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しおりを挟むバイトを終えて、訳も分からぬまま小松にメッセージを送る。トーコさんからも状況確認のメッセージが届いていたが、何と返せばよいか分からずまだ返事ができていない。
何を言われるんだろうか。エレベーターの中でドキドキしながらトーク画面を見ていたら、既読がついてすぐ着信画面に切り替わった。慌ててスマホを取り落としそうになる。
1階に着いたときには着信を告げるバイブは止まっていて、「まだ塾?」と新着メッセージ。ビルを出てから小松に掛け直した。
「おう、お疲れ!」
「うん、ありがとう。電話、何だった?」
「いや、何ってことないけどさ。今帰り?」
用件を聞いてもはぐらかされてしまう。何なんだ本当に。
「……そうだけど」
「歩き?」
「うん。もうバス終わってるからね」
「どれくらいかかる?」
「んー、でも20分くらいだよ」
「じゃあその間話そ」
「……」
「成田?」
他愛もない会話。こんな中身のない話をするために電話してきたとは思えず、訝しさに押し黙る。
「あれ?電波悪いのかな。もしもーし」
「……聞こえてる」
「よかった。そういや今日、大丈夫だったか?」
「何が」
「バイト。遅刻しなかった?」
「ああ、うん、平気」
お手洗いで顔を洗って、いつものように眼鏡をかければ、少しくらい泣いた顔でも誰も気づかなかっただろう。
その後も小松は次々とどうでもいい質問を繰り返した。教えている教科に、いつからバイトしていたのか。あの先生はまだいるのか。他に知り合いで講師をしている人はいるか。
小松からは、同学年の仲間の動向を聞かされる。
「でさ、三沢も同じファミレスでバイトしてたことが分かって、謎に盛り上がったよ」
俺からしたら、小松のこの電話の方が謎だよ。
「成田?なんか元気ないか?」
「別に、そんなことないけど」
「そっか、疲れてるよな。今まで勉強教えてたんだもんな」
ウンウン、と一人で納得しているのが電話の向こうから伝わってくる。
そういうことではないんだが。
「もうすぐ家?」
「あー、うん、もうちょい」
「帰ったら風呂入ってあったかくしろよ」
「うん」
「じゃあな」
「え!待ってよ、切るの?」
深夜の住宅街には相応しくない声を上げそうになり、すぐにトーンを落とした。こんなとりとめのない会話を15分以上していて、唐突に終わると思わなかった。まったく意味が分からない。
「はは。いいよ、まだ繋いどく?」
「いや、その、何か話があったんじゃないのか?小松の目的が分からないんだけど」
噛み合わなくて、単刀直入に問いただす。
「目的って、こうやって話すのが目的だけど?」
「え?なんで?」
「なんでって……そういうもんじゃないのか?」
そういうもんって、どういうもん!?
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