あなたはミラ

秋野小窓

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 いつもならまだ勉強を続けている時間だが、頭を切り替えられずに早めにベッドに入ることにした。

「充電とかも適当に使ってくださいね」
「ありがとう」
「おやすみなさい」
「おやすみ」

 あの人の声で、おやすみが聞けるなんて。感動である。
 これがプラネタリウムなら、彼の心地よい声で眠くなるはずなんだが。今日はむしろ興奮して覚醒してしまった。

 眠れずにもぞもぞと体勢を変えながら睡魔の訪れを待つが、うるさかっただろうか。

「眠れないのか?」

 柳井さんの声。

「夜眠れなくて昼休みに来てるの?」
「………すみません」
「泰歩、クマすごいから気になってた」

 うわ。自分では気づいていなかった。

「そんなに顔に出てました?」
「うん」
「もうバレてるんで言いますけど、柳井さんの解説だと眠れるんです。他の人じゃダメで……」

 子守唄代わりにしてごめんなさい。

「何か話す?」
「ありがとうございます。運転中、いろいろ話してたじゃないですか」
「うん」
「あれ、でも別に眠くならなくてですね……」

 今こうして話していても、あったかい気持ちにはなるが眠くはならない。

「俺、柳井さんのあの解説だからいいのかもしれないです」

 あの、一定のリズムの穏やかな声。

「やってあげようか」
「えっ!」

 ガバッと上体を起こす。左側の布団を見ると、先ほど勉強中に声をかけてくれたときのような優しい微笑み。

「い、いいんですか……?うち、プラネタリウムはないですけど」
「あった方がやりやすいけど、なくても話せるよ」
「お、お金、払わないと……」
「助けてもらったお礼」

 こんなサービスがあるなら、一生だって泊まっていってほしいくらいだ。

「嬉しいです、ありがとうございます」
「じゃあ、目閉じて」
「はい……」

 もう一度ベッドに横たわり、瞼を下ろす。

「秋の星座には、物語の登場人物が勢揃いしています。北の空、ここに見えるのが、ケフェウス座。古代ギリシャ時代の国エチオピアの王様、ケフェウスの姿です」

 星座の名前を言うときには、少しだけゆっくりになる。
 今日、女性の声で聞いたばかりの話だから、星が見えなくても何となく覚えている。

「その隣、アルファベットのWの形の有名な星座があります。ここに見えるのが、カシオペヤ座。ケフェウス王の妻、王妃カシオペヤの星座です。ケフェウス王と王妃カシオペヤには、一人娘のアンドロメダがいました……」
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