あなたはミラ

秋野小窓

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「え?今何て……?」

 思わず箸を取り落としそうになる。

「だから、解約の手続きしてきた。家の」

 聞き間違いじゃない。
 この間車の中で言っていた「うん」は本気だったってこと……?

「あの、じゃあ……ここに、ずっと住んでくれますか?」
「うん」

 まじか。

「あ、あの、めちゃくちゃ嬉しいです」
「うん」

 何でもないことかのように、食事を続けながら返事をする柳井さん。

「実際には、1か月後だけど。それまでに荷物片付ける」
「俺、手伝います!」
「ありがとう」

 それにしても、本当にいいんだろうか。恋人が他の男と二人で住んでるなんて、俺だったら絶対嫌だけど。
 ……まあ、あんなこと平気で言うような変な人だから、あいつは気にしないのかもしれないが。

「何」
「あ………いや、このこと、あの人は知ってるのかなー、と」
「誰」
「あの、この間会ったスーツの……」

 柳井さんの眉間に皺が寄る。
 やばい、余計なこと言ったかも。

「関係ない」

 で、ですよね……。俺と一緒に住んでくれるだけで、別にそういうことを期待していいわけじゃないですもんね。
 バッサリ言われて、さすがに閉口する。

「す、すみません」
「何か勘違いしてないか?」
「いや、すみません。ホントですよね」
「………」

 ただの同居人の分際で、勘違いも甚だしい。
 恥ずかしい。時間を巻き戻したい。消え入りたい気持ちだ。

「ごちそうさま」
「あ……俺片付けるので、風呂どうぞ」
「分かった」

 あんなに幸せだったのに、俺の発言で柳井さんを不機嫌にさせてしまった。ごめんなさい……。

 いいことだけ考えよう。これからも柳井さんが一緒に住んでくれる。それだけで最高じゃないか。
 あわよくば……の気持ちは捨てきれないが、それは今じゃない。ずっといてくれるなら、チャンスはまだまだあるはずだ。

 まずは、何が何でも税理士資格を早く取る。すっかりサボってしまっていた勉強習慣を取り戻して、柳井さんに寝かしつけてもらうのはやめる。柳井さんに頼りっぱなしのことを改めよう。
 それから、料理とアイロンを覚える。料理は少しずつ教えてもらっているが、今度アイロンも借りてみよう。自分のワイシャツで練習して、柳井さんのシャツも俺が代わりにアイロン掛けできるようになれば、もっと家事分担しやすくなるはずだ。
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