あの夏の影

秋野小窓

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夏祭り

1:育海side

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 ドン、ドドン。微かに聞こえる祭囃子。真夏の日差しは夕刻になってもしぶとく照りつける。

 爽やかなブルーのシャツ。しゃんと伸ばした背中。
 待って、と言わなくても振り返る。ほら。

「どしたの?嬉しそうにして」
「いや」

 そう言うしょうくんだって笑顔だ。なんだかこそばゆい。

「屋台奢ってくれるんでしょ?社会人」
「いいよ。3つだけね」
「3つかあ、選べるかな」

 鮮やかな屋台が並ぶ通りを進む。たこ焼き。じゃがバター。わたあめにあんず飴。
 発電機の音。独特の匂い。

いく。スーパーボールすくいあるよ」
「いらんわ」
「そう?帰りになくして大泣きしてたのに?」
「いつの話だよ」

 小学生の頃、何度か正くんに連れてきてもらった。俺は覚えていないが、そんな年もあったのだろう。
 俺が覚えているのは。

「足痛くて泣いたことしか覚えてない」
「あはは。あったね。浴衣か甚平着たときだよね」
「そう」

 慣れない下駄なんて履いたものだから。屋台や花火に夢中になっている間は我慢できたが、正くんに言われてベロっと皮が剥けているのを見た瞬間、急に痛みを自覚して泣いてしまった。

「おんぶして帰ったんだよね」
「うん」
「今日もおぶってあげようか」
「は?」

 広い背中にしがみついて帰ったあの日。もう一つ自覚したもの。
 いつも優しい隣のお兄ちゃんは、あれからずっと俺の好きな人。
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