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第十二話 斧使いゼルフ①
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冒険者パーティー“火蜥蜴の尾”の救出クエストは、冒険者ギルドによって大々的に布告された。
いつものように貼り紙を出すだけでなく、ギルドマスターエドアルド、受付嬢レベッカとダリアの三人でその場に居合わせた冒険者達に詳細を説明したうえで応募を呼びかけ、他の冒険者に伝えてもらうようにも頼んだ。
だが、すぐに手を挙げる冒険者パーティーはいなかった。
ナイトメア・レルムが恐ろしい迷宮であることは、この町の冒険者にとっては常識だった。
目的がパーティーの救出であれば、第何層まで潜ればいいのかも判然としない。
彼らの生死も不明で、ヘタをすればすでに魔物に喰われるかして遺骸すら残っていない人間を、延々と探し回ることにもなりかねなかった。
ギルドが用意した報酬も、通常クエストから比べれば破格のものだったが、それも自身の命と引き換えでは釣り合いが取れない。
それに、残念ながら“火蜥蜴の尾”は普段の素行もあまり良いパーティーとは言えず、積極的に救出したいと義理人情に燃える冒険者も少なかった。
内心、自業自得と思っている輩《やから》もいないとは言えないだろう。
「お願いします! こんな時、冒険者同士助け合うためにギルドがあるんです。どうか!」
沈黙する冒険者達に向けて、レベッカは何度も頭を下げて呼びかけていた。
冒険者を見捨てる。そんなことは彼女にとって、あってはならないことだった。
痛々しい沈黙がギルド内に満ちた後――、
「俺、やりますよ」
そっと手を挙げた者がいた。
盗賊純特化《シーフ・スペシャル》クラスのレヴィンだった。
「レヴィンさん……!」
「まあ、あいつらには裏切られたって気持ちもありますけどね。それでも、一応昔の仲間だ。それに、俺ならどんな高難易度のダンジョンだってモンスターに襲われる心配がないでしょう?」
たしかに、ダンジョン内の探索でレヴィンほどうってつけの冒険者は他にいなかった。
しかし、今回は他の冒険者達を発見した後、連れて帰らなければならない。
モンスターと戦えないレヴィンでは帰路の安全が確保できない。
嬉しい申し出ではあったが、レヴィン一人ではクエストは成り立たなかった。
「あ、あの、わたしも……クエスト、参加します」
そうおずおずと声を上げたのは、弓使いのクロスだ。
「その、“火蜥蜴の尾”の皆さんのことはよく知らないですけど……レベッカさんが困っているなら……たくさんお世話になっていますから。……力になりたいです」
「クロスさん! ありがとうございます」
たどたどしくではあったが、クロスの言葉はレベッカの胸に温かく沁《し》みわたるようだった。
「わたしでお役に立てるか分かりませんけど……」
「そんなことありません! とてもとても助かります!」
クロスが放つ精度の高い弓は、狭いダンジョン内での戦いに向いている。
とてもありがたい申し出だった。
「ちょっとちょっと~、クロス。パーティーリーダー差し置いて勝手に決めないでよね~」
そう口を尖らせたのはクロスの所属するパーティー“銀妖精の輪舞”のリーダー、精霊遣いのミーシャだった。
クロスは慌ててパーティーメンバー達の方を振り返った。
「あ、ご、ごめんなさい……。皆さん、その……少しのあいだだけ、パーティー抜けさせてもらいたくて、その……」
「はあ? 何言ってんの、クロス」
“銀妖精の輪舞”のメンバー達はみんなそろって、呆れたようなため息をついた。
「あんたがクエスト受けるっていうんなら、とーぜん、あたしらも一緒に行くに決まってるっしょ」
「えっ、えっ……。でも……」
「当り前だろ。なんだよ、俺たちが仲間を見捨てるとでも思ってるのかよ」
「そ、そんなことないです……けど……」
「んじゃ、決まりっ。レベッカちゃん、ウチらも参戦ってことでよろっ」
軽いノリでクエスト参加を表明する“銀妖精の輪舞”一同。
さらに、
「まっ、あたしもお嬢に借りがあるしね。野郎ども、ギルドの仲間を見捨てたとあっちゃ、男がすたるってもんだよ」
「なにッ、男がすたる!? それはいかん」
「オレ達も戦うぞ!」
「うむ、男の中の男はダンジョンなど恐れはせんのだ!」
「ふはははは、ワシらに任せておけ。火蜥蜴ごときひねりつぶしてやろう!」
「つぶしてどうすんのさ、助け出すんだよ。ってことでお嬢、あたしらのクエスト参加も手続きしといてくれ」
女戦士カメリアをはじめ”黄金の闘士団“達も暑苦しく参加を表明しはじめた。
レベッカは少し涙ぐみそうになるのをなんとか堪え、ギルド受付嬢として努めて冷静に答えた。
「皆さん、本当にありがとうございます。狭いダンジョン内であまり多すぎるパーティーレイドもかえって危険です。レヴィンさんの特性も活かしにくくなりますし……。ですので、いま参加を表明してくださった、レヴィンさん、“銀妖精の輪舞”さん、“黄金の闘士団”さんで救出パーティーとしたいと思います」
参加を表明した冒険者達は神妙な顔でうなずいた。
「あ~、ちょっといいっすか」
と、そこで別の冒険者が手を挙げた。
「このあいだ俺たち別のダンジョン攻略のために回復薬《ポーション》大量に用意したんだけど、結局あんま使わなくって……。もしいるなら分けられるけど、役に立つか?」
「もちろんです! とても助かります」
その冒険者の申し出をきっかけに、続々と声を上げる冒険者達が続いた。
「あ、アイテムの寄付とかでもありなんだ。そしたら、混乱耐性上げる指輪貸そうか? ナイトメア・レルムって状態異常技使ってくるモンスター多いんでしょ?」
「むっ、それならこっちはアイテム鑑定の巻物だ。消耗品だがガンガン使っていいぞ」
「おっ、てめえらばっかりにいいかっこさせられるか。なら、俺は風の精霊の加護を得られる護符だ。元々レベッカちゃんのアドバイスで見つけたようなもんだしな」
その場に居合わせた冒険者達が次々とアイテムの寄付や貸与を申し出た。
見栄の張り合いもあるだろうが、大なり小なりレベッカへの恩返しのつもりがあった。
「皆さん、ほんとにありがとうございます!」
普段なら善意に甘えるようなことはしないレベッカだったが、この時ばかりはすべてありがたく受け取ることにした。
「ねえ、あなた達も高ランククエストでけっこうレアアイテムを手に入れてるでしょう。少し分けてくださらない?」
負けじとダリアも自分の担当する冒険者に声を掛けはじめた。
「まあ、ダリアさんの頼みなら考えなくもないが……。このあいだ話した円形劇場の芝居を一緒に行ってくれるっていうなら」
「それくらいお安い御用だわ」
「おっ、じゃあ、俺も音楽祭のチケットが二枚あるんだが……」
「一日くらいなら構わなくてよ」
次々とデートの約束と引き換えにアイテムを巻き上げていくダリア。
そうした男達の態度に、主に女冒険者達が白い目を向けているのだが、ダリアは気づきもしなかった。
レベッカもそっと後ろから声をかける。
「ダリアさん。特定の冒険者さんとギルド外でお付き合いするのは規約違反じゃ……」
「し、仕方ないでしょう。この際だもの。あなたばっかりに活躍させられないわ!」
それがレベッカへの対抗意識からの行為か、冒険者達を遭難させてしまった自責の念からくるのかは分からないが、非常事態であることはたしかだ。
レベッカも今回は見逃すことにした。
一通りの呼びかけも終わって、かなり高レアアイテムも含めた寄付が積みあがっていた。
攻略パーティーにも、これならいけるという機運が高まる。
「ひとつ、あたしから提案だけどさ」
ナイトメア・レルム攻略組を前にして、カメリアがそう切り出した。
「あたしら冒険者は基本、個人主義だ。これだけ大人数の行動には慣れてない」
たしかに、と他の冒険者達も同意する。
「そこで、ダンジョン攻略の作戦を立てるのはお嬢――レベッカに頼もうと思う」
「わたしですか!?」
その様子を見ていたレベッカが困惑の声を上げた。
けれど、驚いているのはその場に居合わせた者の中で、レベッカ本人ただ一人だった。
「さんせ~。なんかよく知らないアイテムもいっぱいもらっちゃって、使い方教えてほしいし~」
と、賛同の意を示したのは“銀妖精の輪舞”リーダー、ミーシャだ。
「俺もそれがいいと思います。俺達のこと誰よりもよく分かっているのがレベッカさんだから」
「わ、わたしも……レベッカさんの作戦なら、安心できます……」
レヴィンとクロスの二人もうなずいた。
他のメンバー達からも異論はなかった。
「そんな、わたし、冒険者でもないのに……」
と、レベッカはうろたえたが、参加メンバー全員から信頼の眼差しを受けては辞退もできなかった。
「……分かりました。ダンジョン内では何があるか分かりませんので、中に入ってからの指揮はミーシャさんとカメリアさんが執《と》ってください」
「ほいよ~、引き受けた!」
「ああ、任せときな」
二人の同意を確認してから、レベッカはギルドのボードに図を描き、彼らに作戦を伝える。
「基本行動としてはレヴィンさんが常に先行してください。モンスターの居場所、ダンジョンの構造、罠の有無、それらを把握したのち、他のメンバーは行動してもらいます」
「分かりました。斥候《せっこう》こそ盗賊《シーフ》クラスの本領ですからね」
「はい。レヴィンさんの後に続く二番手はクロスさんにお願いします。レヴィンさんの隠密スキルと合わせて行動すれば、必ず一撃目は不意打ちのクリティカルが与えられると思います。また、ダンジョン内での行動ではモンスターに挟み撃ちされるのがもっとも危険です。ですので……」
「ウチの頑丈な連中が後ろってことだな」
カメリアがレベッカの意図を察して言う。
「ええ、”黄金の闘士団“の皆さんにしんがりをお願いしたいと思います。では、具体的にアイテムの活用法や、想定されうるケースの対処法ですが――」
レベッカは詳細に渡って作戦を提示し、現時点で分かる範囲のナイトメア・レルムの構造や生息するモンスターの特徴、注意点も話す。
クエストに参加する者も、それを見ている周囲の冒険者からも、異論はまったく出なかった。
みな、レベッカの知識量と的確な洞察力に舌を巻く思いだった。
冒険者以上に冒険者を知る受付嬢レベッカ。
彼女の戦略を聞くうち、困難だと思われたこの救出クエストも、きっとうまくいくという希望がその場に居合わせた全員の胸の内に高まっていった。
いつものように貼り紙を出すだけでなく、ギルドマスターエドアルド、受付嬢レベッカとダリアの三人でその場に居合わせた冒険者達に詳細を説明したうえで応募を呼びかけ、他の冒険者に伝えてもらうようにも頼んだ。
だが、すぐに手を挙げる冒険者パーティーはいなかった。
ナイトメア・レルムが恐ろしい迷宮であることは、この町の冒険者にとっては常識だった。
目的がパーティーの救出であれば、第何層まで潜ればいいのかも判然としない。
彼らの生死も不明で、ヘタをすればすでに魔物に喰われるかして遺骸すら残っていない人間を、延々と探し回ることにもなりかねなかった。
ギルドが用意した報酬も、通常クエストから比べれば破格のものだったが、それも自身の命と引き換えでは釣り合いが取れない。
それに、残念ながら“火蜥蜴の尾”は普段の素行もあまり良いパーティーとは言えず、積極的に救出したいと義理人情に燃える冒険者も少なかった。
内心、自業自得と思っている輩《やから》もいないとは言えないだろう。
「お願いします! こんな時、冒険者同士助け合うためにギルドがあるんです。どうか!」
沈黙する冒険者達に向けて、レベッカは何度も頭を下げて呼びかけていた。
冒険者を見捨てる。そんなことは彼女にとって、あってはならないことだった。
痛々しい沈黙がギルド内に満ちた後――、
「俺、やりますよ」
そっと手を挙げた者がいた。
盗賊純特化《シーフ・スペシャル》クラスのレヴィンだった。
「レヴィンさん……!」
「まあ、あいつらには裏切られたって気持ちもありますけどね。それでも、一応昔の仲間だ。それに、俺ならどんな高難易度のダンジョンだってモンスターに襲われる心配がないでしょう?」
たしかに、ダンジョン内の探索でレヴィンほどうってつけの冒険者は他にいなかった。
しかし、今回は他の冒険者達を発見した後、連れて帰らなければならない。
モンスターと戦えないレヴィンでは帰路の安全が確保できない。
嬉しい申し出ではあったが、レヴィン一人ではクエストは成り立たなかった。
「あ、あの、わたしも……クエスト、参加します」
そうおずおずと声を上げたのは、弓使いのクロスだ。
「その、“火蜥蜴の尾”の皆さんのことはよく知らないですけど……レベッカさんが困っているなら……たくさんお世話になっていますから。……力になりたいです」
「クロスさん! ありがとうございます」
たどたどしくではあったが、クロスの言葉はレベッカの胸に温かく沁《し》みわたるようだった。
「わたしでお役に立てるか分かりませんけど……」
「そんなことありません! とてもとても助かります!」
クロスが放つ精度の高い弓は、狭いダンジョン内での戦いに向いている。
とてもありがたい申し出だった。
「ちょっとちょっと~、クロス。パーティーリーダー差し置いて勝手に決めないでよね~」
そう口を尖らせたのはクロスの所属するパーティー“銀妖精の輪舞”のリーダー、精霊遣いのミーシャだった。
クロスは慌ててパーティーメンバー達の方を振り返った。
「あ、ご、ごめんなさい……。皆さん、その……少しのあいだだけ、パーティー抜けさせてもらいたくて、その……」
「はあ? 何言ってんの、クロス」
“銀妖精の輪舞”のメンバー達はみんなそろって、呆れたようなため息をついた。
「あんたがクエスト受けるっていうんなら、とーぜん、あたしらも一緒に行くに決まってるっしょ」
「えっ、えっ……。でも……」
「当り前だろ。なんだよ、俺たちが仲間を見捨てるとでも思ってるのかよ」
「そ、そんなことないです……けど……」
「んじゃ、決まりっ。レベッカちゃん、ウチらも参戦ってことでよろっ」
軽いノリでクエスト参加を表明する“銀妖精の輪舞”一同。
さらに、
「まっ、あたしもお嬢に借りがあるしね。野郎ども、ギルドの仲間を見捨てたとあっちゃ、男がすたるってもんだよ」
「なにッ、男がすたる!? それはいかん」
「オレ達も戦うぞ!」
「うむ、男の中の男はダンジョンなど恐れはせんのだ!」
「ふはははは、ワシらに任せておけ。火蜥蜴ごときひねりつぶしてやろう!」
「つぶしてどうすんのさ、助け出すんだよ。ってことでお嬢、あたしらのクエスト参加も手続きしといてくれ」
女戦士カメリアをはじめ”黄金の闘士団“達も暑苦しく参加を表明しはじめた。
レベッカは少し涙ぐみそうになるのをなんとか堪え、ギルド受付嬢として努めて冷静に答えた。
「皆さん、本当にありがとうございます。狭いダンジョン内であまり多すぎるパーティーレイドもかえって危険です。レヴィンさんの特性も活かしにくくなりますし……。ですので、いま参加を表明してくださった、レヴィンさん、“銀妖精の輪舞”さん、“黄金の闘士団”さんで救出パーティーとしたいと思います」
参加を表明した冒険者達は神妙な顔でうなずいた。
「あ~、ちょっといいっすか」
と、そこで別の冒険者が手を挙げた。
「このあいだ俺たち別のダンジョン攻略のために回復薬《ポーション》大量に用意したんだけど、結局あんま使わなくって……。もしいるなら分けられるけど、役に立つか?」
「もちろんです! とても助かります」
その冒険者の申し出をきっかけに、続々と声を上げる冒険者達が続いた。
「あ、アイテムの寄付とかでもありなんだ。そしたら、混乱耐性上げる指輪貸そうか? ナイトメア・レルムって状態異常技使ってくるモンスター多いんでしょ?」
「むっ、それならこっちはアイテム鑑定の巻物だ。消耗品だがガンガン使っていいぞ」
「おっ、てめえらばっかりにいいかっこさせられるか。なら、俺は風の精霊の加護を得られる護符だ。元々レベッカちゃんのアドバイスで見つけたようなもんだしな」
その場に居合わせた冒険者達が次々とアイテムの寄付や貸与を申し出た。
見栄の張り合いもあるだろうが、大なり小なりレベッカへの恩返しのつもりがあった。
「皆さん、ほんとにありがとうございます!」
普段なら善意に甘えるようなことはしないレベッカだったが、この時ばかりはすべてありがたく受け取ることにした。
「ねえ、あなた達も高ランククエストでけっこうレアアイテムを手に入れてるでしょう。少し分けてくださらない?」
負けじとダリアも自分の担当する冒険者に声を掛けはじめた。
「まあ、ダリアさんの頼みなら考えなくもないが……。このあいだ話した円形劇場の芝居を一緒に行ってくれるっていうなら」
「それくらいお安い御用だわ」
「おっ、じゃあ、俺も音楽祭のチケットが二枚あるんだが……」
「一日くらいなら構わなくてよ」
次々とデートの約束と引き換えにアイテムを巻き上げていくダリア。
そうした男達の態度に、主に女冒険者達が白い目を向けているのだが、ダリアは気づきもしなかった。
レベッカもそっと後ろから声をかける。
「ダリアさん。特定の冒険者さんとギルド外でお付き合いするのは規約違反じゃ……」
「し、仕方ないでしょう。この際だもの。あなたばっかりに活躍させられないわ!」
それがレベッカへの対抗意識からの行為か、冒険者達を遭難させてしまった自責の念からくるのかは分からないが、非常事態であることはたしかだ。
レベッカも今回は見逃すことにした。
一通りの呼びかけも終わって、かなり高レアアイテムも含めた寄付が積みあがっていた。
攻略パーティーにも、これならいけるという機運が高まる。
「ひとつ、あたしから提案だけどさ」
ナイトメア・レルム攻略組を前にして、カメリアがそう切り出した。
「あたしら冒険者は基本、個人主義だ。これだけ大人数の行動には慣れてない」
たしかに、と他の冒険者達も同意する。
「そこで、ダンジョン攻略の作戦を立てるのはお嬢――レベッカに頼もうと思う」
「わたしですか!?」
その様子を見ていたレベッカが困惑の声を上げた。
けれど、驚いているのはその場に居合わせた者の中で、レベッカ本人ただ一人だった。
「さんせ~。なんかよく知らないアイテムもいっぱいもらっちゃって、使い方教えてほしいし~」
と、賛同の意を示したのは“銀妖精の輪舞”リーダー、ミーシャだ。
「俺もそれがいいと思います。俺達のこと誰よりもよく分かっているのがレベッカさんだから」
「わ、わたしも……レベッカさんの作戦なら、安心できます……」
レヴィンとクロスの二人もうなずいた。
他のメンバー達からも異論はなかった。
「そんな、わたし、冒険者でもないのに……」
と、レベッカはうろたえたが、参加メンバー全員から信頼の眼差しを受けては辞退もできなかった。
「……分かりました。ダンジョン内では何があるか分かりませんので、中に入ってからの指揮はミーシャさんとカメリアさんが執《と》ってください」
「ほいよ~、引き受けた!」
「ああ、任せときな」
二人の同意を確認してから、レベッカはギルドのボードに図を描き、彼らに作戦を伝える。
「基本行動としてはレヴィンさんが常に先行してください。モンスターの居場所、ダンジョンの構造、罠の有無、それらを把握したのち、他のメンバーは行動してもらいます」
「分かりました。斥候《せっこう》こそ盗賊《シーフ》クラスの本領ですからね」
「はい。レヴィンさんの後に続く二番手はクロスさんにお願いします。レヴィンさんの隠密スキルと合わせて行動すれば、必ず一撃目は不意打ちのクリティカルが与えられると思います。また、ダンジョン内での行動ではモンスターに挟み撃ちされるのがもっとも危険です。ですので……」
「ウチの頑丈な連中が後ろってことだな」
カメリアがレベッカの意図を察して言う。
「ええ、”黄金の闘士団“の皆さんにしんがりをお願いしたいと思います。では、具体的にアイテムの活用法や、想定されうるケースの対処法ですが――」
レベッカは詳細に渡って作戦を提示し、現時点で分かる範囲のナイトメア・レルムの構造や生息するモンスターの特徴、注意点も話す。
クエストに参加する者も、それを見ている周囲の冒険者からも、異論はまったく出なかった。
みな、レベッカの知識量と的確な洞察力に舌を巻く思いだった。
冒険者以上に冒険者を知る受付嬢レベッカ。
彼女の戦略を聞くうち、困難だと思われたこの救出クエストも、きっとうまくいくという希望がその場に居合わせた全員の胸の内に高まっていった。
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