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秋の章 魔物退治と収穫祭
第27話 作戦会議
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ようやく、魔物が村を襲撃した異常事態の理由が分かった。
腐竜の発生。
それがすべての元凶だったのだ。
「トロールやコボルトは、首を持ち帰って腐竜への捧げものにしていたんだ」
わたしは狩人兄弟の働きに心からの感謝とねぎらいの言葉をかけたあと、みなに説明した。
人間の世界ほど複雑な社会は持たないが、魔物の世界にもヒエラルキーが存在する。そう、宮廷騎士団の座学で教わっていた。
強大な魔物は、周囲の魔物を支配する。
魔の森の王が誕生した。
それが、魔物たちが人里までやってきて、牙を剥きはじめた原因だった。
エリンズや家畜たちの遺体は、ことごとく首がかき切られていた。
なぜか、腐竜は死者の生首ばかりを喰らうという。
そのことを思い合わせれば、最初から原因を推測することも可能だったはずだ。
自分の浅はかさが、ちょっと嫌になる。
「……しかし、トロールがひれ伏すほどの強力な魔物が、いったいなぜ魔の森に現れたのでしょうな」
「さて……。それはわたしにも分からない」
ジラフ村長の疑問に、わたしも答えられなかった。
どこかヨソからやってきたのか。魔の森で生まれたのか。
そもそも、自然のことわりから外れた魔物がどうやって生まれるのか、その原理も解明されていないみたいだ。
いままでずっと、この村を魔物が襲ったりしなかったことを思えば、よそからやってきた可能性のほうが高い気はするけど……。
「じゃあ、その腐竜ってのをやっつければ、もう魔物がやってこなくなるのか?」
「ああ、それは、ほぼ間違いない」
質問したのは、会議に参加している村の若者だ。
今度は、かなりの確証を込めて答えられた。
「けど、それはわたし一人では無理だ」
だけど、そう続けざるをえなかった。
一番はじの席に座るカレンの顔を、ちらりと見る。
カレンとのやりとりがなければ、けっして認められなかっただろう。
たとえかなわなくても、一人で戦いを挑み、自滅していた気がする。
領民たちの命を預かる領主として、そんなムダ死にをしていいはずがないのに。
魔物襲撃の要因を突き止めてくれた狩人兄弟は、本当にお手柄だった。
あらためて、頼ってよかったと思う。
そして、腐竜を倒そうと思ったら、もっとみんなの力を頼りにしなければならない。
「……なら討伐隊を作るしかない、とうことですかな?」
ジラフ村長の言葉に、会議に集ったみなの表情がこわばった。
特に、実際に腐竜の姿を目撃したジェフ、ジェイミー兄弟の顔はけわしかった。
わたしだって、もう一度彼らに魔の森に入って案内してほしい、なんて言えない。
「いや、逆だ。こちらにおびき寄せて討とう」
わたしはみなに、腐竜を罠にかける方法を伝えた。
話しながらも、考えをまとめていく。
「なるほど。そいつはすげえ! そんな方法であの化け物が釣れるなんてな。さすが、領主様だ」
「この季節だったのがさいわいだな。けど、ほんとにあれがやってくるのか?」
ジェイミー、ジェフの二人がそう発言した。
「そうだな。わたしも実践するのは初めてだが……。万一、うまくいかなったときは、すまない。また別の策を試そう」
「領主様が謝ることじゃねえよ。やれそうなことは片っぱしからやってみようぜ。なあ、みんな!」
ジェイミーの呼びかけに、みなもうなずいてくれる。
わたしたちはさらに、腐竜をおびき寄せてからの戦い方も協議した。
「……わたしの知っている腐竜の特徴は以上だ。中心になって戦うのは、わたしだが、みなにもサポートを頼みたい」
わたしが頭を下げると、会議に集まったみなは、次々とアイディアを口にした。
「場所を誘導できるなら、猪を狩るときの罠を仕掛けるのはどうだ。あんな大きなヤツに効くかは分からないが……」
「そいつはいいぜ、アニキ。落とし穴も掘ろう」
「油を敷いて火を射かけたらどうだ?」
「金槌が大量にいるな。大急ぎで造らねえと」
集ったみなは真剣だった。
魔物に怯えてばかりじゃない。
どうすれば、この異常事態に終止符を打てるのか、積極的に話し合う。
カレンの言うとおりだった。
村人たちは、わたしが赤子のように守ってあげなければ何もできない、か弱い存在じゃなかった。
彼らはみな、在地領主がいないあいだも、自分たちの暮らしを守り続けていたのだ。
魔物の襲撃は過去に例のないことだけど、それに尻込みしてはいない。
それに、エリンズのカタキを討ちたいという思いも、ともに暮らしてきた彼らのほうが、わたしよりずっと強いはずだ。
特に若者たちから、血気盛んな熱を感じる。
あらためて、村は一つの大きな家族なんだな、と思いしらされる。
「……あとは教区教会に協力を要請する必要があるな。きっと教会なら、聖水の備えもあるだろうから」
「なら、わたしが手紙をしたためます。あの人は、わたしが頼んだほうが協力してくれると思いますので」
じゃっかん嫌そうな気配をにじませながらも、そう請け負ってくれたのはカレンだ。
あの人、というのは街道の修理のときにわたしも出会った、シスター・イライザのことだろう。
彼女とカレンがどういう関係なのか、かなり気になる。
けど、いま話題にすべきことじゃなかった。
「よし、じゃあ、それは頼んだ。教会から依頼のものが届くまで、こちらも準備をすすめよう。それまで、この会議は毎日やって、村のみなにも内容は周知したい。それでいいと思うか?」
誰も異論をとなえなかった。
みなの決意のこもった顔を見渡すと、闘志が湧いてくる。
それはひとりで戦おうとしていたときのような、思い詰めた感情ではなかった。
カレンのまなざしからも、もう冷たさはまったく感じなくなっていた。
腐竜は強力な魔物だが、必ず打ち勝てる、という確信が湧いてくる。
みなで協力する、というのがこんなにも力強いことなのか、とあらためて気づかされる思いだった。
腐竜の発生。
それがすべての元凶だったのだ。
「トロールやコボルトは、首を持ち帰って腐竜への捧げものにしていたんだ」
わたしは狩人兄弟の働きに心からの感謝とねぎらいの言葉をかけたあと、みなに説明した。
人間の世界ほど複雑な社会は持たないが、魔物の世界にもヒエラルキーが存在する。そう、宮廷騎士団の座学で教わっていた。
強大な魔物は、周囲の魔物を支配する。
魔の森の王が誕生した。
それが、魔物たちが人里までやってきて、牙を剥きはじめた原因だった。
エリンズや家畜たちの遺体は、ことごとく首がかき切られていた。
なぜか、腐竜は死者の生首ばかりを喰らうという。
そのことを思い合わせれば、最初から原因を推測することも可能だったはずだ。
自分の浅はかさが、ちょっと嫌になる。
「……しかし、トロールがひれ伏すほどの強力な魔物が、いったいなぜ魔の森に現れたのでしょうな」
「さて……。それはわたしにも分からない」
ジラフ村長の疑問に、わたしも答えられなかった。
どこかヨソからやってきたのか。魔の森で生まれたのか。
そもそも、自然のことわりから外れた魔物がどうやって生まれるのか、その原理も解明されていないみたいだ。
いままでずっと、この村を魔物が襲ったりしなかったことを思えば、よそからやってきた可能性のほうが高い気はするけど……。
「じゃあ、その腐竜ってのをやっつければ、もう魔物がやってこなくなるのか?」
「ああ、それは、ほぼ間違いない」
質問したのは、会議に参加している村の若者だ。
今度は、かなりの確証を込めて答えられた。
「けど、それはわたし一人では無理だ」
だけど、そう続けざるをえなかった。
一番はじの席に座るカレンの顔を、ちらりと見る。
カレンとのやりとりがなければ、けっして認められなかっただろう。
たとえかなわなくても、一人で戦いを挑み、自滅していた気がする。
領民たちの命を預かる領主として、そんなムダ死にをしていいはずがないのに。
魔物襲撃の要因を突き止めてくれた狩人兄弟は、本当にお手柄だった。
あらためて、頼ってよかったと思う。
そして、腐竜を倒そうと思ったら、もっとみんなの力を頼りにしなければならない。
「……なら討伐隊を作るしかない、とうことですかな?」
ジラフ村長の言葉に、会議に集ったみなの表情がこわばった。
特に、実際に腐竜の姿を目撃したジェフ、ジェイミー兄弟の顔はけわしかった。
わたしだって、もう一度彼らに魔の森に入って案内してほしい、なんて言えない。
「いや、逆だ。こちらにおびき寄せて討とう」
わたしはみなに、腐竜を罠にかける方法を伝えた。
話しながらも、考えをまとめていく。
「なるほど。そいつはすげえ! そんな方法であの化け物が釣れるなんてな。さすが、領主様だ」
「この季節だったのがさいわいだな。けど、ほんとにあれがやってくるのか?」
ジェイミー、ジェフの二人がそう発言した。
「そうだな。わたしも実践するのは初めてだが……。万一、うまくいかなったときは、すまない。また別の策を試そう」
「領主様が謝ることじゃねえよ。やれそうなことは片っぱしからやってみようぜ。なあ、みんな!」
ジェイミーの呼びかけに、みなもうなずいてくれる。
わたしたちはさらに、腐竜をおびき寄せてからの戦い方も協議した。
「……わたしの知っている腐竜の特徴は以上だ。中心になって戦うのは、わたしだが、みなにもサポートを頼みたい」
わたしが頭を下げると、会議に集まったみなは、次々とアイディアを口にした。
「場所を誘導できるなら、猪を狩るときの罠を仕掛けるのはどうだ。あんな大きなヤツに効くかは分からないが……」
「そいつはいいぜ、アニキ。落とし穴も掘ろう」
「油を敷いて火を射かけたらどうだ?」
「金槌が大量にいるな。大急ぎで造らねえと」
集ったみなは真剣だった。
魔物に怯えてばかりじゃない。
どうすれば、この異常事態に終止符を打てるのか、積極的に話し合う。
カレンの言うとおりだった。
村人たちは、わたしが赤子のように守ってあげなければ何もできない、か弱い存在じゃなかった。
彼らはみな、在地領主がいないあいだも、自分たちの暮らしを守り続けていたのだ。
魔物の襲撃は過去に例のないことだけど、それに尻込みしてはいない。
それに、エリンズのカタキを討ちたいという思いも、ともに暮らしてきた彼らのほうが、わたしよりずっと強いはずだ。
特に若者たちから、血気盛んな熱を感じる。
あらためて、村は一つの大きな家族なんだな、と思いしらされる。
「……あとは教区教会に協力を要請する必要があるな。きっと教会なら、聖水の備えもあるだろうから」
「なら、わたしが手紙をしたためます。あの人は、わたしが頼んだほうが協力してくれると思いますので」
じゃっかん嫌そうな気配をにじませながらも、そう請け負ってくれたのはカレンだ。
あの人、というのは街道の修理のときにわたしも出会った、シスター・イライザのことだろう。
彼女とカレンがどういう関係なのか、かなり気になる。
けど、いま話題にすべきことじゃなかった。
「よし、じゃあ、それは頼んだ。教会から依頼のものが届くまで、こちらも準備をすすめよう。それまで、この会議は毎日やって、村のみなにも内容は周知したい。それでいいと思うか?」
誰も異論をとなえなかった。
みなの決意のこもった顔を見渡すと、闘志が湧いてくる。
それはひとりで戦おうとしていたときのような、思い詰めた感情ではなかった。
カレンのまなざしからも、もう冷たさはまったく感じなくなっていた。
腐竜は強力な魔物だが、必ず打ち勝てる、という確信が湧いてくる。
みなで協力する、というのがこんなにも力強いことなのか、とあらためて気づかされる思いだった。
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