あなたはミラ

秋野小窓

文字の大きさ
上 下
20 / 38

20

しおりを挟む
「ただいま」
「お帰りなさい!」

 パタパタと玄関に駆けつけた俺に、

「いーにおい」

と最高の一声をかけてくれる。

「シチュー作ってみました!」
「やるじゃん」

 やった。褒められた。
 時刻は20時過ぎ。閉館後もいろいろと仕事があるんだな。
 いつもは俺の方が遅いから、柳井さんがいつ頃帰ってきているのか知らなかった。

「おいしいですか?」
「まあまあ」
「よかったです」

 知っている彼と、知らない彼。まだ知らないことの方が圧倒的に多い。

「今日、最後まで起きて観られましたよ」
「それが普通だから」
「うっ……」

 ぐうの音も出ない。

「でも、最近夜寝られてるおかげです。ありがとうございます」
「どういたしまして」
「あと、やっぱり柳井さんの解説好きです」

 最後まで聞けて本当によかった。ベッドで聞いたら何回やってもらっても最後まで聞けないだろうし。

「泰歩、来週の木曜は何時に帰ってくる?」
「え?……っと、いつもどおりですけど、早められますよ」

 事前に分かっていれば調整は可能だ。

「星観に行くか」
「え!いいんですか!行きたいです!」

 明日は断念したが、思わぬ誘いでデートが実現しそうである。

「その日何かあるんですか?」

 ウキウキして尋ねると、柳井さんの冷たい目。

「……本当に起きてたか?」
「え、解説のときに言ってました!?」

 思い出せ。えっと、えっと………。

「あっ!お月見?」
「中秋の名月」
 
 当たりだ。星、と言うから月のことだと思わなかった。

「どこに観に行くんですか?」
「山」

 山、か。月なら街中からでも見られるが、柳井さんが行きたいところならもっと綺麗に見られるんだろう。

「そんな高いところ行かないけど、防寒していけよ」
「分かりました!」

 明日は平日できなかった分の勉強をしようかと思っていたが、出かける準備もしておこう。柳井さんの布団も干してあげたいし、なんだかんだやることはいろいろあるな。

「明日出かけるんですよね、ごはんも外ですか?」
「いや、夜には帰る」
「分かりました。料理教えてくれる話、もしよかったら夕飯一緒に作りたいです」
「うん」

 献立の相談をして、買い物リストを作って。なんだか調理実習みたいだ。柳井さんが来る前はいつもどんな風に休日を過ごしていたのか思い出せなくなるくらい、充実している。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。 仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。 基本は受け視点(一人称)です。 一日一花BL企画 参加作品も含まれています。 表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!! 完結済みにいたしました。 6月13日、同人誌を発売しました。

柔道部

むちむちボディ
BL
とある高校の柔道部で起こる秘め事について書いてみます。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

処理中です...