。
両者は恐怖のために思わず動けなくなってしまっていた。動かそうと思っても体が動かない。いわゆる膠着状態に陥った二人に対して風太郎は氷の様に冷たい声で言い放つ。
「失せろ、二度とオレ達の前に現れるな」
二人はその言葉とこの青年と自分たちとの間に存在する圧倒的な差。破魔式でも刀の技術でも谷の上と下程に深く刻み込まれている差に漠然とした顔を浮かべてそのまま馬にを返していく。
涼介もそれに従って彼女を追い掛けると、そのまま背中を見せて消えていく。
風太郎はそれを見届けると、刀を鞘の中にしまって大きな溜息を吐く。
「ふぅ、やっと消え去ったか」
「お疲れ様です。獅子王院さん。見事でしたよ。あの脅し。私、思わず感動で胸を震わされてしまいましたよ」
小さな笑い声を上げながら彼女は言った。
「そいつはどうも、だけれど、オレは何であんなに相手を怒らせられたのか分からないんだよな」
「分からない?獅子王院さん。あれはあなたの意思で言ったのでしょう?」
「あぁ、そうなんだよ。けれどな、あの太刀を握って氷と風の紋章を強く意識すると、何か、こう……自分の意思がなくなっちゃうような気がしてさ……」
綺蝶は風太郎に心配そうな目を向ける。このまま、彼が太刀に心を奪われてしまいはしないか、と。
そして、気が付けば、彼女無意識のうちに彼を強く抱き締めていた。
「お、おい、待てよ、綺蝶……む、胸が当たって……」
「獅子王院さん!お願い!自分を見失わないで!」
その言葉を聞くのと同時に、風太郎の胸の奥が熱くなっていく事に気が付く。
いまにも泣かんとせんばかりに抱き付く綺蝶の頭を風太郎は優しく撫でていく。
「大丈夫だよ。綺蝶……オレは大事なものを見誤ったりはしないさ」
それ見た対魔師たちは微笑ましい光景を見れた事に感謝の念を抱いて、神に感謝の念を送っていく。
特にこう言った類の話が好きそうに思えるチンピラの様な風貌をした一条新太郎はたまたま隣に立っていた海崎英治の耳元で二人に聞こえない様に小さな声で囁く。
「思えば、あの二人ってまだ付き合ってるとかそんな関係でもないんだよな?でも、正妖大学にあの二人が来た時には結局はあんな光景見れなかったよな?オレはてっきり、キスくらい人前でする仲なんじゃあないかなと思っててさ」
「ねぇ、一条。キミは何を思っていたのさ。あの二人は三年間、同じ屋根の下で暮らしていただけだよ」
「さ、三年間同じ部屋だとォォォ~!!」
「あれ、この二人が大学に来る前に討滅寮の対魔師が説明に来たけれど、聞いてなかったの?破魔式と剣術を身に付けるために、三年間、彼女の自宅で」
「自宅だとォォォォォ~!!」
その声でそれまで激しく抱き合っていた二人は突然、その場を離れて互いに視線を逸らす。二人とも顔を真っ赤にしている所から、どうやら、余程、一条の言葉は効いたらしい。
特に綺蝶は顔だけではなく耳までも赤く染めて、視線を地面の方に合わせている。
それを見て冷たい視線が一条に刺さっていく。
一条が愛想笑いをして、その場を取り繕うとした時だ。
風太郎が一条の元に現れて、彼に笑顔を浮かべていく。
てっきり、腹の黒い笑顔を浮かべて、彼を静かに注意するのかと思われたのだが、彼は太陽の様に眩しい笑顔だった。
彼は一条の肩に手を置いて、
「悪かったな。誤解させちまったみたいで、でも、本当に綺蝶とは何もないから……安心してくれ」
「そ、そうか」
風太郎はそれを聞くと、もう一度ニッコリとした笑顔を浮かべると、気恥ずかしさのために未だに視線を下に向けている綺蝶に向かって言った。
「これで、安心だろ。あいつには何もないって言ってきた。綺蝶?」
風太郎の問い掛けに綺蝶は答えない。頭の中がまだ先程の事でいっぱいだったのかもしれない。
一条はその様子を見ていると、暫くの間はバツの悪そうな顔を浮かべていたが、すぐ近くから男性のものと思われる悲鳴が聞こえると、彼は先程までのニヤケ切った顔を捨ててパチンコと刀を持って悲鳴のした方向へと向かう。
悲鳴がしたのはこの山の麓と街との間に存在する境目。
全員がその場に駆け付けると、彼らはそこで信じられない光景を目撃してしまう。
と、言うのもそこには血に染まった地面、首を斬られた鎧の兵士たちが地面の上で山積みにされて死んでいたからだ。
血があたりに塗られた道路はその一帯にだけ赤い川が流れているかの様だ。
山積みになった死体の首の切り口から血が川の様に流れていく。
そして、何より危機的な状況が訪れた事を知らせるのは先程までは風太郎たちに向かって高圧的な態度を取っていた警視庁の闇祓い課の課長とその腹心の部下と思われる若い男の両名が顔を青ざめていたという事実。
だが、二人が怯えるのも無理はないと風太郎は思った。
と、言うのは風太郎の怨念の相手であり、妖鬼の総大将、玉藻紅葉の双子の弟、草薙遠呂智が立っていたからだ。
遠呂智は血に染められた直剣を風太郎に突き付けて言った。
「随分と成長したものだな。あの頃よりも強くなっているのがよーく分かるぞ。さてと、あの時の仕切り直しだ。ここで、決闘をするぞ」
獅子王院風太郎も彼が自分に刀を突き付けているという状態と先程の言葉を聞いて彼も覚悟を決めたらしい。
黙って刀を抜いて遠呂智と向き合っていく。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

幼馴染みの2人は魔王と勇者〜2人に挟まれて寝た俺は2人の守護者となる〜

海月 結城
ファンタジー
ストーカーが幼馴染みをナイフで殺そうとした所を庇って死んだ俺は、気が付くと異世界に転生していた。だが、目の前に見えるのは生い茂った木々、そして、赤ん坊の鳴き声が3つ。 そんな俺たちが捨てられていたのが孤児院だった。子供は俺たち3人だけ。そんな俺たちが5歳になった時、2人の片目の中に変な紋章が浮かび上がった。1人は悪の化身魔王。もう1人はそれを打ち倒す勇者だった。だけど、2人はそんなことに興味ない。 しかし、世界は2人のことを放って置かない。勇者と魔王が復活した。まだ生まれたばかりと言う事でそれぞれの組織の思惑で2人を手駒にしようと2人に襲いかかる。 けれども俺は知っている。2人の力は強力だ。一度2人が喧嘩した事があったのだが、約半径3kmのクレーターが幾つも出来た事を。俺は、2人が戦わない様に2人を守護するのだ。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生!ハイハイからの倍人生

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は死んでしまった。 まさか野球観戦で死ぬとは思わなかった。 ホームランボールによって頭を打ち死んでしまった僕は異世界に転生する事になった。 転生する時に女神様がいくら何でも可哀そうという事で特殊な能力を与えてくれた。 それはレベルを減らすことでステータスを無制限に倍にしていける能力だった...

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

処理中です...