思惑交錯チョコレート

秋野小窓

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<勇至side>

 そういうつもりじゃない。成田の言葉に頭を抱える。
 好きな人と付き合えたら嬉しいものじゃないのか?

 今までの恋愛はいつも、こうやって始まった。相手から告白されて、そのとき初めて話す子もいたけど、それでもOKすると皆一様に喜んでくれた。
 付き合い始める時点で好きかと言われるとそうでもないが、付き合ううちに相手を知って、好きになる。……まあ、俺が好きになる頃にはボロが出て、向こうから振られるところまでがいつものパターンなんだけどさ。

 外の空気が吸いたくて窓を開ける。自室のドアがノックされた。り花だ。

「通話終わった?」
「なんだ、聞こえてたのか」

 そんなにうるさくしたつもりはなかったが。勉強の邪魔をしてしまったなら申し訳ない。

「内容までは聞こえないけどね。成田先生?」
「ああ。俺はOKしたんだけど、待ってくれって言われちゃったよ」

 頭を掻きながら言うと、じっとりとした目で責められる。

「今度は何言ったのよ」
「それが自覚できたら困ってないっつーの!」

 うがッと吠えてから、窓を開けていたことを思い出す。近所迷惑だ。開けたばかりの窓を静かに閉めた。

「まあ、かなり時間も経ってるわけだしね。まだ好きって言ってもらえただけで奇跡みたいじゃん」
「そうか?」
「4年だっけ?人の気持ちが変わるには十分すぎる時間でしょ」

 気持ちが変わる……?
 俺の心を読んだように、り花が続けた。

「あのさ、まさか1回好きになってくれた人はずーっと自分のことを好きだとか馬鹿なこと考えてないよね?」
「ち、違うのか?」

 はあ、と大袈裟な溜め息。

「当たり前でしょ?新しい出会いもあっただろうし、その間に兄貴の面影なんてすっかり薄れてただろうし」
「嫌われることしてなくても?」
「離れていればそれだけで冷めるもんよ。普通はね」
「いや、でも、俺のこと好きだって……」

 成田に言われた言葉を必死で思い出す。好きって言われたよな?

「今でも変わらず好きだって言われた?まだ好きだけどそこまで気持ち盛り上がってないってことない?」
「ええと、好きだって言われて……チョコはそういう意味だからって」

 出た。また軽蔑するようなじっとりとした半目。

「チョコはそういう意味って、そのチョコもらったのはいつの話よ?今も好きか聞いてないの?」
「……!成田に聞いてみる!」

 メッセージを送ろうとスマホを起動させたが、「ちょっと待った」と奪われてしまった。

「何すんだよ」
「メッセージで訊く気?文字で成田先生の気持ちちゃんと聞けるの?」
「そりゃ……」

 聞けるだろ、と言いかけて気づいた。YES or NOの簡単な返事さえ返ってこないと嘆いていたのはどこのどいつだ。

「兄貴には人の心を敏感に察するなんて無理なんだからさ、そういう大事なことは顔見て話した方がいいんじゃないの?電話やメッ……」
「そうか!分かった!」
「バカ兄ィ、人の話は最後まで……」
「り花!サンキューな!」

 そうだよ。顔見て話さないと。
 妹の手からスマホを奪い返してベッドにダイブした。
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