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<沓子side>
賭けをしていた。彼の名前を出して、小松くんが少しでも思い出すような素振りを見せたら、やっぱりケイくんに直接会ってもらおうって。
なのに、『雰囲気変わった?』だなんて。
ケイくんのことを覚えていたら、私を見てそんな言葉が出てくるわけない。『成田って、嘘だろ?』とか、『成田の姉ちゃん?』とか、そういう反応を待っていたのに。
思わず『デカ松くんなんて好きじゃないから!この鈍感!』と暴言を吐いてその場を去ってしまった。
「……ごめんね、勝手なことして」
「ううん。ありがとうございます」
「私、悔しくて」
私は、恋をしたことがない。
友達として好きだな、っていう気持ちは分かる。仲良くなりたいな、一緒にいたいなっていう気持ちは分かる。
でも、この人を独占したいとか、手を繋ぎたいとかキスしたいとか、そういう感情がよく分からないのだ。
だから、バレンタインのあのバイトは、すごく刺激的な体験だったのである。
職場や家族に買っていく人、自分へのご褒美に買っていく人。そんなお客さんに混ざって、全身から恋するオーラを放っている人たちにもたくさん出会えた。同年代の女の子もいれば、お姉さんもおばあちゃんもいた。ほとんどが女性だった中で、一際印象に残っていたのがケイくんだった。
人を好きになれるって、本当に素敵なことなのに。なんでこんな苦しい思いをしなきゃいけないの?どうしてその気持ちを隠さなきゃいけないの?
そんな個人的な感情を引き合いに出して、暴走してしまった。
「ケイくんのことはバレてないはず。……良くも悪くも」
「うん。なんか、吹っ切れました」
手元の紙ナプキンをギューっと捩って、ケイくんが苦笑する。
「俺にとっては小松が一番の友達だったけど、小松にとってはそうじゃないって分かってたんです」
「ケイくん……」
「あいつ、みんなと仲良くて。そういうところが好きだったんですけどね」
やっぱ無理かぁ~、とこぼしながら、両手を上げて大きく伸びをした。
「スッキリしました。これであの日のチョコのことも片付いたし、トーコさんのおかげです。ありがとうございました」
「ごめんよお。何の力にもなれなくて」
「そんなことないですよ!本当、助かりました」
そう言ってくれるけど、やっぱり私は彼の恋を応援したかったのだ。
恋愛未経験の私なんかでは、もとより不可能なことだったのかもしれない。再び視界が滲み出す。それを見てケイくんが笑った。
「俺、幸せ者ですね。トーコさんがこんな風に泣いてくれて。俺の失恋も、これで浮かばれますよ」
この子、本当にいい子。デカ松め、あとで思い出して後悔しても遅いんだからな!
賭けをしていた。彼の名前を出して、小松くんが少しでも思い出すような素振りを見せたら、やっぱりケイくんに直接会ってもらおうって。
なのに、『雰囲気変わった?』だなんて。
ケイくんのことを覚えていたら、私を見てそんな言葉が出てくるわけない。『成田って、嘘だろ?』とか、『成田の姉ちゃん?』とか、そういう反応を待っていたのに。
思わず『デカ松くんなんて好きじゃないから!この鈍感!』と暴言を吐いてその場を去ってしまった。
「……ごめんね、勝手なことして」
「ううん。ありがとうございます」
「私、悔しくて」
私は、恋をしたことがない。
友達として好きだな、っていう気持ちは分かる。仲良くなりたいな、一緒にいたいなっていう気持ちは分かる。
でも、この人を独占したいとか、手を繋ぎたいとかキスしたいとか、そういう感情がよく分からないのだ。
だから、バレンタインのあのバイトは、すごく刺激的な体験だったのである。
職場や家族に買っていく人、自分へのご褒美に買っていく人。そんなお客さんに混ざって、全身から恋するオーラを放っている人たちにもたくさん出会えた。同年代の女の子もいれば、お姉さんもおばあちゃんもいた。ほとんどが女性だった中で、一際印象に残っていたのがケイくんだった。
人を好きになれるって、本当に素敵なことなのに。なんでこんな苦しい思いをしなきゃいけないの?どうしてその気持ちを隠さなきゃいけないの?
そんな個人的な感情を引き合いに出して、暴走してしまった。
「ケイくんのことはバレてないはず。……良くも悪くも」
「うん。なんか、吹っ切れました」
手元の紙ナプキンをギューっと捩って、ケイくんが苦笑する。
「俺にとっては小松が一番の友達だったけど、小松にとってはそうじゃないって分かってたんです」
「ケイくん……」
「あいつ、みんなと仲良くて。そういうところが好きだったんですけどね」
やっぱ無理かぁ~、とこぼしながら、両手を上げて大きく伸びをした。
「スッキリしました。これであの日のチョコのことも片付いたし、トーコさんのおかげです。ありがとうございました」
「ごめんよお。何の力にもなれなくて」
「そんなことないですよ!本当、助かりました」
そう言ってくれるけど、やっぱり私は彼の恋を応援したかったのだ。
恋愛未経験の私なんかでは、もとより不可能なことだったのかもしれない。再び視界が滲み出す。それを見てケイくんが笑った。
「俺、幸せ者ですね。トーコさんがこんな風に泣いてくれて。俺の失恋も、これで浮かばれますよ」
この子、本当にいい子。デカ松め、あとで思い出して後悔しても遅いんだからな!
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