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夏風邪
4:正二郎side
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スゥスゥと寝息が聞こえはじめたことを確認し、ベッドに背を向けて机を借りる。
育海にはもう、俺の手は必要ないのかもしれない。俺である必然性なんてきっとない。今までは一番近くにいたから、その役割が巡ってきたわけで。
それならまた、近くに行くまでだ。
持参したバッグから書類を取り出す。履歴書なんて、何年振りに書くだろう。
馬鹿と言われてもいい。少しでも長く、少しでも近くにいられるなら。
間違えないように卒業年を調べながら欄を埋めておいた下書きに、ボールペンで清書していく。インクが乾けば、消しゴムをかけて出来上がりだ。
育海はようやく薬が効いてきたのか、うなされることもなくぐっすりと眠っている。無垢な寝顔。ホッとした気持ちで眺めていると、部屋に差し込む日の角度が時間の経過を告げる。
まだ起きる気配はない。ボールペンしか持ってこなかったが、そこは気心知れた育海の部屋。
「消しゴム借りるぞー」
聞いていないだろうに、一応持ち主に声をかけて、学習机の最上段にある浅い抽斗を開ける。トレイに雑然と放り込まれている筆記用具。消しゴムを探そうとトレイを持ち上げた。
下に隠れていた紙切れが目に留まる。何だろう。やや厚手のそれを裏返す。
現れたのは、自分の写真だった。
ーーえ?俺……?
集合写真や、何かの記念写真ではない。俺が一人で写っている写真。
それも、かなり前のものだ。おそらく、社会人になったばかりの頃だろう。
いつ、どのような場面で撮られた写真かまったく思い出せない。それに、なぜこんなところに隠すみたいにして、俺の写真があるんだろうか。
これではまるで……。
昨日、喫茶店で撮った育海の写真をデレデレと眺めていた自分の挙動を思い出す。
「育……?」
振り返り、名前を呼ぶ。
見慣れたはずの寝顔が、俺の知らない育海に見えた。
~~ 夏風邪 おしまい ~~
育海にはもう、俺の手は必要ないのかもしれない。俺である必然性なんてきっとない。今までは一番近くにいたから、その役割が巡ってきたわけで。
それならまた、近くに行くまでだ。
持参したバッグから書類を取り出す。履歴書なんて、何年振りに書くだろう。
馬鹿と言われてもいい。少しでも長く、少しでも近くにいられるなら。
間違えないように卒業年を調べながら欄を埋めておいた下書きに、ボールペンで清書していく。インクが乾けば、消しゴムをかけて出来上がりだ。
育海はようやく薬が効いてきたのか、うなされることもなくぐっすりと眠っている。無垢な寝顔。ホッとした気持ちで眺めていると、部屋に差し込む日の角度が時間の経過を告げる。
まだ起きる気配はない。ボールペンしか持ってこなかったが、そこは気心知れた育海の部屋。
「消しゴム借りるぞー」
聞いていないだろうに、一応持ち主に声をかけて、学習机の最上段にある浅い抽斗を開ける。トレイに雑然と放り込まれている筆記用具。消しゴムを探そうとトレイを持ち上げた。
下に隠れていた紙切れが目に留まる。何だろう。やや厚手のそれを裏返す。
現れたのは、自分の写真だった。
ーーえ?俺……?
集合写真や、何かの記念写真ではない。俺が一人で写っている写真。
それも、かなり前のものだ。おそらく、社会人になったばかりの頃だろう。
いつ、どのような場面で撮られた写真かまったく思い出せない。それに、なぜこんなところに隠すみたいにして、俺の写真があるんだろうか。
これではまるで……。
昨日、喫茶店で撮った育海の写真をデレデレと眺めていた自分の挙動を思い出す。
「育……?」
振り返り、名前を呼ぶ。
見慣れたはずの寝顔が、俺の知らない育海に見えた。
~~ 夏風邪 おしまい ~~
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