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風太郎の旅立ち編

愛と孤独と復讐と

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風太郎はその笑みを見て慌ててその場から退こうとしたのだが、それも間に合わない。
風太郎の目の前に巨大な爆弾が飛び交い、彼を吹き飛ばそうとしていた。
それを見て声を荒げる日向。
彼は一目散に爆弾の前へと駆け出し、風太郎を突き飛ばす。
当然、その爆弾を喰らうのは日向。風太郎は悲鳴を上げる。
だが、彼の前に姿を見せたのは無傷な日向。
彼にはあの爆発も蚊が刺さったかの様にも感じていないらしい。
彼は服と共に支給された刀を振り回しながら、二人の男女の元へと向かう。
男女は特にハンチング帽を被った少年は勝ち誇った様な笑みを浮かべて、
「どうやら、まだオレの魔獣覚醒の威力を分かっていないらしいな?なら、今からここでもう一度、披露して見せようじゃあないか」
少年はクスッと笑った後に心の中で呟く。
(魔獣覚醒、浮遊爆裂!!)と。
少年の操る魔獣覚醒、『浮遊爆裂』は相手を木っ端微塵に吹き飛ばす最強の術式であった。
少年は先程、この男が無傷であったのは偶然であろうと思い、もう一度、同じ攻撃を喰らわせる事にしたのだ。
実際、少年はこれで多くのヤクザ組織を葬り去ってきた。
空中で鋭い音を立てて熱い空気が吹いていく。
少年は勝利を確信した。だが、彼の目の前に現れるのは闇雲に刀を振り回す禿頭に丸眼鏡の痩せこけた若い男。
どうやら、目論みが外れてしまったらしい。
少年は止むを得ずに爆弾に続く自分の最大の武器、拳銃を使用してこの無謀なる少年と対峙していく。
目の前から迫る男の眉間に拳銃を構えた。これで、目の前から迫る戦争中の生活を引き摺っているかの様な少年は額から一筋の赤い蛇と彼自身が持っている舌を出して永遠に「アカンベー」の格好をしながら死ぬ筈だ。
刺客の少年は確信を持って引き金を引いたが、目の前から迫る男が倒れる気配は見えない。
それを見て胸の内に感じるのは焦燥感、切迫感。
少年はいや、山南洋羽やまなみようばは予想外の出来事が立て続けに起こるものであるから堪らずにその場から逃げ出す。
だが、男はそんな逃げようとする少年を逃さない。少年が恐怖を感じた時だ。彼と追い掛けてくる男の前に多くの綿が降りしきり、その綿が彼の前で繋がれていくのと同時に、源平合戦に登場する日本の兵士の姿となり、男を襲っていく。
洋羽はその隙を突いて背後へと逃げ出す。そして、もう一度拳銃を男に向かって構える。
今度こそは大丈夫だ。必ず、あの男を仕留めて見せよう。
洋羽がそう決意した時だ。男は自分の相棒が作り出した綿で出来た兵士を最も簡単に破り、再度、自分の元へと向かってきた。
洋羽は拳銃を構えるが、あの化け物の事だ。効果は期待できない。
洋羽が半ばやけになり、拳銃を構えていると、ここに奇跡が起きた。
急に男が苦しみ始めたのだ。理由は分からない。それを見た洋羽。
彼は苦しむ男の頭に向かって拳銃を構えたその時だ。
彼の前に一人の女が乱入する。先程、討滅寮の建物から姿を見せたセーラー服の女。
彼女は光を宿らせた刀を構えて洋羽の目の前に姿を表す。
「何用だ?悪いが、オレは目の前の男と対峙しているんでな。邪魔をしないでもらえないか?」
「あなたもしかして、西洋の騎士ナイトでも気取っているんですか?でも、真似しているんなら、気持ち悪いからやめた方が良いですよ。全然、騎士ナイトには見えませんから」
女の毒舌は癪に触る。洋羽は歯をギリギリと鳴らしながら、拳銃を構えるが、気づかない内に女は自分の背後に回っていた。
今度は自身が体を捻って女の方へと向くが、また背後に回られていた。
すると、彼女が両手で持っていた日本刀が光だし、それが自身の首に振り下ろされていく。
洋羽は咄嗟に体を滑らせて女の刀を交わし、彼女の腹に銃口を突き付けて勝利を確信するが、女素早く背後へと身を逸らし、危機を脱しただけではなく、逆に洋羽を蹴り飛ばす。
蹴りをもろに喰らえば妖鬼と言えどもダメージは必須。
彼は顎を抑えて立ち上がろうとしたが、その前に女が飛び上がり、刀を下に向けて洋羽を狙う。
洋羽が死を覚悟して両目を閉じた時だ。女の前に真知子巻きの姿をした少女が綿の兵士を作り出して女を襲わせる。
洋羽はそれを見るなり、目を輝かせて相棒の名を大きな声で呼ぶ。
和子かずこッ!」
洋羽の相棒にして恋人である和子は放っておかなかったのだ。
例え、あの方の命令に背く事になろうとも、助けておきたかったのだ。
だからこそ、無意識のうちに綿で作り出した兵士を洋羽を襲う女の元へと飛ばしていたのだ。
そうして、女を自身の綿の兵士で始末しようとしたのだが、その前に今度は先程、洋羽の攻撃で怯んだ筈の少年が自分に襲い掛かってきたではないか。
和子は刀を振って襲い掛かってきた男の攻撃を交わして男を睨み付ける。
何故か刀ではなく、太刀を持った男は両手で持っていた太刀を右手一本のみで持つ様に構え直して、刃を横に構えて和子の元へと向かう。
だが、和子は怯まない。彼女は自身の魔獣覚醒を使用して風太郎の突撃を防ぐ。
実際、彼の目の前に綿の形をした兵士が現れてから、風太郎の動きは明らかに止まっていた。
だが、風太郎は怯む事なく今度は再び太刀を両手で持ち直して目の前に大きく振っていく。
すると、綿の兵士の前に小さな氷の兵士たちが現れて立ち向かっていく。
風太郎はそれを見届けてから、もう一度、太刀を構えて和子の元へと向かう。
それを見た和子は今度は別の魔獣覚醒を使用する事にした。
彼女は目の前に大きな綿の塊を作り出すのと同時に、目の前に広がった綿を針と鋏で巨大な羊へと変えて、風太郎を襲わせていく。
空中で大きく広がった巨大な羊毛は風太郎の体を大きく包み込む。
これこそが、和子の真の魔獣覚醒『針縫いの番羊』であった。
この羊は一度、囚われると抜け出す事は不可能となる。
まさしく、無敵の魔獣覚醒。これを打ち破る事は不可能に近いだろう。
だが、風太郎は巨大な羊毛に包み込まれるのと同時に自身の氷柱を使用した破魔式で羊毛の中の一点を集中させ、突き破ったのだった。
そして、和子の目の前に飛び出し、彼女の首をその太刀で跳ね飛ばす。
跳ね飛ばされた和子の首は地面の上を西瓜の様に転がっていく。
だが、体はそうではない。まだまだ魔獣覚醒と呼ばれる術を使用して綿の兵士を作り出していく。
風太郎はもう一度、自分自身の小さな氷の兵士を作り出し、綿の兵士と戦わせていく。
だが、首を刎ねた今、この綿の兵士が動き出せるのは後、僅かだろう。
風太郎は彼女の意識がなくなるまでの時間を稼ぐために、胴体だけの妖鬼にもう一度刀を向ける。
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