思惑交錯チョコレート

秋野小窓

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 大学進学後の兄は、時折LINEの画像を変え、何人かの女の子と付き合ったようだった。男の子とのツーショットが設定されることはなく、私の教育は特に何の実も結ばなかった……と思っていた。

 家族のLINEグループでたまたま母と塾長の定年退職の話をしていたら、兄が突然食いついてきた。そんなに塾長のことが気になっていたのかと思ったら、それを口実にかつての塾仲間と集まる算段だと聞いて歓喜した。

 いつもより念入りに髪型をチェックして出掛けていった兄が、帰宅後ぺしゃんこになっているのは残念だったが。

「でもさ、誰か連絡つくってことじゃん?もう一回聞いてみたら?」
「たしかに!り花、お前頭いいな!」
「バカ兄ィに褒められても嬉しくないわ」

 褒められるのは別に嬉しくない。しかし、BL展開が再燃するなら大歓迎である。

「女装姿、可愛かった?」
「うん。女の子にしか見えなかった」

 マジか。ハイクオリティ。推せる。
 まあ、この兄の目から見た「女にしか見えない」が信用できるかは何とも言えないが……。

 スマホを弄りながら、「あー」だの「うー」だの言ってまた暴れている。

「やっぱり知らないって返事しか来ないぃ」
「嫌われちゃったね。口止めされてるんじゃない?」

 ジタバタとソファの上でもがいている兄を横目に、バッグからプリント類を取り出す。たしか親に渡さないといけない配布物があったはずだ。

 あった。これだ。

「わ」

 横着してバッグの中から1枚出そうとしたら、ファイルに挟んでいた紙が何枚も一緒に飛び出してしまった。

「ん」
「ごめん。ありがと」
「これもか」

 兄が1枚拾って手渡してくれる。もう1枚拾ったところで、紙を見て「ん!?」と大声を上げる。拾ってくれるのはありがたいが、うるさい。何かまずいものでも紛れていただろうか。

「な、何?」

 兄の手から紙を奪い取ると、それは古文のプリントだった。塾の先生が解説を書き込んでくれただけの、特に何もまずくない資料。

「それ、もっかい見せて!」
「いいけど」

 はい、と渡す前に奪い返される。いつの間にか起き上がってソファの上で正座していた兄は、紙面を凝視したまま目を見開いている。

「り花。これ、誰の?」
「私のだけど」
「誰の字?」
「ああ、塾の先生」
「その先生、名前は?」
「成田先生だけど、」
「やっぱり!!」

 それがどうかしたの、という言葉をバカ兄貴の大声が掻き消していく。
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