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第1.5話
しおりを挟む任務をひとつ終わらせてシャワーを浴びると、身体がすっきり軽くなったように感じた。
髪をふきながら、テーブルの上にあった紙に目が止まる。誕生日に年下の少女から贈られた手紙だ。間に合わないけれど何かあげたいから……とDear Ian,ではじまる手紙は、つたない英語で精いっぱいの気持ちがつづられている。
辞書をつかいながらむずかしい表情で手紙をかく少女が浮かんできて、おもわず笑みがこぼれた。
「……!」
電話の呼び出し音に眉をひそめ、彼は携帯をとった。なじみのある声が聞こえてきて、彼は不機嫌な態度で応じた。
『……なんの用だ』
『やあご機嫌だな、兄弟。用事がないと電話しちゃいけないのか?』
『おまえが何の用事なく電話してきたことがあったか?』
いつも丁寧な日本語をはなす彼は、母国語ではまったく印象が異なっていた。電話越しの相手にはそれが普通らしく、彼の不機嫌さそっちのけで話し続けた。
『で、そっちはどうだ。めずらしい色の子がいるって派遣されて、うまくやってるのか?』
『………』
『しかし冗談で〝色じかけで落としてみろ〟と言ったが、恋人扱いするとはヒドい男だな。
さすが伝説にたがわない黄金の舌の持ち主だ。──なあ、ガウェイン?』
その名で呼ばれて、彼は威嚇するようにこわばった声を出した。
『その名で、まだ冠位が与えられていない相手を呼んではいけないはずだ。かるがるしく口にするな』
『だがお前が冠位をもらうとしたら、この名前だろ』
〝ガウェイン〟とは円卓の騎士に由来する人物の名前だ。
聖騎士の組織では、ごく稀に才気あふれる騎士に〝冠位〟が与えられることがあった。授けられたとしても同時代に数名だけ。彼にはその名を与えられるだけの実力があった。
『おなじ時代に冠位をあたえられる騎士は引きつけあう──…だろ? その子だって、めずらしい色の持ち主だったからお前がわざわざ日本に派遣されたんだ。
かならず成果を持って帰れよ、イアン』
「……っ」
相手からの電話がプツリと切れ、イアンは苦々しげに携帯をソファに投げつけた。
──自分の役目ぐらいわかっている。日本支部から報告された、ある少女を観察してあわよくば才能を発揮させること。
そのために手段を選ぶなと、イアンは命じられていた。
<第2話に続く…>
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