思惑交錯チョコレート

秋野小窓

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<ケイside>

 今でも信じられない。休日、俺だけのために、小松がこうして時間を取って会ってくれるなんて。
 隣で大きく伸びをして立ち上がる。バケツの中のポップコーンはいつの間にか空になっていた。あの量、本当に食べ切ったんだな。

「行くか」
「あ、うん」

 マスクを付け直していると、俺のドリンクのゴミまで一緒に持ってくれる。自然なリードに、人付き合いの経験値の差を見せつけられている気がして申し訳ない。

「いやー、まさかアイツが味方だったとはなあ」
「ね。前作では敵だったキャラだよね?」
「そうそう。でももしかしたら前から伏線張られてたりして」

 映画の余韻を引きずるように、小松はいつにも増して饒舌に見えた。俺も、ドキドキする胸を映画のせいにする。

「見返したくなったなあ。今度一緒に観るか!」
「いいね。……あれ?こっち?」

 元きたフロアに戻らず、裏手の非常階段に向かう足。
 向こうじゃないの、と言おうと人差し指を立てた手を、小松が捕える。

「こっち」

 間違えていないのならいいんだ。だからもう、手を離してくれていいのに。
 掴まれた手首が熱い。

「上に何かあるの?」
「いいから」

 引っ張られるままに階段を上る。息が切れてきた。

「こまっ、ゆーじ、ゆっくり……!」

 ギブアップ!と思ったところで、上り切ったらしい。どこに繋がっているのか、鉄製の重そうな扉があるだけだ。

「はぁ、ここ?……わっ」

 ドアノブに手をかけようとしたら、今度は後ろに引っ張られた。頭を打ったはずが痛くない。振り返ろうとして、すぐ後ろにあるのが壁ではなく小松の肩だったことに気づく。

「ゆっ、えっ!」
「ケイ」

 くるりと体を反転させられ、小松の顔が近づいてくる。まるであの、エレベーターの中での出来事のように。
 あのときと違うのは、いつの間にかマスクが小松の手に奪われてしまっていることと、鼻先が触れそうになっても小松の接近が止まらないことだ。

「待っ……!」

 このままだと唇が触れてしまう。慌てて首を逸らして、両手でブロックした。
 こんなの、まるでキスみたいじゃないか。

「ダメ?」
「なっ、なっ、何が……っ!?」

 右掌、小指の付け根のあたりに温かい感触。びっくりして見ると、伏せた目を上げた小松と視線が合う。
 固まったままの俺の右手を小松が取って、もう一度掌に顔を近づける。今度は目を合わせたまま、ちゅ、と手にキスをされた。さっきと同じ感触。

 何が起きたのかじわじわと理解して、顔から火が吹きそうになった。

「なに、なんっ、えっ!?」
「テンパりすぎ。騒ぐと人来ちゃうよ」

 しーっと顔の前で人差し指を立てる。そうだよ、ここ商業施設の中だよ!

「いや、シーじゃないから!こんなところで何して……!」
「ここじゃなければいい?」
「う……ぁ…………」

 大好きな小松の笑顔に、俺が勝てるはずもないのだった。
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