思惑交錯チョコレート

秋野小窓

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 いつもの帰り道。隣には、自転車を押して歩く小松。
 自分の身に何が起きたのか、まだ実感が湧かない。しかし、家まで送っていくと言い、この男が隣を歩いているのは、俺が付き合うと返事をしたからなのだろう。

「そういえば、結局あの人は何だったんだ?」
「あの人?」
「あの、女の人」

 ああ。トーコさんのことか。

「親戚?」
「ううん。ホントは成田じゃないし」
「そうなの!?」

 小松の驚きようにこちらまでびっくりして、少し笑う。
 それもそうか。まだ何も説明していなかったんだから。

「大学の友達?」
「いや、友達っていうか……あ、大学の人でもなくて」

 友達と呼んでいいのかも分からない。この関係を何と伝えればよいのか。

「俺の背中を押してくれた人、かな?」

 そうとしか言いようがない。チョコを売ってくれた人、と言っても、トーコさんが作ったチョコではないしな。
 一度目は、4年前。小松にチョコを渡すかどうか迷っていたとき。
 そして、今回も。逃げて誤魔化すことしか考えていなかった俺が、今こうして小松の隣を歩けているのは、間違いなくトーコさんがいてくれたからだ。

「ふーん……?それにしても、なんであの人が俺にチョコ渡したなんて言ってきたんだ?」
「ああ、それは、俺がそういうことにしてほしいってお願いしたから」
「だから、なんでだよ」
「お前にバレたくなかったから!俺がトーコさんに頼んで、小松に声かけるようにお願いしたんだ」

 そのおかげで一時はややこしいことになってしまったが、こういう関係に落ち着いたのだから、俺としては結果オーライだ。
 しかし、小松としては騙されたような気持ちになったのだろう。隣からそこはかとない不機嫌オーラが漂ってくる。

「その……嘘つくみたいになってごめんな?」
「いいけど」

 けど、なんなんだ。
 謝罪が足りないのか、気まずい空気が一向にほどけない。

「ごめん。俺、自分のことしか考えてなかった」
「だからいいって」
「でも、小松……」

 こんな風に苛立ちを露わにする小松を見るのは初めてで、どうしたらいいか分からなくなる。
 さっきまでの浮ついた気持ちが嘘のように萎んでいく。

「あの人は名前で呼んで、俺は『小松』かよ?」
「え……あ……ゆう、じ?」
「おう」

 ニカっと満足そうに笑って、自転車のハンドルを持ったまま肘で小突いてくる。

 な、な、何なんだこいつ……!
 自分よりトーコさんの方が親しそうに見えてイライラしてたってこと!?

「し……心臓が、もたない……」

 俺、無自覚なこいつに殺されるかもしれない。
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