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秋野小窓

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本編

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 予定どおり掃除を終え、社宅近くの蕎麦屋で軽く昼食を済ませてから部屋に戻った。
 14時。約束の時間に呼び鈴が鳴る。

「はーい」

 玄関のドアを開けると、見覚えのある顔。

「あれっ、鳩ちゃん!?」
「田牧君、お疲れー」

 同期の鳩貝はとがいサチ。会うのは久しぶりだが、肩のあたりで外向きにハネる髪型も、快活そうな笑顔も変わっていない。

「え、なんで?」
「知らなかったっけ。人事部に異動になったの」

 入社当初は俺と同じ営業の配属だった。と言っても部署はバラバラだったから、休職前にもほとんど会うことはなかったし、異動の話も初耳だ。

「知らなかったよ。じゃあ、今日の立ち合いの人事って……」
「そう。私」

 ニヤリと笑う。俺にとってはサプライズだったが、鳩貝は当然、今日退去するのが俺だと知っていてここに来たのだろう。

「こんにちは。失礼します」

 後ろから、不動産会社の名前が入ったジャケット姿の男性が顔を覗かせる。

「あ、こちら管理会社の大和田さんです」
「こんにちは。お世話になります」

 人事側の思わぬ人選に、玄関での話が長くなってしまった。上がってもらい、物件の状態を一緒に確認していく。

「こんにちは」

 室内で待機していた鹿賀さんも、にこやかに挨拶をしてくれた。のだが。

「ちょっと!」

 グイっと腕を掴まれ、鳩貝に耳打ちされる。

「誰あのイケメン!田牧君のお兄さん?」

 本人はコソコソ話しているつもりなのだろうが、勢いがすごい。絶対、俺以外にも聞こえていると思う。

「ああ、えっと……」

 圧倒されながら鹿賀さんに視線を送ると、ニコリと微笑んで。

「初めまして。鹿賀と申します。たまき君がルームシェアしている家の者です」
「そ、そう!ルームシェア、してる人」

 実態は、鹿賀さんの豪邸に俺が居候させてもらっているだけなんだけど。
 一応、この社宅を出ることになり、宙ぶらりんになった俺の住民票も鹿賀さんの家に移させてもらったから、形式的には住人で間違いない。
 
「そうだったんですね。人事の鳩貝です。引っ越しの手伝いまで来てくれるなんて、いい人だね」

 後半は俺に向かって言う。いい人だよ。めちゃくちゃ面倒見いいし。優しいし。

「田牧さん、すみません。この壁の傷は……」

 大和田さんに呼ばれ、立ち合い作業に戻る。

 大きな問題はなく、鍵を2本渡して退去手続きを完了した。

「お願いしたい書類があるんだけど、会社に寄ってもらうことできる?住所変更とか」
「あ、そっか」

 鳩貝に言われて鹿賀さんを振り返る。

「行ってらっしゃい。僕は車で待っていますよ」
「すみません。終わったら連絡するので、どこか出ていてもらっても大丈夫です」
「わかりました。少しドライブでもしてこようかな」

 俺に気を使わせないようにか、明るい表情で鹿賀さんが答える。
 階段を降り、建物から出たところで鹿賀さん、大和田さんと別れて、鳩貝と本社に向かった。


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