思惑交錯チョコレート

秋野小窓

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<り花side>

 塾の自習室で模試の復習をしながら、時間が過ぎるのを待つ。帰り支度をする人たちに気づかないふりをして、自分が最後の一人になるまでノートにペンを走らせた。

「小松さん、そろそろ施錠時間だよ」

 ひょこっと顔を出したのは、狙いどおり成田先生。手を止めて顔を上げる。

「先生、下まで一緒に降りてもらえませんか?」
「え?何かあった?」
「来るとき変な人とエレベーターで一緒になって怖かったんです。また鉢合わせたら嫌だから」

 はい、嘘でーす。

「何かされた?大丈夫?」
「大丈夫です。下まで迎えは頼んであるので、一緒に1階まで降りてもらえるだけでいいんですけど」
「わかった。帰る準備できたら声かけて」

 スマホでメッセージを送ってから荷物をまとめてコートを着込む。マフラーを巻いて、職員室をノックした。

「お待たせしました。お願いします」

 先に入った先生がパネルを操作してくれる。エレベーターの狭い空間の中、こっそり先生を見つめた。
 私が身長高めなのもあって、同じくらいしかない背丈。
 眼鏡に隠された睫毛も、斜め後ろからだとその長さがよく分かる。マスクの下の顔は数回しか見たことがないが、女装映えしそうな人だ。ウィッグをつけるだけでもかなり雰囲気が変わるだろう。

 音を立ててエレベーターの扉が開く。

「り花、どうした?ここまで迎えに来てほしいって……」
「ありがとう、お兄ちゃん!」
「え……」
「成田?」

 エレベーターから降りることなく「閉」ボタンを押そうとした成田先生の動きを察し、ドアを押さえて無理矢理開けさせた。

「先生、それ閉めるボタンですよ」
「小松さんのお兄さんって……」
「成田。待って。俺謝りたくて」

 兄の腕が伸びてきて、成田先生の腕を掴む。謝りたい人の態度じゃない。でもこれがうちのバカ兄ィなのである。

「あ!私、傘置いてきちゃいました!上戻って取ってきますね」
「え、ちょ、ちょっと!」
「成田はこっち」

 うひゃあ、強引。いいぞバカ兄貴。

「すみません、先生!すぐ取ってきますので!」

 エレベーターから引っ張り出される成田先生を見送って、今度こそ「閉」ボタンを押した。
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