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<ケイside>
小松にバレているとは思わなかった。
だって、全然態度も変わらなかったし。最初から分かっていたなら、「これお前だろ?」って確かめたくならないか。
今だって、さも当たり前のように、チョコを俺からだと思っていたと爆弾発言を投下していった。
そんな小松の様子を見ていたら、あのときなぜ告白しようと心に決めたのか、ふと思い出してしまった。
こいつは絶対に俺を笑わない。茶化したり、馬鹿にしたりしないって、そう思ったから。
あの頃、声を出すのが怖かった。授業で当てられて、口頭で答えるときの恐怖。答えは合っているはずなのに、なんでクスクスと笑われないといけないのか。なんでそんな顔で俺を見るんだ、と。
塾に通い始めた頃だって、先生以外とはしゃべりたくなかった。なのに、俺がどんなに素っ気ない返事をしても、小松だけは懲りずに何度でも絡んできた。少しずつしゃべるようになって、俺が発音を間違えたと自分で気づいたときも、小松はそのことに何も触れず、話の内容だけを拾って会話してくれたんだ。
そういうところに救われて、惹かれた。小松と再会してほんの少ししゃべっただけなのに、当時の感情がブワッと蘇ってきた。
カフェを出ていく小松の背中を見送りながら、そんなことを考えていた。あいつ相手に、俺は何を怖がっていたんだろうと。
トーコさんは何かを俺に言いかけていたけれど、俺が立ち上がって「ごめん、行ってくる」と告げたら、安心したように笑って送り出してくれた。
「俺、小松に伝えたいことあって」
覚悟を決めて、小松に正面から向き合う。
「好きなんだ、小松のこと」
もう怖くない。想いを口にしても、きっと大丈夫。
だって、だから、好きになったんだ。
自分でも不思議なほど落ち着いて、小松の目を見つめることができた。
「その、人としてとか、友達としてとかじゃなくて……あのチョコ、そういう意味だから」
「ありがとう」
「あの、えっと、ごめん。それだけ」
「いいよ!」
小松はでっかい笑顔で言ってくれた。俺の大好きな笑顔。
こんな風に即答で許してもらえると、男友達を好きになってしまった後ろめたさも消し飛んでいく。
「俺、小松を好きになってよかった」
再会できて、伝えてよかった。これで俺の恋心にもきっぱりと区切りをつけられる。
「成田?なんで泣いてる?」
「あれ、ごめん。泣くつもりなかったんだけどな」
慌てて目元を拭って笑いかけた。優しい小松は自分のせいだと気に病んでしまうだろう。
「ごめんな。なんでもないから」
「本当に?俺、馬鹿だから言ってくれないと分からないんだけど……また何か無神経なこと言っちゃった?」
オロオロと狼狽える小松が優しくて、嬉しくて。ちょっと笑って首を横に振った。
「俺、バイト行かなきゃ。またね」
もうすぐ前期試験。受験生にとっては大事な時期だ。こんな情けない面で行くのはよくないが、遅刻はもっとよくない。マスクで半分顔を隠せていることだけが不幸中の幸いだ。
きっともう、こうやって二人で会うことはないんだろう。それでも、この間のように皆で集まる機会があれば、そのときは逃げずに顔を合わせられるように。「またね」の3文字に願いを込める。
「おう、またな!バイト終わったら連絡しろよ」
「え、なんで?」
来た道をUターンして職場に向かおうと思っていたのに、小松からの不可解な指令にその場を離れられなくなってしまった。
「なんでって、話したいから」
「何を……?」
「何だっていいだろ。ほら、行けよ」
戸惑いで俺が動けないでいると、ヒラヒラと手を振って、小松の方が背を向けて走り出してしまった。
「えっ!終わるの深夜だよ!」
「起きて待ってる!」
背中に言葉を投げるが、そんなこと気にしないと言わんばかりの声量で投げ返されてしまう。
捕まえてどういうことか聞きたくても、そろそろ時間もヤバい。よく分からないまま、仕方なく塾に向かった。
小松にバレているとは思わなかった。
だって、全然態度も変わらなかったし。最初から分かっていたなら、「これお前だろ?」って確かめたくならないか。
今だって、さも当たり前のように、チョコを俺からだと思っていたと爆弾発言を投下していった。
そんな小松の様子を見ていたら、あのときなぜ告白しようと心に決めたのか、ふと思い出してしまった。
こいつは絶対に俺を笑わない。茶化したり、馬鹿にしたりしないって、そう思ったから。
あの頃、声を出すのが怖かった。授業で当てられて、口頭で答えるときの恐怖。答えは合っているはずなのに、なんでクスクスと笑われないといけないのか。なんでそんな顔で俺を見るんだ、と。
塾に通い始めた頃だって、先生以外とはしゃべりたくなかった。なのに、俺がどんなに素っ気ない返事をしても、小松だけは懲りずに何度でも絡んできた。少しずつしゃべるようになって、俺が発音を間違えたと自分で気づいたときも、小松はそのことに何も触れず、話の内容だけを拾って会話してくれたんだ。
そういうところに救われて、惹かれた。小松と再会してほんの少ししゃべっただけなのに、当時の感情がブワッと蘇ってきた。
カフェを出ていく小松の背中を見送りながら、そんなことを考えていた。あいつ相手に、俺は何を怖がっていたんだろうと。
トーコさんは何かを俺に言いかけていたけれど、俺が立ち上がって「ごめん、行ってくる」と告げたら、安心したように笑って送り出してくれた。
「俺、小松に伝えたいことあって」
覚悟を決めて、小松に正面から向き合う。
「好きなんだ、小松のこと」
もう怖くない。想いを口にしても、きっと大丈夫。
だって、だから、好きになったんだ。
自分でも不思議なほど落ち着いて、小松の目を見つめることができた。
「その、人としてとか、友達としてとかじゃなくて……あのチョコ、そういう意味だから」
「ありがとう」
「あの、えっと、ごめん。それだけ」
「いいよ!」
小松はでっかい笑顔で言ってくれた。俺の大好きな笑顔。
こんな風に即答で許してもらえると、男友達を好きになってしまった後ろめたさも消し飛んでいく。
「俺、小松を好きになってよかった」
再会できて、伝えてよかった。これで俺の恋心にもきっぱりと区切りをつけられる。
「成田?なんで泣いてる?」
「あれ、ごめん。泣くつもりなかったんだけどな」
慌てて目元を拭って笑いかけた。優しい小松は自分のせいだと気に病んでしまうだろう。
「ごめんな。なんでもないから」
「本当に?俺、馬鹿だから言ってくれないと分からないんだけど……また何か無神経なこと言っちゃった?」
オロオロと狼狽える小松が優しくて、嬉しくて。ちょっと笑って首を横に振った。
「俺、バイト行かなきゃ。またね」
もうすぐ前期試験。受験生にとっては大事な時期だ。こんな情けない面で行くのはよくないが、遅刻はもっとよくない。マスクで半分顔を隠せていることだけが不幸中の幸いだ。
きっともう、こうやって二人で会うことはないんだろう。それでも、この間のように皆で集まる機会があれば、そのときは逃げずに顔を合わせられるように。「またね」の3文字に願いを込める。
「おう、またな!バイト終わったら連絡しろよ」
「え、なんで?」
来た道をUターンして職場に向かおうと思っていたのに、小松からの不可解な指令にその場を離れられなくなってしまった。
「なんでって、話したいから」
「何を……?」
「何だっていいだろ。ほら、行けよ」
戸惑いで俺が動けないでいると、ヒラヒラと手を振って、小松の方が背を向けて走り出してしまった。
「えっ!終わるの深夜だよ!」
「起きて待ってる!」
背中に言葉を投げるが、そんなこと気にしないと言わんばかりの声量で投げ返されてしまう。
捕まえてどういうことか聞きたくても、そろそろ時間もヤバい。よく分からないまま、仕方なく塾に向かった。
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