思惑交錯チョコレート

秋野小窓

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<ケイside>

 なめらかなチョコレートが舌の上でゆっくり溶けていく。
 変な人だと思った。でも、彼女の言葉で、あのとき背中を押してくれた人物だとすぐに気づいた。

「後悔しているんです。なんで告白なんてしようと思ったのか」
「したんですか?告白」

 ゆるゆると首を振る。できなかったんだ。

「受験が終わったら、仲のよかったメンバーで集まろうって約束してたんですけど。例の感染症の件で流れちゃって」
「ああ、そっか。2020年でしたもんね」

 仲のよかった塾のメンバー。小松勇至の他にも、何人かで遊ぶはずだったんだ。

 誰にも相談できなくて。こんな気持ちは間違ってると何度も思って。
 最初は、ありがとうと伝えるつもりだったんだ。

「小松は、俺の恩人なんです。俺、高校で馴染めなくて」

 いじめなんて名前のつくようなものじゃない。ただ、俺がしゃべると、どこからかクスクスと笑い声が聞こえてくるのだ。

「なんで?」
「俺が、訛ってるから」
「全然分からないよ」
「でしょ?方言使わないようにしてたのに、なんかやっぱ変だったみたいで」

 親の都合での引っ越しだった。標準語はテレビを通じて身についていると思っていたから、なんで笑われるのかまったく見当がつかなかった。
 今は意識してイントネーションに気をつけるようにしている。こちらでの生活も長くなったのもあって、高校時代よりはずっと、標準語もうまくなったはずだ。

「気づいたら、人前でしゃべるのが怖くなってて」

 暴力を振るわれるわけでも、物を壊されたり盗まれたりするわけでもない。だから、これはいじめじゃなくて、俺が馴染めなかっただけなんだ。今でもそう思っている。だけど。

「まるで、空気になった気がしました」

 笑われないように、存在を消して。自分でそうした。
 少しだけ楽になって、同時に言いようもないくらい虚しくなった。

 そんな時に、小松と出会った。

「小松は俺が黙ってても、しつこいくらい話しかけてくるんです。あ、俺、こいつには見えてるんだなって思って。……当たり前なんですけど」
「なんか分かるかも」
「うん。それがすごく嬉しくて。塾でだけは、息を殺してなくていいんだって思いました。普通に笑えるようになって、普通にしゃべれるようになって、友達もできて」

 小松だけじゃない。他にも友達ができた。
 塾に居場所ができなかったら、もしかしたら高校に通うのが途中で辛くなってしまっていたかもしれない。勉強についていくこともできなくて、前向きに受験に取り組むこともできなかっただろう。

「全部、小松がくれたんです」
「……どんな子なの?」
「なんて言うか、豪快なヤツですよ。声がデカくて、態度もデカくて、体もデカいから、たまにデカ松って呼ばれてました」
「あはは!」

 悪気なく失礼なことも言うし、見ていてヒヤヒヤするところもあるけど、不思議と憎めない。そんな人だ。
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