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クリームソーダと夕立
2:正二郎side
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育海がトイレに立った隙に、先ほど撮った写真を眺める。不意打ちで撮った自然な表情。そして、思いがけず撮れたサービスショット。
さすが今の子は慣れている。どうすれば自分が魅力的に写るかわかっているのだろう。計算しつくされた笑顔が、憎たらしいほど可愛い。
「あ、ショージローじゃん」
反射的にスマホを伏せて顔を上げる。
「何?デート?」
クリームソーダの空の器を見てそう訊いてきたのがマミ。
「違うよ。久しぶりだね。元気?」
「あ……うん。正二郎くんも、元気そうだね」
控え目に答えるのがユカ。
「なんでショージローがこんなところにいるんだよ」
「俺、この近くだもん」
「そういえばそう、だったね。ご家族……とか?お邪魔してごめんね」
「いや、大丈夫。家族っていうか、育海だよ。今トイレ行ってる」
素直に答える俺に、マミが「ゲッ」と汚い声を上げる。
「まだ子守りしてんの?」
「子守りって」
育海はもう子どもじゃない。訂正しようとしたところで、マミに被せられる。
「そのせいでユカがどんだけ寂しい思いしたかアンタわかってる?」
「ちょっと、マミ……」
ぐうの音も出ない。付き合っていた当時から、俺の予定はユカよりも育海優先だったから。
「あれ?もしかして……イクミくん?」
ユカの視線の先。育海が立っていた。
「こんちは。正くんの友だち?」
「あ、うん。えっと、同級生」
マミの言葉を聞かれただろうか。しどろもどろになって答える。
「あのな、育……」
「俺、先帰るね。ご馳走様」
合わない視線。こちらを見ることなく、店から出て行った。
「待って!」
追いたいが、会計をしなければならない。伝票を手に席を立つ。
オロオロと見守るユカ。変わらず敵意を込めた視線を送るマミ。二人に向かって口を開く。
「見ての通り、育海はもう子どもじゃないよ。子守りとか、そういうんじゃない。俺が一緒にいたいからいるんだ」
「その言葉、あたしらじゃなくてあの子に言った方がいいんじゃない?」
「余計なお世話だよ」
元凶のマミに言われてもな。一言であしらってレジに向かう。
急いで支払いを済ませて外に出る。あんなに晴れていた空は、重たい雲に覆われている。冷たい風。
育海の姿はない。走れば追いつけるだろうか。
さすが今の子は慣れている。どうすれば自分が魅力的に写るかわかっているのだろう。計算しつくされた笑顔が、憎たらしいほど可愛い。
「あ、ショージローじゃん」
反射的にスマホを伏せて顔を上げる。
「何?デート?」
クリームソーダの空の器を見てそう訊いてきたのがマミ。
「違うよ。久しぶりだね。元気?」
「あ……うん。正二郎くんも、元気そうだね」
控え目に答えるのがユカ。
「なんでショージローがこんなところにいるんだよ」
「俺、この近くだもん」
「そういえばそう、だったね。ご家族……とか?お邪魔してごめんね」
「いや、大丈夫。家族っていうか、育海だよ。今トイレ行ってる」
素直に答える俺に、マミが「ゲッ」と汚い声を上げる。
「まだ子守りしてんの?」
「子守りって」
育海はもう子どもじゃない。訂正しようとしたところで、マミに被せられる。
「そのせいでユカがどんだけ寂しい思いしたかアンタわかってる?」
「ちょっと、マミ……」
ぐうの音も出ない。付き合っていた当時から、俺の予定はユカよりも育海優先だったから。
「あれ?もしかして……イクミくん?」
ユカの視線の先。育海が立っていた。
「こんちは。正くんの友だち?」
「あ、うん。えっと、同級生」
マミの言葉を聞かれただろうか。しどろもどろになって答える。
「あのな、育……」
「俺、先帰るね。ご馳走様」
合わない視線。こちらを見ることなく、店から出て行った。
「待って!」
追いたいが、会計をしなければならない。伝票を手に席を立つ。
オロオロと見守るユカ。変わらず敵意を込めた視線を送るマミ。二人に向かって口を開く。
「見ての通り、育海はもう子どもじゃないよ。子守りとか、そういうんじゃない。俺が一緒にいたいからいるんだ」
「その言葉、あたしらじゃなくてあの子に言った方がいいんじゃない?」
「余計なお世話だよ」
元凶のマミに言われてもな。一言であしらってレジに向かう。
急いで支払いを済ませて外に出る。あんなに晴れていた空は、重たい雲に覆われている。冷たい風。
育海の姿はない。走れば追いつけるだろうか。
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