思惑交錯チョコレート

秋野小窓

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「もう4年経ってるし、実は塾で見かけてたけど恥ずかしくて話しかけられなくて……って言えば、思い出せないだけでこんな子もいたかもしれないって思うじゃないですか」

 たしかに、通学の電車の中でいつも同じ車両になる他校の生徒に淡い片想いをしていた友人もいた。その相手に、過去こっそりチョコを入れたのは私です、と名乗り出るようなものか。
 相手のことを詳しく知らなくても、もちろんこちらのことが知られていなくても不思議ではない、のか?

「私、塾って行ったことないんだけど。名前も顔も知らなくておかしくないものなの?」
「小松はみんな友達みたいな奴ですけど……それでも、学年違えば流石に分からないんじゃないかな」
「じゃあ、1個上ってことでいい?」
「ダメです!それだとチョコ渡したときにはもう卒業してますから。1個下ってことで」

 いや、無理でしょ。3歳サバ読むの?

「やっぱ無理。ごめん」
「いけますって!トーコさんかわいいから!絶対大丈夫!」

 私より長い睫毛した男の子に言われたくない。言われたくないけど、悪い気はしない。現金な私。

「……それで、私がチョコ渡したことにして、どうするの」
「それだけでいいんです」
「はぁ?」

 あのときこっそりチョコ入れたのは私です、それじゃ!
 って、何の意味があるのだろうか。

「もしあいつが覚えてて、誰からだろうってまだ気にしていたとしたら、それだけでいいんです。俺から目を逸らせればいいんで」
「何のために名乗り出たんだってならない?」
「『こんなかわいい子が俺のこと好きでいてくれたんだな』って思うだけで、小松は喜びますよ」

 豪快なデカ松くん。会ったことはないが、何となく想像できてしまった。
 きっと深く考えることもなく、単純に「そっかー」と納得するようなタイプなんだろう。

 それはそれで、何だか悔しい。彼が悩んだ時間の10分の1でもいいから、ちょっとは悩めばいいのに。

「ちなみに、いつなの?」

 ああ、もう。本当に私ってば、お節介。悪巧みを思いついてしまった。

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