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「ただいまー」

 リンが買い物から帰ってきた。

「おかえり。ねえ、リンってさ」
「んー?」
「おふとんさん?」

 買い物袋から食材を取り出していたリンの手が止まる。

「え、ちょっと待って、オレあっくんのこともしかしてフォローしてる?」
「うん」
「どれ!?」

 さっき自分が呟いた「まじで名曲」のツイートを表示して見せる。

「え!サカナさん!?」
「何サカナさんって」

 俺の名前は「氷魚」で登録している。

「コオリサカナさん」
「ヒオって読むんだよ」
「え!ずっとサカナさんって呼んでたわ」

 笑うと腹が痛い。リンは本当に阿呆可愛いな。

「なんで氷魚?なの?」
「俺の苗字この間知ったろ。日置」
「あ、ヒオキだからヒオか!」

 読み方間違えてたらそりゃ気づかんわな。

「リンはなんでおふとんなの」

 おふとんさんはその名前のイメージから、なんとなくマシュマロボディのぽっちゃりおっとりした素朴な感じの人を想像していた。
 こんな派手な美人が出てくると思わないじゃないか。

「んー、好きだから」
「何それ」

 いかん、また腹の傷が痛む。

「オレもさ、苗字。大っ嫌いなんだけど、羽多っていうの」
「ハダ?」
「うん。羽多 凛太郎」

 あ、リンってリンタロウだったのか。初めて知った。

「羽が多いって書いて羽多。なんかさ、ふっかふかの羽毛布団ぽくない?」
「あはは、なるほどな」

 だから腹痛いって。

「そんな布団、おっさんに連れられてったホテルでしか使ったことないけど。なんとなくさ、幸せを形にしたらそういうふかふかの布団なんじゃないかと思ってて。オレの憧れ」

 なるほど。幸せの具現化のイメージは、分かる気がする。
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