Label-less 2

秋野小窓

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本編

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 ベッドの中、細い身体を抱きしめる。頭頂部にキスしながら、すぅっと香りを吸い込んだ。

「鹿賀さん」
「はい」

 胸に擦り寄る優太君。次の話を待ったが、「鹿賀さん」と再び名前を呼ばれた。

「どうしたんですか?」
「呼んだだけ」

 笑うと、優太君もえへへと笑う。可愛い。
 唇を掠め取ってから、いつものように言葉にして愛を伝えた。

「俺も……。あ」

 何かを思い出したような声に、抱きしめていた腕を緩める。
 もぞもぞと身じろぎをしてから、そうそう、と話を続けた。

「今日ね、恋人の話になって、めっちゃ焦ったんです。うっかり、鳩ちゃんも知ってる人だってわかるようなこと言っちゃって」
「おや、どんな話の流れでそんなことに?」

 優太君は今日の会話の内容を話してくれた。
 本人は、私とのことがバレなかったかということに気を取られているようだが……。

「優太君、それ……鳩貝さんは優太君のことが好きなんじゃないですか?」

 今日の約束も彼女からの誘いで。2人きりで出掛けて。その上、恋人がいるのか訊くなんて。
 あなたのことを狙っていますと言っているようなものだ。

「あははっ、ないですよ。なんなら嫌いって言われたし」
「……どうして嫌いなんて言われたんですか?」

 本当に嫌いなら、休日にわざわざ会おうなどということにはならないだろう。
 優太君の人当たりのよさ。加えて、先日社宅で見た2人の距離の近さからも、どう考えても嫌いなわけがない。
 どうやら鳩貝さんは素直になれないタイプらしい。その言葉も、好きの裏返しだろう。

 私の声に暗さを感じ取ったのか、フォローするように明るく言う。

「冗談だと思います。気にしてませんよ!」

 こちらが気にしているのは、そこではないのだが……。

 一体どんな文脈で嫌いと言われたのか気になるところではあるが、あまり根掘り葉掘り会話を共有させるのもよくないだろう。何でも把握したがるのは私の悪い癖だ。

「それならよかったです。今日は疲れたでしょう?ゆっくりおやすみ」

 ふわりと後頭部をひと撫でして、毛布を肩まで掛けてやる。安心したように瞼を伏せるのを見届けてから、枕元の明かりを消した。
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