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 曲の合間に、ふと左を見ると、静かに涙を流す青年がいた。そのあまりにも美しい横顔に、今思えば一目惚れしたのだと思う。

 歪んだギターの音。次の曲が始まる。前に視線を戻す。ライブでよくある派手な照明はこのバンドにはない。薄暗いステージ。ボーカルが語るように歌い出す。
 この人も、いじめを受けた経験者。俺と同じ。言葉にできなかった気持ちを歌ってくれる彼らが大好きだった。

 ライブに来たのは今日で3回目。いつも心の支えにしていた曲を生で聴けるのは本当に嬉しい。新曲だけでなく、過去の定番曲も歌ってくれる。この曲は8年くらい前、まだ高校生だった頃に初めて出会い、何度も繰り返し聴いた思い出の歌だ。

 定番曲が流れると、他のバンドだったらファンが歓声を上げたり、拳を突き上げたりするんだろう。ここのファンは違う。ただ、静かに聴く。曲に向き合いながら。自分に向き合いながら。
 何度も死にたいと思った。多分、ここにいる人たちは皆同じ。こんな世界で生きたいだなんて思えなかった。でも、今、この音楽を聴いているうちは、少しだけ生きていてよかったと思える瞬間。

 歌が終わる。ギターが生み出すノイズが空間に充満し、浮遊感に包まれたまま次の曲に。これも懐かしい曲だ。

 就職した今となっては、いじめと共にあった学生時代は過ぎ去った。でも傷は決して消えないよな、そう歌ってくれる。
 これでもかなり生きやすくなった。働いて人の役に立てることは、大嫌いな自分の存在を多少なりとも肯定することにつながる。あの頃を思い出して辛くなることはあるが、曲を聴くだけで無条件に涙が流れるようなことはなくなった。

 ーー隣の彼は。今も何か辛い思いを抱えているんだろうか。

 ライブが終わり、フロアが明るくなっても、涙を拭くでもなくじっとステージを見ている。

「あの、」

 余計なお世話だろうが、ハンカチを差し出す。
 ふ、とこちらを向いたその顔は、儚げで、恐ろしく美しい。

「よかったら、使ってください」
「……え?あ、ああ………」

 頬を手の甲で拭い、ハンカチを受け取る。気が動転しているんだろうか。ハンカチで拭けばいいのに。
 一度渡したハンカチを奪い返し、目元にそっと当てる。長いまつ毛が震えた。

「あ、ごめん……」

 再びハンカチを受け取り、自分で涙を拭きはじめる。よかった。
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