ひとりで生きたいわけじゃない

【1】出会い

6:直居side

　あれから例のお客さんとはすっかり顔馴染みになり、会うたびにちょっとした雑談を交わすようになっていた。
　最初に来店した日、近藤さんが言ってた“傲慢”なところなんてちっとも感じない。よく忙しそうにはしているし、疲れた顔はしているけど、普通にいい人なんじゃないかと思う。

　あのあとリーダーの林さんから、こっそり教えてもらった。
　近藤さんが悪態ついていたのは、どうやら新卒のときに三嶺を受けようとしたらしいのだ。でも、ESで落とされて、説明会にすら参加できなかったんだって。
　就職が決まらずに近藤さんが今フリーターをやっているのは何も三嶺のせいじゃないはずなのに、どうしても目の敵にしたくなってしまうらしい。
　コンちゃん本人には言わないでね、と林さんは笑っていたけど。

　僕だって他人事じゃない。就職どこにも決まらなかったらどうしよう、という焦りを既に感じている。
　早い人は1年からインターンにも参加しているし、僕もそろそろ考えないと…。

　さて、何から始めるか……と途方に暮れていた矢先、大学の友人の渡辺から誘いを受けた。

「6月に合説行かない？2年でも企業研究目的で参加していいって」

　合説ーー合同企業説明会は、通常就活生向けに開催される。ただ最近はインターンも増えていて、プレ就活生でも参加できるイベントも増えているらしい。
　持つべきものは意識が高い友人だ…！ひとりでは参加する勇気もなかっただろうが、渡辺が一緒なら怖くない。

　入学式以来着てなかったスーツを引っぱり出し、ドキドキしながらその日を待った。