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「重谷、俺帰るけど。勤怠もう切ってるんだろ?ほどほどにしろよ」
「あ、はい」
時計を見ると、23時を過ぎていた。
「俺も帰ります」
「そうか?じゃあ鍵閉めるから、片付けて」
「はい、すみません」
データを保存してPCを閉じる。荷物をいい加減に突っ込んで、鞄と小さな包みを持つ。
お弁当……あれから毎日作ってくれている。
ーー柳井さん……。
「おーい、まだ?」
「あ、今行きます!」
電気を消して事務所を出る。セキュリティをONにして、先輩が施錠する。鍵を掛けながら、
「何かあった?」
と声を掛けてくれる。
「買い物から戻ってから様子変だぞ」
「すみません」
「いや、いいんだけど」
男に投げかけられた言葉が消化できないまま耳にへばりついている。
「あの、『締まりがいい』ってどういう意味ですかね……」
「は?下ネタかよ」
「ですよね……」
やっぱり、それしか考えられない。
「話題と表情合ってねーぞ。何だよ、この世の終わりみたいな顔して。飲み行くか?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
帰って彼がいなかったらどうしよう。その時はきっと、あの男のところにいるということなんだろう。現実を知るのが怖くて、家路への足取りが重い。
しかし予想に反して家の明かりは点いていた。柳井さん、帰っていたんだ。
「………ただいま」
「遅い」
「柳井さん……」
何と声を掛けたらよいか分からずにキッチンに目を遣る。
「まだ夕飯食べてなかったんですか?」
「もう夕飯じゃなくて夜食だ」
「先に食べていてくれてよかったのに……すみません」
そこまで気が回っていなかった。申し訳ないことをした。
ボソリ、と柳井さんが何か呟いた。
「え?」
「早く手洗ってこい」
「はい」
今、何と言ったんだろう。気まずいのは俺だけなんだろうか。柳井さんの態度は、今日の出来事なんて何もなかったみたいに見える。
男のことを訊きたい気もするが、核心に触れることでこの関係が壊れてしまうかもしれない。そう思うと切り出せなかった。
「あ、はい」
時計を見ると、23時を過ぎていた。
「俺も帰ります」
「そうか?じゃあ鍵閉めるから、片付けて」
「はい、すみません」
データを保存してPCを閉じる。荷物をいい加減に突っ込んで、鞄と小さな包みを持つ。
お弁当……あれから毎日作ってくれている。
ーー柳井さん……。
「おーい、まだ?」
「あ、今行きます!」
電気を消して事務所を出る。セキュリティをONにして、先輩が施錠する。鍵を掛けながら、
「何かあった?」
と声を掛けてくれる。
「買い物から戻ってから様子変だぞ」
「すみません」
「いや、いいんだけど」
男に投げかけられた言葉が消化できないまま耳にへばりついている。
「あの、『締まりがいい』ってどういう意味ですかね……」
「は?下ネタかよ」
「ですよね……」
やっぱり、それしか考えられない。
「話題と表情合ってねーぞ。何だよ、この世の終わりみたいな顔して。飲み行くか?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
帰って彼がいなかったらどうしよう。その時はきっと、あの男のところにいるということなんだろう。現実を知るのが怖くて、家路への足取りが重い。
しかし予想に反して家の明かりは点いていた。柳井さん、帰っていたんだ。
「………ただいま」
「遅い」
「柳井さん……」
何と声を掛けたらよいか分からずにキッチンに目を遣る。
「まだ夕飯食べてなかったんですか?」
「もう夕飯じゃなくて夜食だ」
「先に食べていてくれてよかったのに……すみません」
そこまで気が回っていなかった。申し訳ないことをした。
ボソリ、と柳井さんが何か呟いた。
「え?」
「早く手洗ってこい」
「はい」
今、何と言ったんだろう。気まずいのは俺だけなんだろうか。柳井さんの態度は、今日の出来事なんて何もなかったみたいに見える。
男のことを訊きたい気もするが、核心に触れることでこの関係が壊れてしまうかもしれない。そう思うと切り出せなかった。
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