思惑交錯チョコレート

秋野小窓

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<勇至side>

 自分でも、なぜこんなにムカムカするのか分からない。

 成田の気持ちを確かめたくて、会いにきた。り花のアドバイスどおり、きちんと顔を見て話したら、付き合えることになったわけだが。

 親戚ではないというあの女性が、一体誰なのか。成田とどういう関係なのか。返答を聞いても尚、判然としなかった。
 友達じゃないなら、何なんだ?
 あんな親しそうに、下の名前で呼び合って。

 ああ、呼び方が不満だったのか、俺……なんて思って。
 あれ?そういえば成田、俺の下の名前知ってるかな、と不安になって。
 でも、すんなりと「勇至」と呼んでくれたから、少しだけ胸のモヤモヤが晴れた。

「ケイ」
「な、何?」
「今度、遊びに行こうぜ。バイト休みの日、あるだろ?」

 考えてみれば、成田のこと、あまり知らない。どんな交友関係があって、他の人の前ではどんな風に笑うのか。
 休みの日はどこで何をしているのか。4月からの進路だって。

 俺は、もっと成田と話したい。たくさんの時間を一緒に過ごしたい。

「あ、遊びって、どこ……?」
「んー、テーマパークとか?」

 デートの定番。女の子はみんな喜んだ。
 だが、成田からは好意的な反応は返ってこなかった。

「えっと……ごめん……」
「嫌いか?」
「いや、今、塾生もみんな神経質になってる時期だし、人混みはちょっと」

 マスクの位置を直しながら言う。
 そうか、それで今でもずっとマスクをしているのか。

「分かった。じゃあ、どこならいい?映画とかは?」
「あ、うん。映画館は大丈夫、かな」
「よかった!約束な」

 話しながら歩いているうちに、目的地に着いてしまったらしい。

「ここ?」
「うん。送ってくれてありがとう」

 成田の家は、3階建のアパートだった。
 実家暮らし……だったよな?

 一瞬違和感を覚えたが、自分の環境が当たり前だと思ってしまうのは俺のよくないところだ。考えなしに疑問を口にしようとして、思いとどまった。

「じゃあ、また連絡する。休みの日教えてな」
「帰り気をつけてね」
「サンキュ。おやすみ、ケイ」
「おっおやすみっ!……勇至」

 モジモジしながら俺の名を呼ぶ姿が可愛くて、機嫌をよくして自転車にまたがる。
 うん、やっぱりいいな。

 2月の冷たい夜風が心地よい。急いでいるわけでもないのに、意味もなく立ち漕ぎをして帰った。
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