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事務所のトイレットペーパーが切れた。事務用品の通販で発注はかけてくれたようだが、いつも翌日に届くのが今回は品切れか何かで遅延していたらしい。
時刻は19時半。事務さんたちにはもう上がってもらっている。
「俺買ってきますよ」
「いいよ、明日佐藤さんに頼むから」
「でも今日まだ残業しますよね?大丈夫だとは思いますけど、そんなことで心配したくないので。すぐですし」
コンビニが一番近いが、少し歩けばドラッグストアがある。財布と携帯だけ持って事務所を出た。
信号を渡り、銀杏並木を横目に通り過ぎようとしたところで、見慣れたシルエットが視界に飛び込んできた。
ーー柳井さんだ。……ん?
何か揉めているんだろうか。男が柳井さんの腕を掴むのが見え、思わず駆け寄る。
「柳井さん!」
二人の間に割って入り、男の腕を取る。
「大丈夫ですか!?」
スーツ姿の男をキッと睨んで威嚇する。
男は一瞬驚いた顔をして、そのあとすぐにニヤニヤと笑いはじめた。なんだこいつ。気味が悪い。
「へえ……?京、男の趣味変わった?」
「違う。泰歩、大丈夫だから。行っていいよ」
大丈夫?本当に?
苦虫を噛み潰したような柳井さんの表情からは、決して歓迎できる相手じゃないことがすぐに分かった。
男は柳井さんの腕を離したが、俺の肩に手を置いて耳打ちしてくる。
「 」
聞いた瞬間、頭が真っ白になる。
「泰歩。この人の言うこと気にしなくていいから。早く行け」
呆然とする俺を男から引き剥がし、背中を押される。
ーー今、あいつ、なんて言った……?
そこからはよく覚えていない。とぼとぼとトイレットペーパーをぶら下げて事務所に帰り、先輩に声を掛けられて初めて我に帰った。
「おい、重谷、大丈夫か?」
「え……?」
「顔、真っ青だぞ」
呆けている場合ではない。明日は柳井さんと出掛ける日だから、早く仕事を切り上げなければならないんだ。今日のうちに明日の分も進めておかないと。
明日……。約束どおり、柳井さんは俺と出掛けてくれるんだろうか。
その前に、今日、きちんと家に帰ってきてくれるだろうか。
考えれば考えるほど不安になってくる。
俺は邪念を振り払うように、仕事に没頭した。
時刻は19時半。事務さんたちにはもう上がってもらっている。
「俺買ってきますよ」
「いいよ、明日佐藤さんに頼むから」
「でも今日まだ残業しますよね?大丈夫だとは思いますけど、そんなことで心配したくないので。すぐですし」
コンビニが一番近いが、少し歩けばドラッグストアがある。財布と携帯だけ持って事務所を出た。
信号を渡り、銀杏並木を横目に通り過ぎようとしたところで、見慣れたシルエットが視界に飛び込んできた。
ーー柳井さんだ。……ん?
何か揉めているんだろうか。男が柳井さんの腕を掴むのが見え、思わず駆け寄る。
「柳井さん!」
二人の間に割って入り、男の腕を取る。
「大丈夫ですか!?」
スーツ姿の男をキッと睨んで威嚇する。
男は一瞬驚いた顔をして、そのあとすぐにニヤニヤと笑いはじめた。なんだこいつ。気味が悪い。
「へえ……?京、男の趣味変わった?」
「違う。泰歩、大丈夫だから。行っていいよ」
大丈夫?本当に?
苦虫を噛み潰したような柳井さんの表情からは、決して歓迎できる相手じゃないことがすぐに分かった。
男は柳井さんの腕を離したが、俺の肩に手を置いて耳打ちしてくる。
「 」
聞いた瞬間、頭が真っ白になる。
「泰歩。この人の言うこと気にしなくていいから。早く行け」
呆然とする俺を男から引き剥がし、背中を押される。
ーー今、あいつ、なんて言った……?
そこからはよく覚えていない。とぼとぼとトイレットペーパーをぶら下げて事務所に帰り、先輩に声を掛けられて初めて我に帰った。
「おい、重谷、大丈夫か?」
「え……?」
「顔、真っ青だぞ」
呆けている場合ではない。明日は柳井さんと出掛ける日だから、早く仕事を切り上げなければならないんだ。今日のうちに明日の分も進めておかないと。
明日……。約束どおり、柳井さんは俺と出掛けてくれるんだろうか。
その前に、今日、きちんと家に帰ってきてくれるだろうか。
考えれば考えるほど不安になってくる。
俺は邪念を振り払うように、仕事に没頭した。
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