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Regret

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 あの時――本当の事を言わなければ。
 こんな事にはならなかったの?



「どうしたの? ナツ」
「あ、あああっん……や、もう、ゆ、ゆるしてっ……あっふぁぁ!」
「気持ちいいんだろう、俺が」
「次は僕で、いいよね」
「はあん、あんっ、やぁ、ぁぁ、だめ、ダメぇ……こんな、こんなっ!」

 私の気持ちを無視して、四本の手が私の体を這いまわる。
 ……そう、四本。
 私を犯すのは二人。
 こんなの――こんな事、許されない。ダメな事。
 本当なら大好きで大切な唯一の人“だけ”に許される行為を二人に許してる。
 いや許してるんじゃない、どんなに嫌がっても奪われ続けてる。
 気持ちよさに流されないように、私は抵抗し続ける。でも、その我慢も全て流されるほど、二人がかりの愛撫はずっと止まらない。口、胸、手、足、大事なところ……どんどんどんどん攻められて、私の理性は降伏しそうになっている。

「やぁ……め、て、許してっ……悪いの、私がわるいのぉ!」
 まともな声が出せない、言葉では拒否していても、声からはもう「降伏は目の前」だとばれているはずだ。
 体中に這いまわる快楽に抵抗するように、私は首をイヤイヤとふる。

 けれど。

「大丈夫だよ、ナツ。ナツは何も悪い事してないんだよ」

 ハンカチで目隠しをされていても、私の涙は止まらなくて。
 拭いきれずに溢れて頬を伝った滴を、そう言って優しく撫でる感触がある。
 奪うような手つきとは違う、温かい感触。
 それなのに、その感触も今の私には甘い誘惑に感じてしまう。

「そうだ、俺たちが勝手にお前を犯してるんだ、お前は何も悪くない」
「そうだよ、君は被害者なんだ……僕たちの」



 被害者は――どっち?



 事の始まりは、四年前。
 高校生の頃だった。

 幼馴染の あおいみどりに同時に告白された私。
 双子で顔は一緒でも、陰と陽ほどタイプの違う二人。
 蒼は物静かで、成績優秀。推薦で某有名大学の経済学部に。
 翠は快活で、スポーツ万能。サッカースポーツ推薦で体育大学に。
 そんなハイスペックな二人とは対照的に、なんのとりえもない私は近くの家政大学に推薦が決まった。受験のピリピリした空気も消えた頃、突然二人から言われた台詞。

「ずっとずっと好きだった、だからどちらか選んでほしい」

 二人に同時に真剣に告白されて、私は固まった。
 今まで三人で居る事が自然で、大事で、当たり前だったから。
 どちらかを選べ――だなんて、出来ないことだった。
 とっさに返事が出来なかった私の気持ちを考えてくれたのだろう。
 その時に返事を聞かなかった二人に甘えて、じっくりと数日考えた。
 悩みに悩んで、私は気が付いた。

 二人とも選べない程、好きだってことに。

 その気持ちは「ライク」ではなく「ラブ」で、普通そんな事許されない、普通に最低な二股だ。
 友達から言われた、男として好きだと自覚する基準、その男とエッチできるかどうか。
 他の男子とは「出来ない」と即答してしまうのに、二人だとどっちとも「出来る」と嫌悪感なく思ってしまう。

 ――決められない、同じほど、好き。

 どっちも手放したくない。
 自分がおかしな、ダメで我儘な子になってしまったようで愕然とした。
 そんな事考えちゃいけないのに。
 ありえない、答え。
 どっちも欲しいだなんて、普通じゃない。

 こんな自分に付き合わせる事なんてできないし、こんなふざけた答え、知られて二人に軽蔑されるのが怖かった。
 それで二人に「そんな風にはみれない、大事な幼なじみ」と、同時に断ったのだ。
 二人に申し訳なくて、苦しくて、悲しくて、そんな自分が恥ずかしくて。
 告白を断られた二人の方も、私と顔を合わせるのが気まずいのか、それとなく避けられ始めた。
 どうしようもなく、何もできないうちに、疎遠になっていった。

 この苦しみは、時が解決してくれる、そう信じていたのに。

 大学卒業後――偶然二人に会って、変わらない笑顔で挨拶されて。
 ああ、二人にはもうあの告白は過去になっちゃったんだな、と胸が痛むけど、これでよかったんだ、と思った。
 私の中ではあの出来事は、昨日の事のようにまだまだ消化出来てなかったけど、二人の事が好きだから。知られて嫌われるほうが怖かった。
 そのまま、久しぶりの再会だからと、飲まないか? と二人に誘われて宅飲みしようってなって、コンビニで色々買ってから、久しぶりに入った懐かしい蒼と碧の二人の部屋。
 学生の頃はごちゃごちゃした、まさに男の子の部屋って感じだった。主に碧の趣味が強く出た部屋。それが今ではオシャレで落ち着いたシンプルな部屋になってる。
 そこはもう、知っている男の子じゃなく見知らぬ男性の部屋になっていた。
 その雰囲気に少し、戸惑って入るのをためらった。けれどそんなの二人に失礼過ぎて、自分の自意識過剰に気づかれないように冷静を装った。
 自分だけ意識してるなんて、気づかれたくない。
 初めは久しぶりの再会で、告白の事なんかは意図的に触れずに近況報告をして、就職が決まったとか、何気ない話で盛り上がってた。
 まるでブランクなんかなかったかのように、告白前のあの頃に戻ったように、自然に会話が弾む。

 でも段々と、お酒がまわってくると、雲行きが怪しくなってきた。
 私に彼氏がいるのか、とか。
 二人は彼女が出来たのか、とか。

 そういう、恋愛の話題。

 どうやら二人には彼女がいたらしい。
 完全に、私の事は過去になったんだ。
 そんなこと、何年も経ったんだから当たり前で、そう望んでいたのに、ショックだった――けどそんな資格がない私は笑顔を取り繕うと、さらにお酒が進んだ。
 私の方は「彼氏いないよ」と正直に話した。
 二人の事が忘れられない私は、誰とも付き合えるはずがなかった。

「彼氏なんて、居たことないよ」

 何度か合コンにも誘われて行ってみたけれど、二人以上にピンとくる男子なんていなかった。久しぶりに会って改めて気が付く、二人とも素敵な人過ぎて、なんであの頃は、二人を意識しないで自然に付き合えてたんだろう……と。

 ――二人とも、好き。

 自分の中の大きな矛盾は、未だ昔と変わらずくすぶっている。
 答えなんて、ずっと出そうにない。
 ハイペースに飲んだお酒がまわっていたのか。私はもう時効だと気が大きくなって、馬鹿な事をぽろっとこぼした。

 ――今だから言える。二人が、好きだったよ、と。

 そう、こぼした時、私は二人の空気が変わった事なんて気付かなかった。
 酔ってふわふわした気持ちのままに止まらない。

 ――二人とも好きで選べなかったから、だからそんなのダメだから。

 だから――。

 ほとんど半分は、酔いつぶれてたと思う。
 夢かうつつか、現実離れした言葉は、その状態にふさわしく、素面では言えない告白。

「本当に?」

 頭の中に響く声はどっちのものか、私は愚かにも「うん」と答えた。
 
 ――二人とも好きな私っておかしいんだよね。
 だから、二人とも断ったの――――。
 二人と付き合うなんてダメな事だから。


 その言葉が――、二人を狂わせると知らずに。



 心地よい刺激に目を覚ませば、目前に広がるのは、万華鏡のように広がる幻想的な色とりどりの柄。暑くなった身体に、服は脱いでいるかのように空気の冷たさが気持ちいい。不思議な空間。
 まだはっきりとしないまどろみのなかで、胸をやわやわと揉まれ、背中を撫でられ、首筋に温かな柔らかさがはい周り、太股の内側もまるで腫れ物を触るような微かな感触。

 お酒の夢うつつで、えっちな夢でも見てる?

 このまどろみにずっと浸かっていたい。
 そうぼうっとしていたら、段々と声が聞こえてくる。

「はじめては、俺がもらっていいだろう?……お前の下手さじゃナツが辛いだろうし……。口と後ろはお前にやるから、おとなしく見とけ」
「だったら結婚するのは僕だろうね、収入も安定しているし」
「させるかよ、俺だってナツと結婚したい」
「子供が出来た方と……は無理だね。どっちの子供だって気にしないだろ、お前も」
「当たり前だ」

 双子なんだからDNA鑑定も出来やしないと、どちらともなく嗤う声。

 冗談のように交わされているのは、あまりの信じられない、耳を疑うような内容だった。
 この声が知ってる二人とはとても思えなかった。
 まるで別人のように知らない人の様で――訳が分からな過ぎて、不安が押し寄せて声が出てしまう。

「な、なに?」
「ああ起きたのか、ナツ」

 心地よい感触は夢じゃなく現実。
 目の前に不思議に広がるのは、多分目隠しに使われた色とりどりのハンカチの柄だってわかった。
 そして見えなくてもわかる、服を着てない下着だけの感覚に一気に我に返った。

「なに……をしてるの?」

 目隠しを取ろうと手を動かそうとするけれど、手を強くつかまれて、そして強引に手首を舐められる。
 ジワリと、しびれてこそばゆい感覚に「んっ」と吐息を漏らして手から力が抜けた。
 おかしい、ただ触られてるだけなのにゾクゾクしてる。
 お酒の酔いだけじゃなく、意識のない間にどれだけ体を弄ばれていたんだろう。
 びっくりするけれど不快じゃない、こんなのおかしいと思っていても、抵抗する間もなくじわじわと感じてしまう。
 そんな戸惑う私に二人は言った。

「ナツが決められないなら僕達が決めてあげようと思って」
「何を……言って、るの?」
「俺達はお前に狂ってるんだ……初めから」
「選べないというなら、どちらも選べばいい」
「それでナツが苦しむというのなら、僕達がそんな理性毎、奪ってあげる」
「俺達が二人でお前を共有することを決めたんだ――お前は悪くない」
「ナツは僕達に、無理矢理強要されてる被害者なんだから」

 ――そう言って、二人は私に逃げ道を作ってくれる。

 私の心の枷を外そうとする、狂った甘い提案。

「こんなの間違ってるよ、おかしいよ、変だよ……?」

 狂ってる歪んでる。
 そうなけなしの理性が警告する。
 これを踏み越えたら――もう、戻れない。

 ――だから、私は、抗う。
 抗わなきゃイケナイ。
 
「目隠しとって……」
「目隠しをするのはね、隠してしまいさえすれば、僕達は君にとって、たった一人になれるから」

 声がそっくりでも、どちらが話しているのかは長年の付き合いだからわかる。
 けど、身体をはい回る手はどちらがどちらかなんて分からない。

 見えないかぎりは――私にとっては彼らは一人。
 私が、望んだ結末。

 本当に被害者なのは――二人に犯されてる私?




 それとも私に狂わされた二人?




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