30 / 36
6-3
しおりを挟む
<勇至side>
自分でも、なぜこんなにムカムカするのか分からない。
成田の気持ちを確かめたくて、会いにきた。り花のアドバイスどおり、きちんと顔を見て話したら、付き合えることになったわけだが。
親戚ではないというあの女性が、一体誰なのか。成田とどういう関係なのか。返答を聞いても尚、判然としなかった。
友達じゃないなら、何なんだ?
あんな親しそうに、下の名前で呼び合って。
ああ、呼び方が不満だったのか、俺……なんて思って。
あれ?そういえば成田、俺の下の名前知ってるかな、と不安になって。
でも、すんなりと「勇至」と呼んでくれたから、少しだけ胸のモヤモヤが晴れた。
「ケイ」
「な、何?」
「今度、遊びに行こうぜ。バイト休みの日、あるだろ?」
考えてみれば、成田のこと、あまり知らない。どんな交友関係があって、他の人の前ではどんな風に笑うのか。
休みの日はどこで何をしているのか。4月からの進路だって。
俺は、もっと成田と話したい。たくさんの時間を一緒に過ごしたい。
「あ、遊びって、どこ……?」
「んー、テーマパークとか?」
デートの定番。女の子はみんな喜んだ。
だが、成田からは好意的な反応は返ってこなかった。
「えっと……ごめん……」
「嫌いか?」
「いや、今、塾生もみんな神経質になってる時期だし、人混みはちょっと」
マスクの位置を直しながら言う。
そうか、それで今でもずっとマスクをしているのか。
「分かった。じゃあ、どこならいい?映画とかは?」
「あ、うん。映画館は大丈夫、かな」
「よかった!約束な」
話しながら歩いているうちに、目的地に着いてしまったらしい。
「ここ?」
「うん。送ってくれてありがとう」
成田の家は、3階建のアパートだった。
実家暮らし……だったよな?
一瞬違和感を覚えたが、自分の環境が当たり前だと思ってしまうのは俺のよくないところだ。考えなしに疑問を口にしようとして、思いとどまった。
「じゃあ、また連絡する。休みの日教えてな」
「帰り気をつけてね」
「サンキュ。おやすみ、ケイ」
「おっおやすみっ!……勇至」
モジモジしながら俺の名を呼ぶ姿が可愛くて、機嫌をよくして自転車にまたがる。
うん、やっぱりいいな。
2月の冷たい夜風が心地よい。急いでいるわけでもないのに、意味もなく立ち漕ぎをして帰った。
自分でも、なぜこんなにムカムカするのか分からない。
成田の気持ちを確かめたくて、会いにきた。り花のアドバイスどおり、きちんと顔を見て話したら、付き合えることになったわけだが。
親戚ではないというあの女性が、一体誰なのか。成田とどういう関係なのか。返答を聞いても尚、判然としなかった。
友達じゃないなら、何なんだ?
あんな親しそうに、下の名前で呼び合って。
ああ、呼び方が不満だったのか、俺……なんて思って。
あれ?そういえば成田、俺の下の名前知ってるかな、と不安になって。
でも、すんなりと「勇至」と呼んでくれたから、少しだけ胸のモヤモヤが晴れた。
「ケイ」
「な、何?」
「今度、遊びに行こうぜ。バイト休みの日、あるだろ?」
考えてみれば、成田のこと、あまり知らない。どんな交友関係があって、他の人の前ではどんな風に笑うのか。
休みの日はどこで何をしているのか。4月からの進路だって。
俺は、もっと成田と話したい。たくさんの時間を一緒に過ごしたい。
「あ、遊びって、どこ……?」
「んー、テーマパークとか?」
デートの定番。女の子はみんな喜んだ。
だが、成田からは好意的な反応は返ってこなかった。
「えっと……ごめん……」
「嫌いか?」
「いや、今、塾生もみんな神経質になってる時期だし、人混みはちょっと」
マスクの位置を直しながら言う。
そうか、それで今でもずっとマスクをしているのか。
「分かった。じゃあ、どこならいい?映画とかは?」
「あ、うん。映画館は大丈夫、かな」
「よかった!約束な」
話しながら歩いているうちに、目的地に着いてしまったらしい。
「ここ?」
「うん。送ってくれてありがとう」
成田の家は、3階建のアパートだった。
実家暮らし……だったよな?
一瞬違和感を覚えたが、自分の環境が当たり前だと思ってしまうのは俺のよくないところだ。考えなしに疑問を口にしようとして、思いとどまった。
「じゃあ、また連絡する。休みの日教えてな」
「帰り気をつけてね」
「サンキュ。おやすみ、ケイ」
「おっおやすみっ!……勇至」
モジモジしながら俺の名を呼ぶ姿が可愛くて、機嫌をよくして自転車にまたがる。
うん、やっぱりいいな。
2月の冷たい夜風が心地よい。急いでいるわけでもないのに、意味もなく立ち漕ぎをして帰った。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
【BL】はるおみ先輩はトコトン押しに弱い!
三崎こはく
BL
サラリーマンの赤根春臣(あかね はるおみ)は、決断力がなく人生流されがち。仕事はへっぽこ、飲み会では酔い潰れてばかり、
果ては29歳の誕生日に彼女にフラれてしまうというダメっぷり。
ある飲み会の夜。酔っ払った春臣はイケメンの後輩・白浜律希(しらはま りつき)と身体の関係を持ってしまう。
大変なことをしてしまったと焦る春臣。
しかしその夜以降、律希はやたらグイグイ来るように――?
イケメンワンコ後輩×押しに弱いダメリーマン★☆軽快オフィスラブ♪
※別サイトにも投稿しています
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。
その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。
その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。
早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。
乃木(18)普通の高校三年生。
波田野(17)早坂の友人。
蓑島(17)早坂の友人。
石井(18)乃木の友人。
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる