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しおりを挟む「じゃあ、あの時買ったチョコは渡せずじまい?」
「一応、渡しました。渡したっていうか、目を盗んでカバンに突っ込んでおいただけだけど」
「え、そうなんだ!誰からか分かってないの?」
分かっていないと思う。ひとつ頷いた。
「伝えたいことがあるって、メモは入れたけど、名前書いてないんで」
「そっかぁ」
多分、勉強のストレスでおかしくなっていたんだろう。卒業して会えなくなってしまう前に、気持ちを伝えたいだなんて思ってしまっていた。
冷静に考えたら、告白などしなくてよかったんだ。できなくてよかった。
「感謝だけ?」
「いや、もうバレてると思いますけど、普通に好きです」
「だよねえ」
朝起きて、小松からのLINEが届いていたら、どんなに寝不足でも一瞬で目が覚めた。塾で姿が見えると嬉しくて、言葉を交わせるともっと嬉しくて。他の誰かと親しそうにしゃべっていると気になって聞き耳を立ててしまうし、その笑顔が自分に向くとずっと笑っていてほしいと思ってしまう。
「高校卒業後は?」
「それが全然」
お互い大学生になって、新生活に必死だった。少なくとも俺はそうだった。世の中も疫病の流行でざわついていて、気軽にまたみんなで集まろうなどと言える状況ではなかったのもある。
「さっきチョコ買おうとしてたのは……?」
「そう!それなんですよ!」
「ど、どうしたどうした?」
俺の勢いにタジタジとなる。大事なことを思い出してしまったんだ。
「今度、うちの塾に来るらしくて!」
「うちの?」
当時、塾生として通っていた塾で、今はアルバイト講師をしているのだ。それも今年度で大学卒業とともに辞めることになるのだが、同じタイミングで塾長が定年を迎え退職するのである。
誰が言い出したのか、塾長に挨拶に行こうという計画が持ち上がっていた。
「ってことは、来月?」
「いえ、来月だと集まれないメンバーがいるから、今月みんなで行こうっていう話になってるみたいで」
なぜ俺が他人事のようになっているかというと、チョコを捩じ込んだ一件から小松を避けるようになってしまったためである。塾で仲がよかったメンバーのLINEグループは、携帯の故障を理由に抜けてしまい、個人的にも連絡を取っていない。今回の来訪については、職場である塾から漏れ伝わってきた情報なのだ。
「あの、お願いがあるんですけど……」
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