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<沓子side>
左へうろうろ。右へうろうろ。チラっと立ち止まり、店員からの「いらっしゃいませ」の声掛けにまた足を進める。
何年か前にも、見かけた姿。男の人にはチョコ売り場は居心地悪いよね。皆同じような行動を取るのだなと、周りに気づかれないくらい小さく笑った。
目の前の男の子がこちらを振り返り、棚の前を譲ってくれた。すぐに伏せてしまったその顔。マスクをしているが、あの時のお客さんではないか?
「あの……!買わなくていいんですか?」
「ぁ、ハイ……」
びっくりしたように見開いた目。縁取る睫毛の長さ。やっぱりそうだ。
「“男の人から贈ってもいいと思いますよ。きっと喜ばれると思います”」
「え?」
余計なお世話だって分かってる。過去、ショーケースの向こう側から掛けた言葉。
あの年、私は店員側だった。催事に合わせた短期のアルバイト。何度も横目で商品を見ながら往復を繰り返し、意を決したように箱を手に取った彼の姿は妙に記憶に焼きついていた。
『これって、男から贈ってもいいんですよね?』
恥ずかしさと覚悟がないまぜになった表情。恋をしている人って、どうしてこんなにキラキラしているんだろう。
『はい、もちろんです!いいと思いますよ。きっと喜ばれると思います』
私の言葉に、色白な彼の頬にサッと朱が差す。
想いが伝わりますように。こんなに真っ直ぐ想ってもらえる女の子は幸せだな。ふわふわウキウキした気分で紙袋に小箱を詰めた。
左へうろうろ。右へうろうろ。チラっと立ち止まり、店員からの「いらっしゃいませ」の声掛けにまた足を進める。
何年か前にも、見かけた姿。男の人にはチョコ売り場は居心地悪いよね。皆同じような行動を取るのだなと、周りに気づかれないくらい小さく笑った。
目の前の男の子がこちらを振り返り、棚の前を譲ってくれた。すぐに伏せてしまったその顔。マスクをしているが、あの時のお客さんではないか?
「あの……!買わなくていいんですか?」
「ぁ、ハイ……」
びっくりしたように見開いた目。縁取る睫毛の長さ。やっぱりそうだ。
「“男の人から贈ってもいいと思いますよ。きっと喜ばれると思います”」
「え?」
余計なお世話だって分かってる。過去、ショーケースの向こう側から掛けた言葉。
あの年、私は店員側だった。催事に合わせた短期のアルバイト。何度も横目で商品を見ながら往復を繰り返し、意を決したように箱を手に取った彼の姿は妙に記憶に焼きついていた。
『これって、男から贈ってもいいんですよね?』
恥ずかしさと覚悟がないまぜになった表情。恋をしている人って、どうしてこんなにキラキラしているんだろう。
『はい、もちろんです!いいと思いますよ。きっと喜ばれると思います』
私の言葉に、色白な彼の頬にサッと朱が差す。
想いが伝わりますように。こんなに真っ直ぐ想ってもらえる女の子は幸せだな。ふわふわウキウキした気分で紙袋に小箱を詰めた。
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